判例データベース
P社派遣社員不正事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- P社派遣社員不正事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成7年(ワ)第11249号
- 当事者
- 原告 労働者派遣先会社
被告 個人1名、労働者派遣元会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1996年06月24日
- 判決決定区分
- 認容(確定)
- 事件の概要
- 原告は、土質・地質調査、環境公害調査等を業とする会社であり、被告会社は、労働者派遣事業、事務処理、経理処理の請負等を業とする会社であり、原告は被告会社との間で、平成5年10月1日、労働者派遣契約(本件契約)を締結し、同年11月2日から翌6年12月1日までの間、「ファイリング、給与計算、社会保険手続き」を業務とする被告の派遣を受けた。被告は、原告において、高額医療費・一部負担還元金・家族医療付加金・高額療養給付金・健康診断補助金・宿泊補助金(各種給付金)の受入れ及び支払い事務を担当した。なお、原告が被告会社に支払う派遣料は月額35万1000円ないし35万4000円であり、被告会社が被告に支払う賃金は時給1620円(月20日で月額22万6800円)であった。被告会社は、以前の労働者派遣契約には、金銭の取扱いをさせないこととの条項を入れていたが、本件契約書には同条項を規定しておらず、被告は社会保険手続きの一環として現金取扱業務を行ったが、被告から現金取扱業務が契約外業務であるとの申し出はなかった。
被告の派遣終了後、原告の社員から各種給付金の不支給の苦情が出て調査したところ、合計13回にわたり虚偽の内訳書が作成され、総額266万6703円が不支給の各種給付金の不明金として発覚したため、原告はこれを被告の不正領得によるものと判断して、支給を受けなかった従業員に対して補填支給した。そして、原告が被告会社に対し事実関係の確認を求めたところ、同会社は不明金の半額を取りあえず立て替え、半分は被告に確認の上、同人から返金させる旨の回答をしたが、原告は全額支払いを申し入れた。
原告は、被告の不正行為により損害を受けたとして、被告及び被告会社に対し、各種給付金に係る266万6703円及び弁護士費用30万5000円を請求した。 - 主文
- 1 被告らは、原告に対し、連帯して、金297万1703円及びこれに対する平成7年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告らの負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 各種給付金の支給手続及び原告の調査結果、被告の派遣終了後の所在不明等に照らすと、被告による本件266万6703円の領得の事実が認められる。
社会保険手続きに付随しての本件現金取扱い業務程度の現金業務は予測できること、本件契約締結に際しての原告側の派遣業務についての説明、本件契約書に現金業務の除外規定がないこと、派遣労働者が本件現金取扱い業務を行っても被告会社や派遣労働者から何らの申し出もなかったこと等に照らすと、本件契約に基づき被告が担当すべき仕事の範囲に現金業務が含まれていたと解される。
被告の本件現金取扱い業務が本件契約に基づく業務内容であること、同人は、被告会社に雇用されて原告へ派遣され、同会社から給与の支払いを受けていたこと、同会社の派遣担当のAが定期的に原告を訪れ、被告の仕事振りを見て監督していたこと、実質的な派遣料(派遣料から給与を控除した額で給与の約半額)は、被告会社による派遣労働者の指導監督の対価の意味もあると考えられること、同会社は、原告から被告の住民票の提出があったのに拒んだこと、本件契約第7条で損害賠償を規定すること等からすると、同人の本件領得行為は、本件契約に基づく派遣業務としての被告会社の職務の執行につきなされたものと解される。
以上認定した結果及び下記に照らすと、被告会社において、被告の選任及びその職務執行の監督について相当の注意を尽くしているとは到底いえない。
被告の前記内訳書への転記が正確になされているかについて、同人の派遣先の上司の監視、確認がその都度厳格になされていれば、本件領得を未然に防げた可能性が高いと考えられるけれども、他方、各種給付金は、社内従業員が支給の額や時期を予測できるものが多いため、領得された場合ほどなく苦情が出されることから、一定の監視が及んでいると言えること、前記内訳書への記載も経理担当者が隣にいる机の上で作成されていること、過去において各種給付金の領得の事実はなかったこと、右事情において、故意に各種給付金を領得した被告に対する本件損害賠償請求につき原告の過失相殺を認めるのは相当でないところ、被告会社は、被告から住民票の提出も受けないで雇用して原告に派遣し、派遣後は被告を監督し派遣料を得ていたことに照らすと、被告会社に対する損害賠償請求につき原告の過失相殺を認めるのも相当でない。
本訴提起の事情、訴訟追行の経過、認容額等に照らすと、本件領得と相当因果関係がある弁護士費用として原告の請求する金30万5000円は相当である。 - 適用法規・条文
- 民法709条、715条、722条2項
- 収録文献(出典)
- 判例時報1601号125頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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