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L社・T社雇止・団交拒否事件

事件の分類
雇止め
事件名
L社・T社雇止・団交拒否事件
事件番号
東京地裁 - 平成10年(ワ)第16925号
当事者
原告 個人1名、労働組合
被告 T株式会社、L株式会社
業種
建設業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1989年07月06日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
 被告L社は、平成2年にR鋼機株式会社とY空調株式会社との合併により設立された会社であり、T社は、L社の上尾工場におけるスチールの扉・窓加工製造部門が分社化されて設立された会社であって、平成9年3月に理研アルミ工業(R社)を吸収合併した。一方、原告は、昭和62年11月16日、R社に雇用期間1年の臨時工として就職し、以後同社との間で雇用期間1年の雇用契約を更新していたが、R社がT社に合併されたことによりT社の従業員となり、平成9年3月31日付けで、期間を翌4月1日から平成10年3月31日までとする雇用契約を締結した。

 原告組合は、被告T社で働く労働者の組合であり、所属する組合員は、平成9年6月の結成当初は支部長である原告外1名であったが、平成10年4月1日にその1名が脱退したことにより、それ以降原告のみとなった。

 被告T社は、平成10年2月25日付けで、R社から引き継いだ原告を含む従業員140名全員に対し、同年3月31日をもって解雇する旨の意思表示をし、同日付けで一旦全員を解雇した上、このうち40名(原告は含まれない)と新たに雇用契約を締結した。

 原告組合は、被告T社に対し、140名の解雇についての説明、T社の赤字内容、40名の再雇用等について、被告L社に対し、原告の雇用保障等について、それぞれ団体交渉を求めたが、両被告ともこれに応じなかった。

 原告らは、原告とT社との間の雇用契約は、10年以上にわたって契約が反復更新され、仕事の内容も本工と変わりないから、実質上期間の定めのない契約と同視すべきであるところ、その解雇は権利濫用として無効であること、被告T社は解雇回避努力義務を怠ったこと、被解雇者の選定が妥当でないこと、解雇について十分に説明するなどの手続きがなされていないこと、被告T社及び被告L社とも、原告組合との団体交渉を拒否したことなどを主張し、原告が被告T社との雇用関係にあることの確認及び賃金の支払い並びに原告組合との団体交渉応諾義務の確認を請求した。
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。
判決要旨
1 本件解雇の効力

 本件解雇の意思表示は、法的には、期間の定めのある雇用契約について雇用期間が満了する平成10年3月31日の後契約を更新しないとの意思表示であって、いわゆる雇止めの意思表示であると解すべきであるが、原告の従事している業務内容が正規従業員と異ならず、かつ10年以上にわたって契約が更新されてきたこと及び雇用契約書の契約更新に関する文言等からすれば、原告とR社及び被告T社との間では、会社側に景気の変動等による労働力過剰状態を生じ又は原告に健康上労働に耐えないという事情が認められない限りは、1年の雇用期間満了後雇用契約は当然更新されることが契約当事者双方において予定されていたというべきであり、そのような労働者の雇止めは、実質においては解雇と変わりがないから、雇止めとするについては、解雇に関する法理が類推されるべきである。したがって、解雇であれば、解雇権の濫用として解雇が無効となるような事情が存在する場合には、再契約を締結しないことは権利の濫用として許されず、従前の雇用契約が更新されたと同一の法律関係を生じると解される。

 R社は、平成5年頃以降赤字に苦しみ、人員削減や役員報酬カットなど経営改善努力をしていたものの効果が見られず、赤字基調のまま被告T社に吸収合併され、同被告の第2製造部として業務を継続していたところ、同部の業績も依然振るわず、加えて主力注文先から発注量を4割に減少させる等の通告がなされたことにより、同部第1課は平成10年4月以降存続させることが経営上不可能な状態となり、これを漫然放置するときは、被告T社が早晩倒産に至る可能性が極めて強い状況に立ち至っていたというべきである。そのような状況下で、被告T社がこの事業部門を事実上閉鎖することとしたのは、経営上やむを得ない必要があり、かつ合理的な措置であったということができる。そして、この事業部門の閉鎖により、第2製造部の全従業員の2分の1をはるかに超える過剰人員を生じることになるから、人員削減の必要があったことは明らかである。

 原告らは、被告T社が配転、出向、一時帰休、希望退職募集等の解雇回避努力を尽くすべきであったと主張するが、被告T社内部にも、被告L社とその関連会社にも、結果的には100名となった余剰人員を配置転換や出向で吸収し得るだけの労働力需要がなかったことは明らかである。そして、被告T社の労働力過剰状態は、近い将来の需要回復を期待すべき根拠は皆無であったといえるから、過剰人員に対処する方法として一時帰休を選択すべきであったとも考えられない。更に、上記のような極めて多数の過剰人員を希望退職の方法で解消するというのも現実的でない上、被告T社では退職金の原資となるべき金員が極端に不足しており、希望退職の方法をとった場合残留従業員の将来の退職金支払いに不安が残るため、全員解雇の方法を採用したのであり、正規従業員の大多数が所属する労組もむしろこの方法を希望したことも考慮すると、被告T社が希望退職を募集せず、全員退職の方法をとったことには合理性があったというべきである。

 被告T社は、実質的にみると、被解雇者を選定して整理解雇を行ったと同一の結果が生じたともいえるところ、原告らは被解雇者の選定が妥当性を欠いていたと主張する。しかし、被告T社の取った再雇用方針は、実質的には、(1)全面撤退する製造第2部製造第1課に所属していた者は全員解雇し、(2)継続事業部門である同部製造第2課についても、過剰となる人員分を一部解雇し、(3)これに伴い余剰となる管理部門の人員も一部解雇するのと同じことになる。この方針は、客観的にみて合理的な基準によるもので、妥当なものということができる。そして、少なくとも再雇用者の中には、第2製造部製造第2課に所属していた従業員は、日給者・パートはもとより、正規従業員であった者も1人も含まれていないから、被告T社は上記の方針に従って原告に対する本件解雇を実践したと認めることができる。

 被告T社は、団体交渉及び労働委員会のあっせんの場において、原告組合の代表者である原告に対して、6回以上にわたり、整理解雇の必要性、整理方針、整理解雇の基準、退職条件について十分な説明を行っていると認められるから、解雇に至る手続きが不当であるとする原告らの主張も採用し難い。

 以上によれば、第2製造部製造第2課に所属していた日給者である原告に対し、被告T社が行った本件解雇(雇止め)には、その必要性及び合理性が認められるのであって、これが権利濫用として許されないと評価すべき特段の事情を認めることはできないから、原告と被告T社との間の雇用契約は平成10年3月31日をもって終了したというべきである。

2 被告らの団体交渉応諾義務

 原告組合に所属する組合員が原告のみであるところ、原告は平成10年3月31日をもって被告T社の従業員たる地位を失ったから、原告組合には被告T社を使用者とする労働者の構成員が存在しないことになる。そうであれば、原告組合が被告T社に対し団体交渉を求め得る根拠はない。また、原告組合の被告L社に対する請求も、原告が被告T社の従業員たる地位にあることを前提とすることが明らかであるから、同様に、原告組合が被告L社に対し団体交渉を求め得る根拠はないことになる。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例814号53頁
その他特記事項
本件は控訴された。