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電信電話会社配転無効確認等請求事件

事件の分類
配置転換
事件名
電信電話会社配転無効確認等請求事件
事件番号
東京地裁 - 平成15年(ワ)第23800号
当事者
原告 個人8名 A~H
被告 電信電話会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2007年07月25日
判決決定区分
棄却
事件の概要
被告は、東日本地域における電気通信業務を行う株式会社であり、原告らは、電信電話公社に採用され、その後の経営形態の変更により被告に雇用されている従業員であり、いずれも電気通信産業労働組合(電通労組)の組合員である。

  被告は、経営状態の悪化を背景に、平成13年4月、「NTTグループの事業構造改革」を打ち出し、その一環として雇用形態の改革を行うこととし、(1)繰延型(平成14年度51歳以上の社員が同年4月末に被告を退職し、子会社に再雇用されて60歳定年まで勤務した後、更に契約社員として最長65歳まで雇用される。勤務地は限定的だが給与が15〜30%低下するが激変緩和措置として60歳以降給与加算が行われる)、(2)一時金型(雇用形態はと同様で、被告退職時に一時金を受給する)、(3)60歳満了型(被告及びグループ会社で、法人営業等の業務に従事する。全国転勤、業績給となる)の3つの雇用形態を提示し、従業員らに選択を求め、いずれも選択しない場合には(3)を選択したものとみなす旨通告した。

  原告らは、雇用形態の改革に反対していずれも選択をしなかったことから、被告は(3)を選択したものとみなし、法人業務等に関する研修を行った上で、原告らを首都圏に配置転換させた。
  これに対し原告らは、勤務地は採用された地方局管内に限定され、管外への配転については本人の同意が必要なところ、本件配転についてはいずれも本院の同意がないこと、本件命令は、家族的責任を有する男女労働者の機会及び均等の待遇に関する条約(ILO156号)等の国際条約、配転する場合に当該労働者の育児又は介護の状況に配慮すべき義務を定めた育児・介護休業法26条に反するほか、51歳以上という年齢のみで差別することから憲法14条1項、労基法3条、民法90条に違反し無効であること、業務上の必要性がなく、退職・再雇用型を選択しない報復として行ったことから権利濫用であること、単身赴任を強いられることにより原告らは家庭生活上重大な不利益を受けること等を主張し、本件配転命令の無効の確認と、原告各人につき300万円の慰謝料を請求した。
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
判決要旨
1 勤務事業所、勤務限定の合意の有無

  被告就業規則等において、社員の勤務場所の変更につき何ら限定を加えておらず、いずれの原告も電電公社への採用に当たり規則を遵守する旨の誓約書を交付している。他方原告らは、求人広告の内容や、面接担当官の発言から、勤務場所を採用に係る地方局の管内に限定する合意が成立していたと主張するが、上記求人広告は勤務場所を「東京都内の電報電話局等」ないし「東北6県内の無線中継局等」としており、必ずしも勤務場所を限定する趣旨であったと断じ得るようなものではない。また、原告主張のような趣旨を面接官が述べたことは認められるものの、上記発言のみを取り出しても、余りに断片的なものというほかないし、このような発言があったとしても、これが直ちに将来にわたっての勤務場所をその管内に限定する趣旨とまで解することはできない。以上によれば、採用管理局管内以外の勤務場所には一切就かせないという趣旨で、原告らの勤務場所の範囲を限定する旨の合意が入社時点において成立していたと認めるには足りない。

  また原告らは、勤務場所につき、採用管理局管内に限定することが労使慣行として確立し、この内容が労働契約の内容となっていると主張する。確かに、本件命令以前における原告らの勤務場所は長きにわたり変動がなく、少なくとも、いずれの原告らの勤務先所在地も、採用に係る地方局管内に留まっているとみられる。しかしながら、長期雇用を基礎とする我が国において、柔軟な配置転換が広く行われてきたという雇用慣行の存在に照らすと、このような勤務場所の固定化という事実は、単に勤務場所に変動がなかったという事実の集積に留まるとみる余地は十分に存するから、それが労働契約に影響を与える労使慣行として確立したと評価するには、これが法的な行為準則として確立しているかどうかを検討する必要がある。そして、(1)就業規則等の配置換えに関する定めは、社員の配置を柔軟かつ効率的に行うことを想定したものと解されること、(2)社員の圧倒的多数で組織されるNTT労組が被告と締結した社員の配置転換に関する協定でも、勤務場所の指定につき何らかの制約を加えている形跡はみられないこと、すなわち社員の多くは、その勤務場所が採用に係る地方局の管内に労働契約上限定されるとの認識は有していないとみられること、以上によれば、勤務場所を限定する合意があるとの原告らの主張は採用することができない。

2 本件命令が国際法規、国内法規等に違反するか

  被告の行う構造改革等一連の施策は、(1)固定電話関連業務コストを極力削減する趣旨から、社員が被告を退職し、被告在職時より低い賃金水準になってOS子会社と新たな労働契約を締結するOS化施策と、(2)収益性を確保するという事業構造転換施策(それに伴う組織改編と人的配置)から成るものと評価することができる。原告らは、退職・再就職型か満了型のいずれの型をも選択しない場合に満了型を選択したものとみなす意思の擬制は許されないと論難するが、退職・再雇用型を選択して退職するか否かの意思の表明を求めるものであるから、退職・再雇用型を選択しない場合には、被告が勧奨する合意退職を受け容れないものとして、従前通りの被告との労働契約関係が継続するとするのは当然のことといえる。

OS化施策による使用者及び賃金体系の変更を主要な変更点とする労働条件の変更は、就業規則の不利益変更のような一方的な労働条件の変更とは異なり、労働者の合意を媒介とする個別的な労働条件の変更であるから、かかる労働条件の変更の違法性ないし効力の問題は、個々の労働者ごとに相対的に決せられるべきものであって、画一的・全体的にその違法性ないし効力を論定するのは相当でないというべきである。

  本件命令により、原告ら(原告G、C及びHを除く)が単身赴任しているところ、上記原告らは、このような単身赴任を強いる本件命令がILO156号条約3条1項、ILO165号勧告20項に違反すると主張する。しかしILO156号条約は3条1項は、締約国に対し同条項所定の政策策定と実施を義務付けるに留まり、締約国内で行われた私法上の法律行為等の効力までをも規律する規定であるとは解し難い。また、ILO165号勧告も、国際法上の法規範ではないのであるから、同勧告に抵触するか否かにより本件命令の効力が左右されるものではない。

  育児・介護休業法26条は、事業主に対し、配置転換に当たり子の養育や家族の介護を行っている労働者につき、その子の養育又は家族の介護の状況を配慮すべきことを義務付けたものであり、それを超えて配置転換命令の効力を律するものとは解されないから、権利濫用該当性を判断する一要素として勘案されることはともかく、同条を理由として本件命令の効力は何ら左右されない。

  原告らは、本件命令は満51歳以上の社員に対してのみ命じられたとして、憲法14条1項、労基法3条及び民法90条に違反すると主張するが、OS化施策及びこれに伴う年齢に応じた雇用形態の選択と、配転命令である本件命令とは、一応別個の問題であって、本件命令は原告らの年齢を理由とするものではないから、原告らの主張は失当である。

3 本件命令が人事権の濫用に当たるか

(1)原告B、C及びH

  原告B、C、H(原告Bら)は、OS子会社から被告に復帰することになったが、本件命令当時、復帰しても元の職場に従事し得る状況にはなく、再配置の必要が生じていたとみるのが相当である。また、本件命令と同時に、人員規模を150名程度とする販売PTの発足が予定されていたのであるから、同部門に人員を充てる必要があったことは否定し難い。

原告C及びHが、本件命令以前において、営業業務の経験を有しないことは明らかであるし、原告Bは電話勧誘による販売業務に従事した経験を有していたものの、その経験は営業に係るキャリアとしてはさほど重視できるものではないと評するのが相当である。してみると、原告Bらの職務経歴と販売PTでの業務を単純比較すると、両者の連続性・関連性は極めて希薄といわざるを得ない。しかし、職務適合性も配置転換の要件である「業務上の必要があるとき」の判断の一要素となり得るものではあるけれども、実際問題として、配置転換の要因となる事情は様々で、これを実施する個々の具体的状況に応じて、その考慮要素やその重点の置き方も異なり得ること、更には人事配置における労働者と業務との適合性適合性は当該労働者のキャリア経歴のみからは直ちに判別し難く、実際には当該労働者をその職に就けた後でなければ真の適合性は判断し難い面があることをも勘案すると、人選の合理性の評価・判断においても、キャリア経歴と異動先の業務との連続性、親和性などを過大に重視して人選の合理性を評価・判断するのは相当でない。してみると、上記原告らに再配置の必要が生じていたという事情がある本件において、人選の合理性を評価・判断するに当たっても、厳格な連続性、関連性を前提とする高度の職務適合性を求めるのは相当でないし、またそうであれば、原告Bらを販売RTに異動対象と選定した過程は合理性を認めるに足りるものといえるから、本件命令が人選の合理性を欠くものであると評することはできない。

原告Bらは、本件命令が退職・再雇用型を選択しなかった同人らに対する報復の目的でなされたと主張するが、満了型社員の全てが販売PTに異動となったものではないこと、本件人事方針は、施策を効果的に進め、かつ満了型社員と退職・再就職型を選択してOS子会社へ転籍した社員との人事上の公平を確保する趣旨でとられたものであること、販売PTが満了型等社員の就業場所を確保する意味が込められていた可能性は否定できないが、固定電話関連業務は著しく減少し、被告としてはこの業務に携わっていた社員の雇用を確保するためにかかる社員も従事し得る業務を創出することも相当な措置であることから、本件命令が原告B、C及びHに対する報復の目的でなされたとは認めるには足りない。

遠隔地への配置転換による家族との別居、原告Bは長らく生活の本拠を仙台市に置いていたところ、本件命令により首都圏で生活せざるを得なくなったことなどといった生活環境の変化は、社会生活上、看過し難い不利益となることはいうまでもない。しかし、我が国の雇用システムが長期雇用を基礎として、流動的な従業員配置を前提として構築されており、それ故遠隔地への配置転換がされる例が少なくないことを勘案すると、社会通念上、遠隔地異動による家族との別居などの生活上の不利益は、職業生活を維持・展開する過程で通常生じ得る範疇の不利益と評価されているとみるのが相当である。加えて、被告は世帯を有する社員の遠隔地異動に対応するため、家族用の社宅や、単身赴任する社員のために単身用社宅を整備するとともに、引越や異動に伴う子女の教育関連の経済的出費についても、一定の限界はあるものの援助措置を定めていること、また、単身赴任する社員には月額3万円の単身赴任手当を支給するほか、6ヶ月の範囲で7回を限度として、その交通費実費を支給するとの措置を講じていることが認められる。以上の状況を勘案すると、原告Bに生じている生活上の不利益が、通常甘受すべき程度を超えるものとはいえない。

本件命令により原告Bらが従事することになった営業業務は、肉体的・精神的な労苦がかかるものであることは明らかであり、しかも、本件命令当時、同人らが51歳という年齢であったことをも勘案すると、職業生活上の不利益の程度も決して小さくなかったといわざるを得ない。しかし、本件改革の実施はやむを得ないというべきであり、被告の経営環境の変化は、我が国における電気通信事業政策の変化や、技術革新や国民の情報通信に対する要望の多様化といった被告において制御不可能な事情によるものであり、かつその変化の傾向も、その後の事情の好転を望めない構造的なものであったとみるのが相当である。してみれば、従前通りの労働関係及び賃金面は維持されている原告Bらにおいて、一定の職業環境の変化を受けることも、やむを得ないというべきであって、これが通常甘受すべき程度を超えるものと評するには足りない。以上、原告Bらに対する本件命令は、業務上の必要性を全く欠くものであるとか、不当な目的・動機でされたものということはできず、加えて、本件命令により被る原告Bらの不利益が、業務上の必要性との関係で均衡を失するほどのものともいえない。

(2)原告F

  原告Fは電報関係業務に長らく従事していたが、同業務が関連団体に委託されたことにより営業部門へ異動したもので、営業経験は浅いものであったこと、法人営業業務に従事していた際の原告Fの成績は極めて低位にあったことが認められ、本件命令当時、原告Fについても再配置の必要が生じていたとみるのが相当である。

  原告Fが営業業務に従事するに至った経緯や営業成績等によれば、同人を訪問販売を中心とするエリア業務に従事することを命じる本件命令は、職務適合性の観点からは問題がないとはいえない。しかし、原告Fが長年従事した電報業務に異動することは困難であったこと、原告Fが本件命令より被る社会生活上及び職業生活上の不利益も通常の労働契約関係の展開に随伴する範囲及び程度を超えるものとはいえないこと、一応数年にわたる営業業務への従事経験があることを勘案すると、本件命令は人選の合理性を欠くものではない。原告Fの成績は販売PT全体でも下位であり、平成16年度の人事評価は「D」となったことが認められるが、この評価は原告Fの業績及び意欲、姿勢を反映したものであることは明らかであるから、本件命令が不当な目的、動機によりされたとはいえない。本件命令により、原告Fが宮城県内に居住する家族と離れて居住経験のない首都圏に居住せざるを得なくなっていると認められ、生活上の不利益が生じているといえるし、職業生活上の不利益も生じているといえるが、これら不利益は、通常甘受すべき程度を超えるものとまで評価することはできない。

  以上によれば、原告Fに対する本件命令は、業務上の必要性を全く欠くものであるとか、不当な目的、動機でされたものということはできず、加えて本件命令により被る原告Fの不利益が、業務上の必要性との関係で均衡を失するものともいえない。

(3)原告A、D、E、G

  原告A、D、E、G(原告Aら)が従前従事していた業務が存在しなくなる一方、情報PT部門に人員を充てる必要があったことは否定し難い。原告Aらの本件命令前後において従事した職務と情報PTでの職務とを比較すると、情報PTでの作業はコンピューターを多用するものであると認められ、原告Aらの本件命令当時の年齢が51歳を超えるものであったことをも勘案すれば、その作業環境には少なからぬ変化が生じたとみるのが相当である。しかし、原告Aらが命じられた部分は、高度なシステムの知識・技能が要求されているのでもないから、原告Aらを情報RTへの異動対象者に選定することが、原告Aらが主張するほどに職務適合性を欠くものとはいえない。また、人事配置における人と業務との適合性は当該労働者のキャリア経歴からは直ちに判明し難い面があることからすると、情報PTに配置後の人事評価から本件命令当時の問題である人選の合理性を直ちに論定することは相当でない。以上によれば、本件命令に業務上の必要性が欠けるとはいえない。原告Aらも、本件命令が退職・再雇用型を選択しなかった同人らに対する報復の目的、今後の威嚇的効果を企図して発せられたと主張するが、この点については前に判示したところと同様である。

  本件命令により、原告A、D及びEが宮城県に居住する家族と離れて、単身赴任し、首都圏地域に被告が設置する寮に入居しているところ、同人らの本件命令に伴う生活環境の変化は、通常甘受すべき程度を超えるものとはいえない。なお、原告Gも同様に首都圏で生活・勤務しているが、同人は単身者であるにもかかわらず、本件命令後も月に数回仙台の自宅に戻り、そのための経済的支出を重ねていることが認められる。しかし、単身者である原告Gが仙台市と首都圏に住居を置くことは同人の判断によるものというほかないから、原告Gについては、通常甘受すべき程度を超える社会生活上の不利益が生じていたとはいえない。

  原告Aらにとって、情報PTでの職務が、これまで従事していた業務と比較すると、不慣れで、戸惑いの多い業務であろうことは容易に想像することができ、その意味では、原告Aらが本件命令により職業生活上の不利益を被ったことも否定することはできない。他方で、被告の収益性は著しく低下し、被告を取り巻く事業環境は大きく変化していること、そのため多くの高年齢層の社員が賃金の低下をもたらす退職・再雇用に応じて少なくない不利益を甘受していることを踏まえると、被告の新たな事業構造の転換に伴って、原告Aらの職業環境が変化するのもやむを得ないものというべきであり、これが通常甘受すべき程度を超えるものとはいえない。

4 各原告が主張する異動障害事由

(1)原告A

  本件命令当時、原告Aの両親は80歳を超える高齢であり、特にその実母は介護が視野に入り得る状況にあったこと、現在原告Aの実父、実兄が実母を介護し、原告Aの妻がこれを支援、補助していることが認められる。しかし、本件命令当時に、原告A自らが実母の介護に当たらなければならない具体的な必要性が存したとまでは認められないから、これが本件命令の効力を左右するほどの考慮要素であったとはいえない。また、原告Aの健康状態は本件命令以後の事情であることは明らかであるから、原告Aに対する本件命令が人事権を濫用してされたものであるとはいえない。

(2)原告E

  原告Eの妻の実母が高齢で、妻が実母を介護していることが認められるが、原告Eも本件命令当時、義母の介護に当たらなければならなかったと主張するものではないし、本件命令当時において、妻の介護についての支援、補助として何らかの具体的行動をとっていたことを認めるに足りる証拠もない。また、原告Eは、(イ)地域における社会貢献活動への参加、(ロ)石巻地区での組合活動の支援をいうが、社会貢献活動ないし組合活動を特に石巻地区で行わなければ無意味となるような事情も見当たらないから、(イ)、(ロ)のような点は、本件命令が権利濫用であることを基礎付けるものではない。また、本件命令当時、配置転換につき配慮を要するとみられるような健康上の問題が存したことを裏付ける証拠もないから、原告Eに対する本件命令が人事権を濫用してされたものであるとはいえない。

(3)原告D

  原告Dが本件命令の異動障害事由として主張するものは、原告Eと同種の義父母の介護の点であるが、この点は、自らが介護に当たる必要性まで主張するものではないから、採用し難い。また、原告Dが主張する身体的不調も、本件命令以後の事情であり異動障害事由となるものではない。以上によれば、原告Dに対する本件命令が人事権を濫用してされたものであるとはいえない。

(4)原告G

  原告Gは、本件命令による不利益として、首都圏から仙台への帰郷に関する経済的負担を強調するが、同人は独身者であるから、帰郷するのは同人の自主的な判断によるというほかない。以上によれば、原告Gに対する本件命令が人事権を濫用されたものであるとはいえない。

(5)原告B

  原告Bが、本件命令の異動障害事由として主張するのは職業生活上の不利益であるが、前記のとおりこれが異動障害事由となるものとはいえない。山形市に在住する実母につき介護を要する状況にあるところ、実弟が実母と同居していることが認められ、本件命令当時、原告B自身が実母の介護をすべき具体的な必要性が存したという事情も見当たらない。更に、原告Bは、本件命令により、山形地域での組合活動ができなくなった不利益を主張するが、かかる事情は何ら本件命令が権利濫用であることを根拠づけるものではない。以上によれば、原告Bに対する本件命令が人事権を濫用してされたものであるとはいえない。

(6)原告F

  原告Fの主張は極めて抽象的であり、同人が主張する不利益は、自宅ないし家族と離れて生活しなければならないことをいうに留まるというほかない。そうであれば、原告Fに対する本件命令が人事権を濫用してされたものであるとはいえない。

(7)原告C

  原告Cが本件命令の異動障害事由として主張するのは、職業生活上の不利益であるが、この点は前記のとおり本件命令の異動障害事由となるものとはいえない。原告Cは、平成12年に足を骨折し、その後治癒したものの、販売PTでの業務に従事した後、痛みが出現するようになったことが認められる。確かに、この痛みは販売PTでの業務が一因となっている可能性も否定できないが、平成12年には治癒に至っていること、原告Cが被告に上記事情を正式に申告したのは平成18年4月に入ってからであることから、このことを考慮しなかったことで本件命令が権利濫用となるとはいえない。

(8)原告H

  原告Hが本件命令の異動障害事由として主張するもののうち、職業生活上の不利益については、これが通常甘受すべき程度を超えるものとはいえないことは前記のとおりである。また、本件命令により原告Hの通勤時間は2倍近く要することになったというものの、その総時間は片道2時間程度であるから、この点が原告Hに対する配置転換についての障害事由となるようなものであるとは評し難く、労働組合活動については前記のとおりである。以上によれば、原告Hに対する本件命令が人事権を濫用してされたものであるとはいえない。
  以上検討した結果によれば、本件命令が権利濫用には当たらず、適法である以上、同命令が不法行為となることはないから、原告らの不法行為による損害賠償は理由がない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働経済判例速報2014号15頁
その他特記事項
本件は控訴された。