判例データベース

おかざき専務過労死損害賠償請求事件【過労死・疾病】

事件の分類
過労死・疾病
事件名
おかざき専務過労死損害賠償請求事件【過労死・疾病】
事件番号
大阪地裁 - 平成16年(ワ)第1193号
当事者
原告 個人3名A、B、C
被告 株式会社、社長S
業種
卸売・小売業・飲食店
判決・決定
判決
判決決定年月日
2006年04月17日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
被告会社は、袋物鞄の卸売等を業とする会社であり、被告Sは被告会社の代表取締役である。一方M(昭和15年生・死亡当時60歳)は、被告会社の専務取締役であり、原告Aは甲の妻、原告B、Cはいずれも甲の子である。Mの死亡時における被告会社の役員は、M、S及びSの母の3人、従業員はSの妻を含め3人(半年前は7人)であった。
 平成12年8月26日、Mは5泊6日の北陸出張に出かけ、26、27日と福井県内の小売店訪問、28、29日と石川県内で営業活動をした。Mは30日商談等をして富山県内を巡回し投宿したが、翌31日客室ベッドの上で死亡していた。Mは、平成7年9月、腰椎間板ヘルニアと診断され、その後も変形性股関節炎を患うほか、本態性高血圧の診断も受けていた。なお、被告会社においては定期的な健康診断は行われていなかった。
 原告らは、(1)Mは専務取締役とはいえ、実質的には使用従属関係にあると評価できるから、被告らは労働契約に付随する信義則上の義務として安全配慮義務を負うこと、(2)Mは慢性的に1ヶ月当たり110~120時間程度の時間外労働を余儀なくされるなど、業務が量的に過重であったこと、(3)商品を詰めた段ボールは重く、狭いスペースで不自然な体制で運ばなければならないことから、腰椎間板ヘルニアを患っていたMにとっては辛い作業であったこと、(4)Mは宿泊及び深夜労働を伴う出張業務を月2回行わなければならず、長時間自ら自動車を運転しなければならないことから、ほとんど休憩を取れなかったこと、(5)被告会社の売上げが減少したことから、MはSの命令を受けて新規顧客の開拓に励む等により、肉体的・精神的に極度に疲労していたことによって死に至ったとして、Mの死亡と業務との間に相当因果関係があると主張した。その上で、被告会社はMに対する安全配慮義務を怠ったとして、社長である被告Sと連帯して、原告Aに対し3584万4896円、原告B及び同Cに対し、各1792万2448円の損害賠償を支払うよう請求した。
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
判決要旨
Mは、高校を卒業すると同時に被告会社の前身であるP商店に就職し、その後被告会社に42年間勤務し、そのうち24年間は被告会社の専務取締役の地位にあり、営業全般を統括していたほか、労務も担当し、従業員の勤怠管理や人事管理等を行っていた。すなわち、Mは、営業に関しては営業担当者を指導し、被告Sと同時に出張しないように調整し、被告Sが不在のときは指揮を執っていたほか、自らの営業については、被告Sに報告することなく出張日程を立て、必要経費は上限なく自由に使用して営業活動をしていたのであり、被告SがMの仕事内容や進め方について逐一指揮命令をすることはなかったことからすると、被告会社においては、Mの営業活動については全面的にMに委ねていたということができる。また、労務に関しては、Mは求人広告や応募の電話対応や採用面接等を実施し、被告Sとともに採用や賃金の決定を行っていたのであるから、被告会社における従業員を管理する立場にあったと認められる。
 そして、M自身については、他の従業員とは異なって、勤務時間が管理されておらず、出張以外はすべて出勤扱いとされており、遅刻や早退をしても報酬が減額されることはなく、入院中も報酬が従前どおり支払われていたこと、他の従業員に支払われていた住居手当、通勤手当等の諸手当は支給されず、被告Sと同額の報酬が支払われていたことなどの諸事情からすると、Mは、自らの労働時間等については自ら管理し、その生命、健康等を危険から保護するよう配慮すべき地位にあったものというべきである。したがって、被告らにおいて、Mに対し安全配慮義務を負う立場にあったとは認めることができない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例940号72頁
その他特記事項
本件は控訴された。
本件は、業務外の認定についての行政訴訟も提起された
(大阪地裁-平成14年(行ウ)104号 2003年10月29日判決)