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東京国際学園雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 東京国際学園雇止事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成9年(ワ)第8334号
- 当事者
- 原告 個人16名 A〜P(原告D、F及びGは日本人)
被告 学校法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2001年03月15日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、東京外語専門学校及び東京福祉専門学校の設置、運営等を行う学校法人であり、原告らは昭和55年から平成4年にかけて東京外語専門学校の教員として採用された外国人13名、日本人3名である。
被告は、被告と外国人教員との間では、契約期間1年間の外国人契約を締結しており、被告と日本人との間では、期間の定めのない日本人契約を締結していたが、日本人教員からも外国人教員と同様の扱いを求める声があったことから、平成3年度から、外国人契約を日本人にも適用できることとした(「外国人契約等」と総称)。原告Aら8名は、平成8年3月14日付けの通知書により、同月20日をもって雇用関係を終了させ、1ヶ月分の給与を支払う旨の通知を受け(平成7年度末雇止め)、原告Iら8名は、平成9年3月15日、書面により同月20日をもって雇用関係を終了させ、1ヶ月分の給与を支払う旨通知を受けた(平成8年度末雇止め)。
原告らは、本件雇止めまでに勤続3年から17年となり、採用時に長期勤務を期待する旨の話をされていたことなどから、被告と原告らの雇用契約は事実上期間の定めのない契約となっていると主張して、本件雇止めは解雇に関する法理を適用すべきところ、整理解雇の要件を満たしていないこと、本件解雇は原告らの組合活動を理由とする不当労働行為に当たることを理由に、原告らが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、未払賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告A、B、C、D、E、H、I、J、K、L、M、N、O及びPがそれぞれ被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 原告A、B、C、D、E、H、I、J、K、L、M、N、O及びPのその余の請求を棄却する。
3 原告F及びGの請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用(略) - 判決要旨
- 1 原告らと被告との間に締結された雇用契約は期間の定めのない契約か
(1)被告が外国人教員又は選択する日本人教員との間で締結した外国人契約等については、平成7年度及び平成8年度を除いて毎年度ごとに契約書が作成されていること、その契約書の内容については、契約上明示された雇用期間に係る契約書という形式をとっていること、(3)外国人契約等を締結した教員については、被告との間で契約書を取り交わすが日本人契約と異なり誓約書及び身元保証人による保証書の提出は求められなかったこと、退職手当を支給する取扱いはされなかったこと、休職が認められなかったこと、兼職が禁止されなかったこと、契約書に記載された手当のみが支払われるものとされていたこと、特別休暇が認められなかったことなどを併せ考えれば、被告は外国人等契約を締結したフルタイム専任教員を定年制が設けられた教育職員ではなく嘱託職員として取り扱っていたと認められ、組合も格別そのことに異議を述べたことは窺われないこと、(4)組合と被告との交渉の過程からすれば、被告のみならず組合も、その組合員である原告らの多くが多数回にわたり更新を繰り返してきた平成3年11月の時点においても、なお外国人等契約は1年間という期間を定めた雇用契約であることを認識していたものと認められること、以上(4)を総合すれば、外国人等契約は1年間という期間を定めた雇用契約であると認められる。
原告F及び同Gを除いた原告らは、採用面接の際に、被告から、本採用になれば懲戒解雇以外は契約を打ち切られることはないとか、勤続年数に応じた給与とボーナスに増額があるなどの説明を受けたこと、被告に雇用されてから雇止めまで3回ないし16回にわたり外国人等契約の更新を繰り返してきていること、採用面接時に、4年制大学の学位を取得し、英語教員の経験があり、語学能力や教員としての適性などを有していることなど審査された上、1年間の試用期間を設けて教授技術・適性を試し、管理者による2回の授業観察に合格して初めて正式に雇用されていることの各事実を総合すれば、原告らが長期にわたって被告に雇用され続けることを期待することも当然であるということができる。一方、上記(1)ないし(4)の各事実に照らし、その他各事実を総合しても、これらの事実だけでは、原告らが被告との間で締結した外国人等契約がその契約締結の当初から期間の定めのない契約であったということはできないし、その後期間の定めのない契約に転化したということもできない。以上によれば、原告らと被告との間で締結された雇用契約が期間の定めのない契約であるということはできない。
2 外国人等契約は外国人を差別する契約として無効か
終身雇用を前提とする従来の賃金体系では外国人教員にとって魅力があると思えるほどに高額の賃金を提供することはできなかったという状況の下で、外国人等契約は、外国人教員を期間の定めのある嘱託社員として扱うことによって従来の賃金体系との整合性を図るとともに、従来の賃金体系からすれば高額の賃金を提供することによって多数の外国人教員を雇用する目的で導入した契約であることからすれば、被告としては、雇用期間以外はすべて外国人契約と同じ内容で雇用期間の定めのない契約を締結することはできなかったというべきである。そうすると、被告には外国人教員との間で期間の定めのない雇用契約を締結する意思がないものと認められるが、そのことをもって、外国籍又は人種による明らかな差別と認めることはできないのであって、外国人等契約のうち期間を定める部分が憲法14条、労働基準法3条に違反して無効であるということはできない。
3 解雇に関する法理の適用ないし類推適用の有無
期間の定めのある契約において、労働者が契約期間の満了後も雇用関係の継続を期待することにある程度の合理性が認められる場合には、そのような契約当事者間における信義則を媒介として、契約期間の満了後の新契約の締結拒否(雇止め)について解雇に関する法理を類推すべきであると解される。前記の各事実を総合すれば、原告らが毎年度の契約の終了後も雇用関係の継続を期待することに合理性があるものと認められるから、原告らが被告との間で締結した契約の雇止めについては解雇に関する法理を類推適用すべきである。
4 平成7年度末の雇止めの有効性
被告は、平成7年度末に雇止めにする対象者の選定の、第1の基準は雇用形態であり、第2の基準は高齢者であり、第3の基準はこれまでの勤務状況の良否であると主張する。
被告は、日本人契約から外国人等契約に切り替えた日本人教員については日本人契約を締結した日本人教員よりも優先して解雇されるなどといった雇用調整を一応予定していたこと、そのため被告は、契約切替えの説明会で、要員調整の必要があれば外国人等契約の締結者が優先して雇止めになる旨説明していたこと、日本人契約から外国人等契約へ切り替えた日本人教員も、一応雇用調整が予定されていたことは十分認識していたことを認めることができる。そうすると、少なくとも日本人契約から外国人等契約に切り替えた日本人教員については、雇止めの効力を判断すべき基準が、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない契約を締結している日本人教員を解雇する場合とでは合理的な差異があると認められるから、第1の基準は、少なくとも契約を切り替えた日本人教員の中から雇止めにする対象者を選定する際の基準としては合理性を有するものということができる。
第2の基準及び第3の基準は、労働能力を基準としてこれの劣る者から整理することを意図するものとしてその合理性を肯定することができる。第3の基準はそれ自体が、雇止めにする者の選定のとして合理性を有するとしても、その基準の当てはめが不合理であれば、第3の基準に基づく選定はそれだけで無効であるといわざるを得ない。本件において被告は、英語科担当の教員を11名削減する必要があり、希望退職者は7名いたというから、雇止めすべき教員は4名であるところ、6名を雇止めしているが、その理由について、資質、勤務態度などに問題があって人選から外すべき事情が見当たらなかったと主張する。しかし、余剰人員の削減を目的とした雇止めにおいてはその対象者を最小限に留めるべきと考えられるから、被告の主張に係る理由は、4名で足りるところを6名も雇止めにした理由としては到底納得し得るものではないのであって、他に合理的な理由があることが窺われない本件においては、被告には、原告A、B、C、D、E及びHを雇止めにしたいと考える何らかの理由があって、その理由に基づいてこの6名について雇止めに及んだものというほかない。
以上によれば、平成7年度末において英語科目担当の教員6名についてされた雇止めは、その選定の基準とされた第3の基準の当てはめが不合理であるというべきであるから、雇止めにおいて上記6名を選定したことは無効というべきであり、同原告らを対象とした平成7年度末の雇止めは、権利の濫用として無効である。
余剰人員の削減を目的とした雇止めにおいて、およそ余剰人員の削減の経営上の必要性があると認められなければ、当該雇止めに合理性があるということはできないのであり、その場合には当該雇止めは権利の濫用として無効であるというべきであり、またおよそ余剰人員の削減の必要性があると認められたとしても、余剰人員の削減の経営上の必要性に合理性が認められなければ、やはり当該雇止めに合理性があるということはできないのであり、その場合には当該雇止めは権利の濫用として無効であるというべきである。本件では、平成7年度末の雇止めには経営上の必要性、合理性があるものと認められ、原告F及びGを対象とした平成7年度末の雇止めが、人員削減の必要性という観点においては、権利の濫用として無効であるということはできない。
原告F及びGを対象とした雇止めについて就業規則に基づいて解雇権が発生しているとしても、被告が希望退職の募集など他の手段を採ることによって雇止めを回避できたにもかかわらず、被告としてもそれ相応の努力をするのが通例であるのに、何の努力もしないで突然雇止めをした場合などに、諸般の事情を考慮すると、雇止めが権利の濫用に当たるというべき場合があり得るものと解される。平成7年度末、OA科目担当の教員は3名で、そのうち1名が日本人契約を締結し、その余が原告F及びGであったが、雇止めの対象とすべきOA科目担当教員は2名であることを考えると、被告が雇止めに先立って行った募集努力、経費節減及び人員調整が、雇止めを回避するために不十分であったこと、原告F及びGを他に配転する余地があったことを認めることはできない。以上によれば、原告F及びGを対象とした平成7年度末の雇止めが、雇止め回避努力という観点において、権利の濫用として無効であるということはできない。
余剰人員の削減のための雇止めを行うに当たって、雇止めに至る手続きが信義に反するかどうかといった観点から、解雇権の濫用という評価を基礎付ける事情に当たるといえる場合があり得ると解される。被告は、平成7年度末の雇止めに至るまで本件組合との間で、平成8年1月以降に限っても15回にわたり団体交渉を重ねてきたが、その席上で経営が悪化していることや、雇止めをする必要のある8名の人選基準及び原告Aほか7名がその基準に該当したことが認められるが、このような経緯からすれば、雇止めに至る手続きが信義に反するかどうかといった観点から、解雇権の濫用という評価を基礎付ける事情があるということはできない。
以上によれば、原告F及びGを対象とした平成7年度末の雇止めが権利の濫用として無効であるということはできないが、原告A、B、C、D、E及びHを対象とした雇止めは権利の濫用として無効であるというべきである。
5 平成8年度末の雇止めの有効性
被告は、平成8年度末に雇止めする対象者の選定基準は、原告I外7名及び訴外Qが再三求められたにもかかわらず、平成9年度フルタイム教員1年契約締結希望調査書を提出せず、平成7年度及び8年度の契約書を提出しなかったことであると主張する。しかし、これら書類の不提出という基準が、労働能力の劣る者から整理することを意図する基準や、生活上の打撃を基準として雇止めされても困らない者から整理することを意図する基準や、くじ引きなどのように機械的な公平を意図する基準などに優先して適用されるべき選定の基準であるとは認め難いから、これらの書類の不提出という選定の基準は、雇止めにする対象者の選定の第1の基準としては合理性を欠いているというべきである。
平成8年度末には4名削減する必要があったこと、原告A外7名及びQの9名を削減した結果、被告は新規採用によってその不足分を補ったことが認められ、4名で足りるところを9名も雇止めにした理由としては到底納得し得るものではないのであって、被告には原告A外7名及びQを雇止めにしたいと考える何らかの理由があって、その理由に基づいてこの9名について雇止めに及んだものというほかない。以上によれば、書類の不提出という選定方法はそれだけで無効であるし、またその選定の基準の適用の仕方及びその結果も不合理といわざるを得ず、原告A外7名を雇止めの対象として選定したことは不合理というべきであるから、平成8年度末の雇止めは、権利の濫用として無効である。
6 平成7年度末の雇止めの不当労働行為該当性
平成7年度末の雇止め対象者は、いずれも本件組合の組合員であり、その中には組合3役が含まれていたこと、平成8年度末の雇止め対象者もいずれも組合員であり、これによって休職中の1名を除いて全ての組合員が被告から排除される結果となったこと、平成8年度末の雇止め対象となったQは、本件組合を脱退して被告に雇用の継続を求めたところ、被告は雇止めを撤回して復職させていること、被告は平成9年3月ないし4月に新たに4名の外国人英語担当教員を雇い入れていることが認められ、雇止めの対象となった原告らを雇止めをしたいと考える何らかの理由があって、その理由に基づいて雇止めに及んだものというほかないことも考え併せると、平成7年度末の雇止めは被告の不当労働行為意思に基づくものと考えられないものでもないが、他方において、雇止めの対象とされた原告F及びGについては人員削減を目的とした雇止めとしては無効であるということはできないことからすると、仮にその雇止めが不当労働行為意思に基づくものであったとしても、それを決定的な動機としてされたことを認める証拠はないから、原告F及びGを対象としてされた平成7年度末の雇止めが不当労働行為に当たるとまで認めることはできない。以上によれば、原告F及びGを対象としてされた平成7年度末の雇止めが不当労働行為に当たり無効であるといことはできない。
7 原告らの未払賃金の金額
労働契約に基づく労働者の労務を遂行すべき債務の履行につき、使用者の責めに帰すべき事由によって労働者の債務の履行が不能になったときは、労働者は現実には労務を遂行していないが、賃金の支払いを請求することができる(民法536条2項)。そして、使用者が労働者の就労を事前に拒否する意思を明確にしているときも、労働者の労務を遂行すべき債務は履行不能となるというべきであるが、労働者は同項の適用を受けるためには、それが使用者の責めに帰すべき事由によるものであることを主張立証しなければならず、そのためにはその前提として労働者が客観的に就労する意思と能力を有していることを主張立証することを要するものと解するのが相当である。
原告のうち原告F及びGを除く者は、帰国したり、他の職場で就労したりし、自らが客観的に被告において就労する意思と能力を有していることについて何らの主張も立証も行っていないというべきであるから、同原告らの未払賃金の請求を認めることはできない。 - 適用法規・条文
- 憲法14条、民法536条2項、労働基準法3条
- 収録文献(出典)
- 労働判例818号55頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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