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H銀行行員うつ病自殺控訴事件【うつ病・自殺】
- 事件の分類
- うつ病・自殺
- 事件名
- H銀行行員うつ病自殺控訴事件【うつ病・自殺】
- 事件番号
- 札幌高裁 − 平成17年(ネ)第73号
- 当事者
- 控訴人個人1名
被控訴人株式会社H銀行 - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2007年10月30日
- 判決決定区分
- 控訴棄却(上告)
- 事件の概要
- 被控訴人(第1審被告)に雇用される行員Aは、平成13年2月22日に自殺した。Aの父親である控訴人(第1審原告)は、Aの自殺は、労働時間、業務内容、上司の指導において過重な負担を負わせたことによるものであり、被控訴人は不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)の責任を負うと主張して、総額1億3000万円の損害賠償を請求した。
第1審では、Aの業務と自殺との間には相当因果関係が認められないとして、控訴人の請求を棄却したことから、控訴人がこれを不服として控訴したものである。 - 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 1 Aの自殺と業務等との相当因果関係
認定された事実によれば、特にAについて過酷な業務が強いられていたわけではなく、Aの上司による部下に対する指導として許された限度を超えた過度に厳しい指導があったわけではないが、Aは、平成12年10月、本件推進担当に任命され、本件支店及びAに課せられた投資信託の販売目標を達成すべく熱心に仕事に取り組んでいたが、思うように販売実績を上げることができず、本件渉外会議において、支店長から厳しく注意されるなどして、相当の精神的負担を感じており、そのために軽症うつ病エピソードに罹患していたことも一つの原因となって自殺したものというべきである。
2 被控訴人の過失又は債務不履行の有無
一般に、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身を損なうことがないよう注意する義務を負うと解され、その義務違反があった場合には、雇用契約上の債務不履行(いわゆる安全配慮義務違反)に該当するとともに、不法行為上の過失をも構成すると解すべきである。
前記の通り、Aは仕事上相当の精神的負担を感じており、そのため軽症うつ病エピソードに罹患したことも一つの原因となって自殺したものというべきである。しかし、冬季休暇を取った際に引継書を提出せずに仕事を休み、電話連絡もつかなかったという事情はあるものの、その後にAが出勤した同月15日以降、Aには被控訴人において把握し得る異常な言動はなく、その他にAが軽症うつ病エピソードに罹患していることを窺わせる事情を被控訴人において把握していたとも認められず、さらに、Aから健康状態等を理由に業務の変更等を求める申し出もなかったことに照らすと、被控訴人において、Aの自殺等不測の事態が生じ得る具体的危険性まで認識し得る状況があったとは認められないから、Aの精神状態に特段配慮し、労働時間又は業務内容を軽減するなどの措置を採るべき義務が生じていたということはできない。また、平成13年2月19日、次長がAに対し、N社に関するファームバンキングサービスの解約について確認した際のやり取りに特段不適切な点は認められないし、Aは次長から解約について確認されると突然本件支店を飛び出し、そのまま行方不明になり、その3日後自殺に至ったのであるから、被控訴人において、Aの自殺を防止するための措置を採ることができたとは認められない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例951号82頁
- その他特記事項
- 本件は上告された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
札幌地裁 − 平成14年(ワ)第2587号 | 棄却(控訴) | 2005年01月20日 |
札幌高裁 − 平成17年(ネ)第73号 | 控訴棄却(上告) | 2007年10月30日 |