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地公災基金高知県支部長(O中学教諭)くも膜下出血事件【過労死・疾病】

事件の分類
過労死・疾病
事件名
地公災基金高知県支部長(O中学教諭)くも膜下出血事件【過労死・疾病】
事件番号
高知地裁 − 昭和60年(行ウ)第5号
当事者
原告 個人1名
被告 地方公務員災害補償基金高知県支部長
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1990年02月22日
判決決定区分
認容
事件の概要
原告(昭和5年生)は、昭和31年1月に中学校助教諭に採用されて以来、高知県下の中学校で教諭を務め、昭和51年当時、O中学校教諭の地位にあった者である。

 原告は、昭和51年度には社会科と理科を担当し、1年の学級担任及び1学年の学生主任となり、また郷土研の顧問を務めたほか、生活部担当として花壇や植え込みの手入れを行い、PTA運営委員として年間20回程度PTAの会合に出席した。O中学校は通学困難な生徒のため寄宿舎が設置され、原告は舎監業務にも、これを生徒指導の場として捉えて積極的に取り組み、宿直でない日にもほとんど毎日寄宿舎に立ち寄り、寮生を熱心に指導した。ところで、昭和51年9月、教頭が病気で勤務できなくなったことから、原告の宿直が増加し、受持から理科が外されたものの、事実上舎監長となって週3回の宿直を担当するようになった。

 原告は、同年11月17日、午前中は学校で勤務し、午後からO町青少年健全育成会議の司会をし、同会議終了後宿直についたが、寮生1名が風邪をひいたため病院に電話したが深夜のため容易に診察に応じてもらえず、三番目の病院でやっと診察を受けることができ、帰寮した後風邪をひいた数人の寮生の看病に当たり、就寝は午前3時頃になった。翌18日、原告は午前6時過ぎに起床し、清掃作業をした後午後8時20分頃登校し平常勤務に就いていたところ、午前11時頃気分が悪くなり、意識不明となって病院に搬送され、高知市内の病院に転院して検査を受けたところ、脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血と診断された。
 原告は、本件くも膜下出血は、公務に起因するものであるとして、昭和52年4月26日付けで被告に対し公務災害である旨の認定を求めたが、被告は昭和53年12月16日付けで、本件疾病は公務外災害であると認定する処分(本件処分)をした。原告は本件処分を不服として、審査請求さらには再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。
主文
1 被告が地方公務員災害補償法に基づき昭和53年12月16日付けで原告に対してした公務外認定処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
判決要旨
原告は公務に精力的に取り組んできたが、殊に昭和51年9月16日以降、舎監業務等が増大したため肉体的・精神的疲労が蓄積し、被災日前日頃には慢性的疲労状態に陥っていたところ、被災日前日に更に疲労が深まる出来事が重なり、その結果、被災日には疲労の蓄積が深刻な事態にまで達していたものと推認できる。

 原告は、右のような慢性的疲労状態となり、これが原告の血圧及び脳動脈瘤に悪く作用し、また血圧の変動による悪影響を増幅させる要因となって、これに血圧を急激に上昇させる何らかの要因が働いて本件疾病の発症に至ったと解することができる。また原告は飲酒、喫煙は慎み、従来頑健で体力に自信があり、昭和50年12月頃までは正常な血圧状態であったなど、脳動脈瘤破裂の背景事情として良好な状況にあったのに、本件疾病を発症するに至っていることは、やはりその後の公務の遂行による慢性的疲労が本件疾病に対して相当程度影響しているとみざるを得ない。原告は業務によって疲労感を感じるようになった後、教壇でふらついたり、白墨を持つ手が震えたりしたため受診したが、特に悪いところの指摘を受けず、これまで医師から高血圧を指摘されたことがないことに照らせば、このふらつき等の原因が何らかの特別な疾患によるものであり、かつそれが本件疾病に関与しているか否かにつき、これを疑わせる証拠はないから、この事情をもって疲労の蓄積が血圧の急上昇の要因となったとする議論を左右するものではない。本件においては、発症時刻が血圧の日内変動のピーク時とされる時間帯に一致していること、発症直前には原告は通常の学校勤務に従事しており、発症時における血圧の急激な上昇を説明できる突発的出来事や何らかの疾患を窺わせるに足りる証拠はないこと等を併せ考えると、被災日に原告が起床して以降、日内変動のピーク時とされる午前11時頃に向かい血圧が上昇したが、前記慢性的疲労による持続的高血圧状態により、血圧上昇の幅が著しく増幅されて、本件疾病の発症時には230/120という異常な高血圧になり脳動脈瘤が破裂するに至ったという推測も十分可能である。
 以上を総合して考えると、原告の脳動脈瘤の破裂については、原告の従事していた公務が共働の原因となっていたものといってよく、原告が本件疾病の発症を予知しながらあえて公務に従事したなど災害補償の趣旨に反する特段の事情を認めさせる証拠もないから、原告の公務と本件疾病との間には相当因果関係があるものと解するのが相当である。
適用法規・条文
地方公務員災害補償法31条
収録文献(出典)
労働判例571号30頁
その他特記事項