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K建設工業ほか出向労働者自殺事件【うつ病・自殺】
- 事件の分類
- うつ病・自殺
- 事件名
- K建設工業ほか出向労働者自殺事件【うつ病・自殺】
- 事件番号
- 札幌地裁 − 平成8年(ワ)第216号
- 当事者
- 原告 個人4名 A、B、C、D
被告 札幌建設運送事業協同組合
被告 K建設工業株式会社 - 業種
- 建設業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1998年07月16日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(確定)
- 事件の概要
- 被告札幌建設運送協同組合(被告組合)は、建設運送事業を行う者を組合員とする協同組合であり、被告K建設工業株式会社(被告会社)は、土木建築を主な業とする株式会社である。
Tは、平成元年被告組合と雇用契約を締結し、平成7年7月に被告会社に出向した者であり、平成8年3月10日当時、被告組合の「事業部工事担当次長」の地位にあって、被告会社が受注した国道拡幅のための擁壁工事の作業所長として勤務していた。
この工事は、平成7年9月に着工し、同8年3月下旬に完成予定であったが、豪雪などにより工事の遅れが生じたために工事量を大幅に減らす措置を余儀なくされた。Tは、この工事の遅れにより平成7年12月以降時間外労働時間が急激に増え、次第に体重の減少や全身の倦怠感、不眠を訴えるようになった。Tは、平成8年1月頃から、家族らに対し工事の遅れを気に病む発言をするようになり、同年3月10日午前9時頃、被告組合の事務所内で遺書を遺して自殺した。
Tの妻である原告A、Tの子である原告B、C、Dは、Tは労働基準法に違反する過酷な労働を強いられ、肉体的に疲労困憊し、精神的にうつ状態の極限に達していたところ、被告らはこれを知っていたのであるから、仕事量を減らすなどTの自殺を防止すべき注意義務があったのに、これを起こった安全配慮義務違反があったとして、逸失利益7049万5393円、慰謝料2600万円、弁護士費用700万円を請求した。 - 主文
- 1 被告協成建設工業株式会社は、原告Aに対し、4582万2046円及びこれに対する平成8年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告協成建設工業株式会社は、原告B、同C及び同Dに対し、それぞれ1527万4015円及びこれに対する平成8年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 原告ら及び被告協成建設工業株式会社に生じた訴訟費用はいずれもこれを9分し、その1を原告らの負担とし、その余を被告協成建設工業株式会社の負担とし、被告札幌建設運送事業協同組合に生じた訴訟費用は全額原告らの負担とする。
5 この判決は、主文第1、2項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 Tの自殺と業務との因果関係
認定した事実、殊に、本件工事が豪雪等の影響で大幅に遅れ、休日出勤や時間外労働の継続を余儀なくされた上、平成8年3月5日頃、工事量を大幅に減少する変更をしてようやく工期までに完成することができる状態になったこと、Tが家族や周囲の者に対して本件工事が遅れていることを気に病む言動をしていたこと、平成7年12月以後時間外勤務が急激に増加し、平成8年2月及び3月には1日平均3時間30分を超える時間外勤務をしたほか、平成7年12月以後、31日の休日中16日間休日出勤をしたこと、そのため、Tは体重が10kg減少し、不眠等を訴えて受診するようになったこと、遺書には、自らの管理能力のなさを痛感している、関係各社へ迷惑を掛けたなどの記載があること、Tは私病が原因で自殺するとは考え難いことなどの事実を考慮すると、Tは責任者として、本件工事が遅れ、本件工事を工期までに完成させるため工事量を大幅に減少させざるを得なくなったことに責任を感じ、時間外勤務が急激に増加するなどして心身とも極度に疲労したことが原因となって、発作的に自殺したものと認められる。
2 被告らの安全配慮義務違反の有無
被告らは、Tの使用者として、労働災害の防止のための最低基準を守るだけではなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通して職場における労働者の安全と健康を確保する義務(労働安全衛生法3条)を負っている。そして、被告会社は本件工事を請け負い、本件工事遂行のためTを所長として本件工事現場に派遣していたのであるから、適宜本件工事現場を視察するなどして本件工事の進捗状況をチェックし、工事が遅れた場合には作業員を増加し、またTの健康状態に留意するなどして、Tが過剰な時間外勤務や休日出勤を余儀なくされ心身に変調を来し自殺することがないよう注意すべき義務があったところ、これを怠り、本件工事が豪雪等の影響で遅れているのに何らの手当もしないで事態の収拾をTに任せきりにした結果、Tを自殺させたものであるから、被告会社にはTの死亡につき過失が存する。しかし被告組合については、Tを在籍のまま被告会社に出向させているとはいえ、休職扱いにしている上、本件工事を請け負ったのが被告会社であって被告組合としては被告会社等を指導する余地はなかったと認められるから、Tの自殺について被告組合に責任があるとは認められない。
3 T及び原告らの損害
Tの年収は690万7250円、死亡当時45歳で67歳まで22年間就労可能であり、生活費控除割合を30%とすると、逸失利益は6364万4092円となる。また、慰謝料は2200万円、弁護士費用は600万円とするのが相当である。 - 適用法規・条文
- 民法709条、711条
- 収録文献(出典)
- 労働判例744号29頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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