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T大学外国人教師雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- T大学外国人教師雇止事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成10年(行ウ)第59号
- 当事者
- 原告個人1名
被告国 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1999年05月25日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告は、被告の設置するT大学の招聘に応じて外国語センターに勤務したドイツ国籍の外国人教師であり、平成6年4月1日から平成7年3月31日までの雇用契約を結んだ(1回目契約)。原告と同大学学長は、同年4月1日から1年間、俸給を若干引き上げるなどして改めて雇用契約を結び(2回目契約)、更に俸給を若干引き上げる等以外は同内容の雇用契約を、平成10年3月31日まで2回にわたって結んだ(3回目契約、4回目契約)が、T大学学長(本件学長)は、平成9年11月20日付けで、原告代理人に対し、4回目の更新をしない旨通知した。
原告は、本件雇用契約は当初契約期間を1年として締結され、その後3回にわたり更新が繰り返されているが、原告の招聘期間は2年であること、継続雇用の審査は2年ごとに行われていたことからすれば、本件雇用契約の契約期間は2年であるというべきところ、このような契約は労働基準法14条に違反しており、同法13条により1年を超える部分は無効になり、短縮された1年の契約期間の経過後も労働契約が継続している場合は民法629条1項により期間の定めがない契約として継続していることになり、本件雇用契約は2年目以降期間の定めのない契約となっており、解雇権の濫用法理が適用されること、
T大学に勤務する外国人教師の雇用契約が期限付き契約に限られていることは労基法3条で禁止された国籍に基づく労働条件の差別に当たり無効となること、外国語センター長は原告の採用に当たって長期の雇用を期待させる言動をとっていたこと、各年の契約手続きは形式的なものにすぎないこと、雇用更新の運用においても、期間の経過ごとに雇止めを行っている実態はないことなどの事情によれば、本件雇用契約についても解雇の法理が類推適用されると主張した。その上で原告は、本件雇止めに関する通知は罹患した白血病に関する誤解と偏見に基づき、病気による差別を理由とする解雇であって無効であること、本件の外国人教師の場合のように特段の理由がない限り雇用契約が更新されるという場合には、被用者は期間満了後も引き続き雇用されることを合理的に期待し得るものであるところ、本件通知は右の期待に反するような誤解や偏見に基づく差別的な更新拒絶の意思表示であって、信義則上許されず無効であるとして、教師としての地位の確認を請求した。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件雇用契約には解雇権の濫用法理が適用又は類推適用されるか
国家公務員法2条7項は、同条6項の例外規定として設けられた規定であると考えられるから、国家公務員は2条7項に定めた場合に限っては民法上の雇用関係を通じて国に雇用される勤務者を置くことを許したものと解される。そして、国立大学設置法施行規則の規定等によれば、国立大学又は短期大学の学長(学長)が外国人を教授又は研究に従事させるために当該外国人と締結する契約は民法上の雇用契約として締結されていると考えられること、同条4項は、この法律の規定は一般職に属するすべての職に適用すると定めているが、同条7項に基づいて政府又はその機関と契約を締結する外国人には、国家公務員法の規定及び人事院規則の規定は全く又はほとんど適用されないことになるのであって、同条7項に基づいて雇用された外国人の勤務関係が公法上の関係であるとはいい難いこと、昭和57年に制定された外国人教育任用法は、同法による外国人教員の採用とは別に従来からの外国人教師の制度を併存させる理由の1つとして、国家公務員法2条7項に基づく外国人採用制度がいわば私的な契約制によるものであることから、期間や給与その他の条件について大学における教育研究上の必要に即して弾力的に対応し得ることが挙げられていること、以上の点によれば、学長が外国人を教授又は研究に従事させるために当該外国人と締結する契約は民法上の雇用契約であると解するのが相当である。
一般職の職員については、原則として国家公務員法附則16条により労働基準法の適用が除外されているが、同法2条7項に基づいて政府又はその機関と契約を締結する外国人は一般職又は特別職以外の勤務者であるから、労働基準法及びこれに基づく命令が適用される。
本件学長が原告との間でした招聘期間を2年として原告を外国人教師として招聘することの合意は、同学長と原告が会計法上の制約から1年ごとに締結を繰り返している契約の前提であり、その合意は右の契約に基づいて成立する原、被告間の雇用関係を規律するものというべきであって、同学長はこの合意で定められた招聘期間が満了する以前においては契約期間の満了という理由だけでは新たな契約の締結を拒否することができないという債務を負担していると考えられるが、そうだからといって、この合意が同学長が原告との間で締結した雇用契約として原・被告を拘束し、雇用関係を成立させるものということはできないと解される。そうすると、本件雇用契約の期間はあくまでも1年であって、原告の招聘期間である2年をもって雇用契約期間であるということはできず、本件雇用契約が労基法14条に反するということはできない。
学長が外国人と締結する雇用契約が1年を超えない契約を定めた契約であるとされているのは、会計年度独立の原則を定める会計法上の制約によるものであり、そうだとすると、学長が外国人と締結する契約は1年を超えない期間を定める契約であるとされ、期間を定めない契約を締結することが全く予定されていないことが、労基法3条で禁止された国籍に基づく労働条件の差別に該当するということはできない。
期間の定めのある労働契約において労働者が契約期間の満了後も雇用関係の継続を期待することに合理性があると認められる場合には、そのような契約当事者間における信義則を媒介として、雇止めについて解雇に関する法理を類推すべきであると解される。したがって、学長が外国人教師と締結する雇用契約の満了後の新契約の締結拒否について解雇権の濫用法理が類推適用されるといえるためには、当該外国人教師が雇用契約で定めた契約期間の満了後も雇用契約に基づいて成立した雇用関係の継続を期待することに合理性があると認められなければならない。
ところで、国の会計年度独立の原則が採用されているため、本来学長が外国人教師との間で締結する雇用契約は会計年度ごとに締結しなければならず、そうすると、学長が外国人教師との間で雇用契約を締結する場合には、そもそも1年を超える期間を定める契約や期間の定めのない契約を締結することはできないのである。そうすると、学長が外国人教師と締結した雇用契約満了後の新たな雇用契約の締結拒否について、その雇用契約の契約期間が1年である限りは、そもそも解雇権の濫用法理を類推適用することはできないというべきである。
ただ、学長は外国人教師との間で、雇用契約とは別に、2年を限度とする招聘期間を定めて外国人教師を招聘する旨の合意をしているところ、この合意は学長と外国人教師を法的に拘束し、雇用関係を成立させるものとはいえないものの、少なくとも学長は、この合意によって、招聘期間が満了するまでは雇用期間の満了という理由だけでは新たな雇用契約の締結を拒否することはできないという債務を負担しているということはできると考えられるのであり、学長が外国人講師と締結した雇用契約の満了後の新たな雇用契約の締結拒否について解雇権の濫用法理を類推適用することができないとしても、右のような見解が採用できるのなら、契約期間の満了により終了したはずの雇用契約がなお存続しているといい得る余地がないではない。
原告が期間を2年とする本件学長の招聘に応じて外国語センター所属の外国人教師になることにし、その後同学長が原告の招聘期間を更に2年間延長することを原告に申し入れ、原告がこれに応じることにしたのであるが、延長された招聘期間は平成8年4月1日から平成10年3月31日までであり、本件4回目の契約に係る雇用期間は平成9年4月1日から平成10年3月31日までであるから、本件4回目の雇用期間の終期である平成10年3月31日が経過した後に、同学長が原告との間で締結した雇用契約がなお存続している余地はないというべきである。以上によれば、本件学長が原告との間で締結した雇用契約は平成10年3月31日の経過をもって失効したというべきである。
2 本件雇止めは権利の濫用に当たり又は信義則に違反して無効であるか
本件学長が原告との間で締結した雇用契約は、平成10年3月31日の経過をもって失効したのであり、同学長が原告との間で締結した雇用契約に解雇権の濫用法理を類推適用する余地はないのであるから、本件通知が解雇の意思表示に当たると解する余地はなく、したがって、本件通知を解雇の意思表示に当たると解してそれが解雇権の濫用に当たるという原告の主張は、その前提を欠いており採用できない。したがって、本件学長が原告との間で締結した雇用契約が特段の理由がない限り更新されるということはできないのであり、そうすると、期待権侵害による更新拒絶及び更新拒絶権の濫用についての原告の主張は、その前提を欠いており採用できない。 - 適用法規・条文
- 労働基準法3条、13条、14条、国家公務員法2条6項、7項、附則16条
- 収録文献(出典)
- 労働判例776号69頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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