判例データベース
学校法人常勤講師雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 学校法人常勤講師雇止事件
- 事件番号
- 盛岡地裁 - 平成9年(ワ)第387号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 学校法人 - 業種
- 農業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2001年02月02日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、M高等学校(本件高校)を設置する学校法人であり、原告は、昭和63年に大学を卒業し、システムエンジニアや営業職として勤務した後、平成5年4月から平成7年3月まで他の中学校で講師として勤務した後、同年11月27日、本件高校に常勤講師として採用された女性である。
被告は、平成7年10月に国語科専任教諭2名の募集を行い、原告はこれに応じ不合格になったが、国語科の教員に1名の欠員が発生したため、急遽常勤教師として、同年12月1日付けで雇用期間を翌8年3月31日までの雇用契約を締結した。
平成8年1月、原告は公立中学校から常勤講師の勤務を打診されたため、同年4月以降は専任教諭としての勤務を希望する旨被告の職員採用担当課長に告げたところ、同課長は今後1年間の勤務状況を見て問題がなければ原告を専任教諭とする旨述べた。そして原告は被告との間で同年4月1日付けで雇用期間を1年間とする雇用契約を締結した。原告は同年9月にも他の私立校から就職の誘いを受け断っていたが、平成9年2月に同課長から次年度は雇用契約を更新しない旨を告げられた。
そこで原告は、本件契約の期間は原告の適性を評価、判断するための期間であって、同契約の法的性格は解約権留保付雇用契約であること、本件解雇は合理的理由がなく解約権の濫用として無効であることを主張し、本件高校の専任教諭としての地位の確認並びに賃金1796万5150円の支払いを求めた。
これに対し被告は、本件契約は期間の定めのある契約であり、原告に遅刻が多い、授業や生徒指導等勤務上の問題があるとして、本件雇止めには合理的理由があると主張して争った。 - 主文
- 1 原告が盛岡中央高等学校の専任教諭たる地位にあることを確認する。
2 被告は、原告に対し、金1330万0950円及び内金368万3750円については平成10年4月1日から、内金384万1250円については平成11年4月1日から、内金406万3750円については平成12年4月1日から、内金171万2200円については平成12年9月1日から、各支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、これを10分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決第2項は、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件契約の性質
原告と被告間の本件契約に際しては、未だ被告において国語科の教員についての採用が予定されていない状態にあり、このような状況の中で、本件高校において専任教諭として勤務することを希望していた原告に対し、職員採用担当課長から今後1年間の勤務状況を見て問題がなければ専任教諭とする旨の話があり、これを信頼した原告は他の学校からの誘いも断り、平成8年4月から1年間、本件高校の常勤講師として、他の教員と変わらない職務を担当してきたこと等に鑑みれば、本件契約の期間は、その満了により雇用契約が当然に終了するとの趣旨のものではなく、原告の適性を評価、判断するための試用期間であったというべきである。そして、その法的性格は、解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。
2 被告の解約権行使の合理性
解約権留保付雇用契約における解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許されるものであると解するのが相当である。
被告は、原告が、(1)遅刻を頻繁に繰り返していたこと、(2)書道及び国語の授業において、1年間本来の授業を行わず、漢字テストを繰り返すなどしていたこと、(3)生徒への指導において熱意や技量を欠いていたため、赤点を取る者を大量に発生させたこと、(4)校外指導や長期休業指導としての巡回指導に参加せず、下宿している女生徒に対する訪問、非行による停学処分中の女生徒に対する指導や、整容指導(服装、化粧等に対する指導)を行わず、指導のための集会にも出席せず、更にはトイレ、更衣室の整頓、清掃の指導もしなかったことを主張する。しかしながら、(1)当時の教員の遅刻についての記録がない上、原告は平成8年度に約20回程度は体調不良や降雪による交通渋滞等の理由によって遅刻をしたことがあったものの、他方定刻までに出勤しても通学指導や呼び出した生徒への対応、電話応対等のため、朝会前に出勤簿に押印できないことがあったこと、(2)社会生活上の実用性や就職試験への対応等に配慮して、書道の授業は1年生で毛筆を行い、2年生で硬筆及び漢字や語句も学習を行うことが了承されており、原告が行った書道の授業の内容が他の教員に比して特別不適切なものであったということはできず、国語科でも同様に漢字の学習や現代文の学習に重点を置く方針が採られており、原告の授業もこの方針に沿うものであったこと等が認められ、原告の行った国語の授業の内容が他の教員に比して特別不適切なものであったということはできないこと、(3)原告が赤点を付けた生徒の1クラス当たりの平均は5.37人で、他の教員は2.56人であったが、一般的にいっても生徒の成績評価は教員の裁量に任せられる上、生徒の成績の善し悪しの原因も様々であると考えられ、赤点を付けた生徒の数が多いことが直ちに当該教員の指導能力が低いことを示すとはいえないこと、(4)巡回指導の際、必ずしも教員が公用外出簿に記載していたわけではなく、生徒指導部長への報告も参加者のうちの1人で済ませていたことが認められるから、原告が巡回指導に参加しなかったということはできず、トイレや更衣室の清掃指導は生徒の担任あるいは管理責任者の教員の役割であったが、原告は更衣室やトイレの巡回点検を行い、生徒の問題行動については担任に注意していたこと等が認められるから、女生徒指導について、特段義務を怠ったということはできない。
なお、平成8年6月及び12月に教頭が行った原告の人事考課表によれば、原告の業績、意欲、知識・能力の各項目について、いずれも5段階のうち概ね3(良好)ないし2(劣る)との評価がされており、所見欄に「受ける雰囲気に明るさがない」、「教育活動全般に対する意欲が今一つ感じられない」、「学習指導力にやや不足し、日常の行動においても周囲の言動に左右されやすい」等の記述があるが、原告の勤務状況がそれほど劣悪なものであったと認めることはできない。
以上によれば、被告の主張する解約権行使の理由は、いずれも客観的に合理的であるとは言い難く、解約権留保の趣旨・目的に照らして、社会通念上相当性を欠いているというべきである。したがって、本件解約権の行使は無効と解するのが相当である。
3 原告の賃金
本人給及び職能給については、給与規程上、年齢や経歴をどのように評価して給与表上のどの等級に位置づけるかについての具体的な定めはないから、その位置づけは理事長の裁量的判断に属するといわざるを得ないが、理事長による位置づけが行われたことを認めるに足りる証拠はないから、原告の本人給及び職能給の算定については、最低限の基準として、被告における大卒者についての通常の取扱いによるほかない。
諸手当として、原告は毎月住宅手当1万円、扶養手当6000円の支給を受ける資格を有していることが認められるが、通勤手当は実費弁償の性格を有していると考えられること、また指導手当については、その性格が給与規程上必ずしも明確ではなく、金額も理事長が定めるとされており、算定不能と考えざるを得ず、これらの手当を原告に支払うべき賃金に加えることはできない。本件契約のような雇用契約関係においては、賞与が実質的に給与の一部としての役割を果たしていることが多い実情に鑑みれば、賞与も原告に支払われるべき賃金として加えるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例803号26頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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