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地公災基金岡山県支部長(K市職員)心筋梗塞死控訴事件【過労死・疾病】
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 地公災基金岡山県支部長(K市職員)心筋梗塞死控訴事件【過労死・疾病】
- 事件番号
- 広島高裁 − 平成元年(行コ)第1号
- 当事者
- 控訴人 個人1名
被控訴人 地方公務員災害補償基金岡山県支部長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1990年10月16日
- 判決決定区分
- 原判決取消(控訴認容)
- 事件の概要
- M(昭和24年生)は、昭和43年にK市職員に採用され、生活保護ケースワーカーとして勤務していた者である。
昭和59年6月6日、Mは平日勤務を終えた後、午後6時過ぎからソフトボール大会に参加し、6番・捕手として試合に出場した。Mは6回裏に初めて出塁し、二塁に進んだ後、後続打者の打球を三塁手が暴投したことから、二塁から一気に生還した。その後Mは気分が悪いと訴え、同僚が病院に運び込んだが、同日午後8時40分に心筋梗塞で死亡した。
Mの妻である控訴人(第1審原告)は、Mの死亡は公務災害に当たるとして、被控訴人(第1審被告)に対し、地方公務員災害補償法による認定請求をしたところ、被控訴人はこれを公務外災害とする処分(本件処分)をした。そこで控訴人は本件処分を不服として審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却とする裁決を受けたため、本訴を提起した。
第1審では、Mの死亡と公務との間に相当因果関係が認められないとして、控訴人の請求を棄却したことから、控訴人はこれを不服として控訴した。 - 主文
- 原判決を取り消す。
被控訴人が控訴人に対し昭和59年10月9日付けでした地方公務員災害補償法による公務外認定処分を取り消す。
控訴費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 地方公務員災害補償法(補償法)に定める「公務上の死亡」とは、公務と死亡との間に相当因果関係が認められるもの、すなわち経験則に照らし、当該公務に従事したことが相対的に有力な原因として作用し死の結果を生じさせたことをいうものと解すべきである。ところで、公務と死亡との間の相当因果関係の立証については、一点の疑義も許さない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして、公務と死亡との間に高度の蓋然性があることを証明することが必要であり、かつ、それをもって十分であると解すべきである。
Mの本件発症前における生活保護ケースワーカーとしての勤務は、勤務時間及び業務内容等に照らして、本件発症の原因となった過重負荷があったというには十分でない。そして、ソフトボール競技は老若男女に広く親しまれたスポーツであるが、Mは死亡当日、平日の勤務終了後、休息等することなく引き続いて本件ソフトボール競技に参加したのであり、日頃スポーツにさほど親しんでいなかった同人にとって準備運動をすることもなく、約1時間捕手として参加し、6回裏に一塁に出塁し、二塁に進み、三塁手が一塁へ悪送球する間に二塁から一気に生還したことは、肉体的に相当の負荷であり、精神的にも緊張を要したものであって、これらの負荷は急性心筋梗塞発症の要因となり得るものであったこと、右負荷から発症、死亡までの経過も、医学上、右負荷を発症原因として十分説明し得るものであったこと、Mは死亡当時満35歳で、昭和55年以降高血圧があったことから動脈硬化の疑いがあるが、仮に動脈硬化であったとしてもそれは軽度のものであって、外見上は健康体であったことなどに照らして、Mの本件ソフトボール競技に参加したことが主力となって、それらが共同して急性心筋梗塞による死亡に至らせたものであると認めるのが相当である。
そして、労働省通達の見地からしても、Mのソフトボール競技への参加行為は、「異常な出来事」若しくは「過重負荷」に該当するものというべきである。したがって、Mの死亡は公務に起因するものであり、補償法所定の公務上の死亡に当たるものである。 - 適用法規・条文
- 地方公務員災害補償法31条、45条
- 収録文献(出典)
- 労働判例574号56頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
岡山地裁 | 棄却 | 1988年12月21日 |
広島高裁−平成元年(行コ)第1号 | 原判決取消(控訴認容) | 1990年10月16日 |
最高裁 − 平成3年(行ツ)第31号 | 上告棄却 | 1994年05月16日 |