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S社請負打切事件

事件の分類
雇止め
事件名
S社請負打切事件
事件番号
京都地裁福知山支部 - 平成11年(ワ)第24号
当事者
原告 個人2名 A、B
被告 株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2001年05月14日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
 被告は、輸送機並びに昇降機の製作、販売等を目的とする株式会社であり、原告A、原告Bは、昭和48年7月から新設された被告福知山工場で稼働していた者である。原告Aは、同人及び2名の組子で構成される「A工業」の代表者であり、原告Bは当初A工業に所属していたが、昭和52年4月から、同人及び1名の組子で構成される「Y産業」の代表者になった。

 原告らは、平成3年11月16日、常用作業者協力会を発足させ、平成4年2月17日付けで、被告と各常用の組の代表者及び下請業者との間で請負工事取引基本協定書(本件協定書)が締結され、同協定書には「有効期間は1ヶ年とするが、期間満了1ヶ月前までに双方において異議の申し出がないときは、本協定は更に1ヶ年延長されるものとし、以後も同じとする」旨の記載があり、「覚書」では1ヶ年経過時点で契約解除することではない旨の記載があった。

 原告Bは、平成8年9月17日、作業中に負傷し、同日から同年11月28日まで、平成9年3月3日から28日まで、平成10年1月19日から31日まで入院し、同年5月31日まで継続して治療を受けた。原告らはこの事故を契機に、被告に対し労災補償としての休業補償を求めたが、被告がこれを拒否したため、原告らは組合を結成して被告に団体交渉を求めたが、被告は原告らが請負人であるとしてこれを拒否した。このため、組合は京都地労委に団交あっせんの申立をしたが、不調に終わった。

 被告は、平成9年5、6月頃から、下請や外注取引に関する基本契約書を全社統一とする作業を進め、その一環として、下請協力世話役である原告らに対し、新規請負契約書を示して、これによる取引に移行させたい旨の意向を表明した。被告は、同年12月頃までには、ほとんどの常用や下請業者らの同意を取り付けたが、原告らが同意しないことから、平成10年1月8日頃、同年2月20日をもって契約を打ち切る旨通知した。これに対し原告らは、契約条件を示さないまま契約を結ぶよう強要し、新規請負契約書と覚書の関係を質したが、被告は明確な回答をせず、同年2月20日限りで原告らとの契約を打ち切った。なお、労働基準監督署長は、被告に対し、平成9年11月、原告らに労基法所定の有給休暇を認めるよう口頭勧告を、同年12月に文書勧告を行ったほか、平成10年4月、原告Bの事故を労災と認定した。また公共職業安定所は、同年9月、原告らが雇用保険の被保険者であることを確認した。

 原告らは、原告らと被告との間の契約は労働契約であり、実質的に期限の定めのない契約に転化していることから、契約更新拒絶は解雇に当たるところ、整理解雇の要件を満たしていないから無効であるとして、被告の従業員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。これに対し被告は、原告らとの契約は請負契約であり、原告らは下請業者としての適格性を喪失したこと、原告らとの間だけで旧契約を更新することは他の下請業者との間で差別になること、仮に原告らとの契約が雇用契約であったとしても、長期化する深刻な不況下でコスト削減を行ってきたところ、原告らを解雇することは正当な理由があると主張して争った。
主文
1 原告らと被告との間において、原告らがそれぞれ労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 原告らの訴えのうち、この判決確定後における金員支払請求にかかる部分をいずれも却下する。

3 被告は、原告Aに対し、平成10年3月から本判決確定に至るまでの間、毎月28日限り、1ヶ月68万7135円の割合による金員を支払え。

4 被告は、原告Bに対し、平成10年3月から本判決確定に至るまでの間、毎月28日限り、1ヶ月48万7987円の割合による金員を支払え。

5 原告Bのその余の支払請求を棄却する。

6 訴訟費用は、これを10分し、その1を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

7 この判決は、3項及び4項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 原告らと被告間の各契約は労働契約か

 原告らがかつては組子を有した組の代表者であり、平成4年2月17日頃には「請負工事取引基本協定書」と題する本件協定書の調印に応じ、また同年3月頃には、自ら福知山工場内下請協力会世話人と称して被告と交渉に当たったこともあること、また個々の作業方法については原告らの技術判断に委ねられる部分があったことなどからすると、原告らと被告間の各労務供給契約に、請負契約と見られ得る側面があることは否めない。

 しかし、原告らと被告間の各労務供給契約に請負契約と見られ得る側面があるにしても、その労務提供が被告の指揮監督下に行われ、その報酬が労務提供の対償であるならば、原告らは労働者性を満たし、その契約は労働契約であることになる。そして、原告らは、(1)正社員とほぼ同様の勤務日及び勤務時間の指定及び管理を受けて被告の製造業務に専属的に従事し、(2)被告の提供する設備を用い、被告の工場内又は被告の職制から指示された場所において、被告の職制の指示に基づき作業を行うほか、必要に応じて忙しい他の部署への応援作業に従事し、(3)組子に対する指示も、被告の職制が直接行って、原告らはこれに関与する立場にないなど労務提供についての代替性もなかったのであるから、原告らは被告の指揮監督下で労務を提供していたということができるし、報酬についても、原告らは基本的に時間外割増賃金を含む時間給の支給を受けていたから、それが労務提供の対償であるということができる。したがって、原告らは労働者性を満たし、その契約は労働契約であることになる。

 なお、原告らは、正社員と同様の採用試験を経ていないし、就業規則の適用もなく、組子を有し、対価については所得税の源泉徴収並びに社会保険及び雇用保険の保険料の控除

を受けずに支給を受け、これを原告Aは事業所得として、原告Bは給与所得として確定申告していたといった事実も認められる。しかしながら、これらの事情は、労働者性が問題となる限界的事例においてその判断を補強するのには役立つ事情ではあるが、本件においては原告らの使用従属性は相当に明確であり、しかも被告は、原告らや組子に対する報酬額も実質的には決定していたなどという事実関係のもとでは、原告らには独立の使用者としての実態はないことになる。

2 原告らと被告間の労働契約が終了したか

 平成4年2月17日付の協定書には、有効期間は1ヶ年とするが、期間満了1ヶ月前までに双方において異議の申し出がないときは、本協定は1ヶ年延長され、以後も同じとする旨の記載がある。しかし、原告らとの契約関係は昭和47、8年から継続されてきたし、そもそも当初契約については期間の定めがあったとは認められないばかりか、本件協定書と同日付けで締結された本件覚書には、有効期間が1ヶ年となっているのは、長期の契約を結ぶことにより同じ条件にて隷属することを避けることにあり、不満な条件であれば双方いずれかの申し出により現契約を破棄し新しい条件の下に契約を結び直すことができることを意味するものであって、1ヶ年経過時点で契約解除するとのことではないことを承知おかれたいとする条項があることなどからすると、原告らと被告間の労働契約は、実質において期間の定めのない契約に類似するものであると認められることになる。

 したがって、原告らにおいて本件協定書に記載された期間満了後もこの契約関係が継続されるものと期待することに合理性があるから、従前の取扱を変更して契約更新を拒絶することが相当と認められる特段の事情が被告に存しない限り、被告において、原告らとの間の労働契約を期間満了により一方的に終了させることは許されない。

 被告の売上げが平成9年以降、年々減少しつつあり、平成12年3月期の受注残高は平成9年3月期のおよそ半分になっているが、会社全体としての当期利益は、平成10年3月期に5億4700万円減少したものの、その後8億円台を維持していることが認められる。したがって、今直ちに経営合理化のため人員整理を進める必要性があったことを客観的に認められる状態であるとはいえないし、まして、十分に協議し、希望退職者を募るといった手段その他解雇を回避するために有効な何らかの方策を講じたことを窺うことはできないから、未だ解雇回避のための十分な努力を払ったということはできない。

 結局、被告は、整理解雇要件が具備されているとは認められない状況下において、代償的措置を明確にしないまま、原告らの地位を不安定にしかねない内容の新規請負契約への移行を提案して、平成10年2月20日限りで従前の契約の更新を拒絶したに留まることになるのであり、この契約更新拒絶について、それが相当と認められるに足るだけの合理的必要性が被告にあったとは認められない。また、平成11年2月20日に更新拒絶後1年が経過したからといって、同日限りで原告らと被告との間の労働契約関係が終了したとすべき理由も認められない。そうすると、原告らは、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあるというべきところ、被告がこれを争っているので、この地位の確認を求める原告らの請求は理由がある。

3 原告らの平均賃金

 被告から支給を受けていた1ヶ月平均の労働対価は、原告Aが68万7135円、原告Bが48万7987円である。したがって、原告らは、平成10年2月21日以降も、1ヶ月分の賃金として、上記金額の支払を求める権利を有するものというべきことになる。

もっとも、本件口頭弁論終結日以降の分の賃金請求は、将来請求であるし、将来の給付を求める訴えは、予めその請求をする必要がある場合に限り提訴することができるところ、本件において特段の事情については、特に主張・立証されていない。したがって、本判決確定後の期間についての金員支払請求は不適法である。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例805号34頁
その他特記事項
本件は控訴された。