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電信電話会社配転等差止仮処分命令申立事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- 電信電話会社配転等差止仮処分命令申立事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成14年(ヨ)第10048号
- 当事者
- その他 個人29名 甲、乙、丙、丁、A〜Y
その他 電信電話株式会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 2003年04月07日
- 判決決定区分
- 却下
- 事件の概要
- 債務者は、地域電気通信事業を目的として設立された株式会社であり、債権者らはいずれも債務者の従業員であり、債務者が電電公社であった頃に、従業員の多数で構成されていた全電通の組合員であったが、その後全電通又はその後身であるNTT労組を脱退した。
NTT、債務者及びNTT東日本は、平成11年11月17日、「中期経営改善策」として、人員削減等を内容とする3ヶ年計画を策定し、債務者は、平成13年4月、NTT労組等組合に対し構造改革を提案した。その内容は、従業員の雇用形態及び処遇体系を多様化し、1)60歳満了型(現行制度により60歳定年まで勤務する形態であり、勤務地を問わず、成果主義賃金による)、2)繰延型(債務者を退職し、地域会社に65歳まで雇用される)、3)一時金型(債務者を退職し、地域会社に雇用されるが、節目において退職金を複数回受給できる)とするものであった。そして、51歳以上の従業員については、2)又は3)の選択を基本とし、地域会社の給与水準は債務者の20〜30%下回ることとされた。
債務者は、平成13年12月19日以降、従業員に対して意向確認の面接を開始し、平成15年3月31日現在51歳以上の従業員は、平成14年1月中に意向確認書等を提出するよう業務命令を発し、いずれも選択しない場合は60歳満了型を選択したものとみなす旨通告した。
債権者らはいずれも51歳以上であったが、意向確認書等を提出しなかったため、60歳満了型とみなされ、それぞれ府県を超えた異動命令を受け、異議を留めつつ、異動先に赴任した。しかし、債権者らは、本件異動命令は不当、無効であるとして、本件配置転換等の差し止めを求め、仮処分を申し立てた。 - 主文
- 1 債権者らの申立をいずれも却下する。
2 申立費用は債権者らの負担とする。 - 判決要旨
- 債権者らが採用された当時の電電公社の就業規則には、勤務場所や担当職務を限定する定めはなく、また債務者の就業規則にも、勤務場所や担当職務を限定する定めはなく、従業員は「業務上必要があるときは、勤務事業所又は担当する職務を変更されることがある」との規定が存在する。
債権者らは、本件配転協約2条は、遠隔地への広域配転を行わないこと及び本人の同意なくして職種を変更しないことを規定し、これが債権者らと債務者との雇用契約の内容となっている旨主張する。しかしながら、労働協約が組合員に及ぼす効力は、協約当事者である組合の組合員であることに根拠づけられるものであるから、組合員としての地位がなくなった場合には、雇用契約の当事者の合理的意思が、労働組合脱退後も労働協約に定める労働条件を雇用契約の内容に取り込んで存続させることにあると認められるなど特段の事情がある場合を除き、当該労働協約の効力は及ばないと解するのが相当である。
債権者らは、各地区の通信局単位で採用され、30年以上の間、当該通信局の管轄範囲内であり、かつ居住地から通勤可能な職場に配属されており、広域配転又は出向しないことは労使慣行上確立している旨主張する。しかし、債務者が、昭和62年に全電通との間で配置転換に関する協約を締結して本件配転協約の内容を変更し、以後全電通又はNTT労組との間で順次配置転換に関する協約を締結し、それぞれその内容を社内通達により社内規定化していることからすると、債権者らの勤務地をその主張の範囲内に限定する労使慣行があると認めることはできない。
債権者らは、債務者がその従業員の同意なくして職種を変更しないことは、労使慣行として確立している旨主張するが、これが労使慣行として確立しているといえないことは上記のとおりである。したがって、債権者らの職種は、その限定があるとしても、社内規定として定められた「配置転換上の関連ある職掌」の範囲外の配転はなされないとの限度に過ぎないというべきである。そしてソリューション営業業務(大企業を中心としたユーザーに対する通信システムの提案型営業活動)は、職掌としては「職掌区分」のとおり「事務」に該当し、債権者らはいずれも「事務」と関連がない職掌を担当する者には該当しないのであるから、ソリューション営業業務が債権者らの限定された職種の範囲外であるとはいえない。
本件構造改革は、赤字が拡大する債権者の経営改善のための施策であるところ、債権者甲らが従前従事していた業務についてはすべて地域会社に外注されたこと、四国地域は愛媛支店に集約して収益を改善する方針であることからすると、従前徳島支店管内で業務を担当していた債権者甲らを愛媛支店に異動させる業務上の必要性があるといえる。債権者甲らは、各配転命令は四国電通合同の弱体化を図った不当労働行為である旨主張するが、債務者は組合活動について配慮して四国内の支店に異動させていることからすると、各配転命令がそのような不当労働行為意思に基づいてされたものということはできない。
債権者甲は、長男が高校生であって転校が困難であるとの理由で単身赴任をしているものの、債務者は1ヶ月に3万円程度の単身赴任手当及び6ヶ月に7回の帰郷旅費を支給していること及び徳島と松山の距離に照らすと、このような不利益は通常甘受すべき程度を著しく超えるとまではいえない。
債権者乙は、従前80歳代後半の父親及び70歳代後半の母親と同居していたが、配転命令を受けて徳島支店から愛媛支店に単身赴任している。しかし両親と同居していた当時、債権者乙が両親のために行っていたことは、重い物の持ち運びや神棚の花の水の入れ替えであり、これらのことを毎日行えないことによる不利益は、通常甘受すべき程度を超えるものではない。
債権者丙らは、異動前は病気療養中の姉に少なくとも週に1回程度は食事を運んでおり、異動後も同程度の世話をしようとする場合には、松山市から阿南市まで車で4時間30分、高速道路代往復8700円及びガソリン代を費やすことになるが、その不利益の程度は通常甘受すべき程度を著しく超えるものではない。なお、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律26条違反の主張については、債務者において、病身の姉の世話をすることについて事前に知り得る状況にあったとの疎明はないこと及び愛媛支店に異動後の状況について受忍すべき範囲内に留まることからすると、同条の違反があったということはできない。
以上の通り、債権者甲らに対する各配転命令については、それぞれ、業務上の必要があり、債権者甲らの受ける不利益は通常甘受すべき程度を著しく超えるものではないし、不当な目的に基づくともいえないことからすると、いずれも権利の濫用又は不当労働行為に当たるということはできない。しかも、債権者甲らについて、それぞれ、愛媛支店ソリューション営業部において勤務する義務がないことを仮に定めなければ著しい損害又は急迫の危険が生じることの疎明があったとはいえず、保全の必要性も認めることはできない。
債権者Aらは、まだ発令されていない配転命令又は出向命令により就労を命じられる勤務先における就労義務の不存在確認請求権を被保全権利としているが、形成権の行使であり、かつその就労義務の根拠となる配転命令又は出向命令が発令されていない以上、債権者Aらの申立ての利益はないというべきである。 - 適用法規・条文
- 育児・介護休業法26条
- 収録文献(出典)
- 労働判例853号42頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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