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国鉄O工事局臨時雇用員雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
国鉄O工事局臨時雇用員雇止事件
事件番号
大阪地裁 − 昭和59年(ワ)第635号
当事者
原告 個人1名
被告 日本国有鉄道清算事業団
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1989年11月13日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
 被告は、昭和62年4月1日、国鉄の分割民営化に伴い設立され、国鉄の一部債務等を承継した法人であり、原告は昭和47年3月9日、期間を2ヶ月とする臨時雇用員として国鉄O工事局に雇用され、その後2ヶ月ごとに契約更新を繰り返し(一旦退職した昭和48年9月30日から再就職した同49年9月10日までを除く)、昭和58年9月30日まで継続勤務した女性である。

 被告の前身である国鉄は、経営破綻に陥ったことから、昭和58年に臨時雇用員制度の廃止をすることとし、O工事局では臨時雇用員の再就職を斡旋するため再就職斡旋対策本部を設置して、国鉄の関連会社や公共職業安定所を通じて再就職先を模索し、臨時雇用員に対し再就職の希望等について聴取し、求人を斡旋した結果、59人中43人がその斡旋により再就職した。しかし、原告は希望聴取の段階から一貫してO工事局での継続勤務を希望し、再就職する場合には、総評傘下の労働組合があること、正規の従業員として身分保障があること、国鉄と無関係であること、残業がないこと、営業はしたくないことの条件を付け、斡旋された再就職先をすべて拒否した。そして、国鉄は昭和58年9月30日をもって原告を含む臨時雇用員59名全員を雇止めした。

 原告は、本件労働契約は期間の定めのないものであるから、本件雇止めには整理解雇の法理が適用されるところ、臨時雇用員を一律に第1順位として解雇するのは人選基準に合理性がないこと、国鉄は解雇回避努力義務を尽くさなかったこと、臨時雇用員の一律解雇は女性差別に当たること、労使協議義務を履行していないことなどを主張し、従業員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 本件契約は、あくまでも2ヶ月の期間の定めがある雇用契約であって、当初から期間の定めのない労働契約であったことを認めるに足りる証拠はなく、更新を繰り返すことにより期間の定めのないものに転化したと認めることもできない。しかしながら、本件契約は反復更新されて11年余にわたり継続されてきたことにより、実質的には期間の定めのない契約と異ならない状態で存在していたこと、事務補助職の職務内容は正規職員に比して同程度に高度のものとはいえないが、課内の事務処理に当たり必要不可欠なものであったことに徴し、本件雇止めの意思表示は実質においいて解雇の意思表示に当たると解されるから、本件雇止めの効力の判断に当たっては解雇に関する法理を類推すべきである。したがって、O工事局において従来の取扱いを変更してもやむを得ないと認められる特段の事情の存しない場合には、期間満了を理由として雇止めをすることは許されないと解するのが相当である。

 国鉄は、昭和39年度に欠損を生じて以来経営が悪化の一途を辿り、事実上破産状態にあったところ、日本国有鉄道経営再建促進特別措置法が成立し、職員の削減が行われ、O工事局では人件費を削減するため、臨時雇用員の担当業務を職員の業務に移行することとし、昭和58年に臨時雇用員制度を廃止することとし、同年6月29日原告を含む臨時雇用員59人に対し雇止めを提案した。以上の事実によれば、国鉄は高度の経営危機にあり、民間企業であれば倒産必至の状況下にあって、国鉄赤字を解消することが国民的課題となっていたこと、国鉄は右赤字解消のため設備投資の原則停止と共に人件費の削減を中心的な方策に据え、職員も含めた人員整理計画を策定・実施したこと、いわゆる分割民営化に伴い職員の一部は退職勧奨に応じ又は国鉄以外への転出を余儀なくされ、新会社に採用されなかったことからすれば、国鉄が人件費削減のために臨時雇用員制度の廃止を前提とした予算を組んだこと及びO工事局が設備投資の圧縮に対応して原告を含む臨時雇用員59人の雇止めを決定したことには企業経営上の観点から合理性がある。

 原告は、国鉄の余剰人員問題は国鉄再建監視委員会の「国鉄改革に関する意見」提出により具体化するのであって、本件雇止めの時点では解雇の必要性はなかったと主張する。確かに人員削減計画が具体化するのは昭和60年7月以降であるが、国鉄は昭和57年度末には既に破産状態にあり、業務改善の可能性は皆無であったこと等からすれば、昭和58年9月30日の時点で本件雇止めの必要性がなかったとはいえない。

 原告は、臨時雇用員を一律に第1順位として解雇するのは人選基準に合理性がないと主張する。しかしながら、職員と臨時雇用員とは採用形態・条件、職務内容、労働条件等を異にしており、臨時雇用員もその差違を熟知して長年にわたり職員化を要求していたこと、臨時雇用員の職務は職員よりも代替可能であることに徴すれば、簡易な手続きで期間を2ヶ月と定めて採用された臨時雇用員を雇止めする場合と、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない雇用契約を締結した職員を解雇する場合とでは、自ずから合理的な差異があり、臨時雇用員を一律に第1順位として雇止めするのも不合理とはいえない。

 原告は、国鉄が解雇回避努力義務を尽くさなかったから、本件雇止めは無効であると主張するが、臨時雇用員を一律に第1順位として解雇することも不合理とはいえないから、本件雇止めに先立ち職員の希望退職者を募集しなくても解雇回避努力義務違反とはならない。また本件雇止め当時、臨時雇用員全員が余剰であり、国鉄の他の部局に配置転換する余地もなく、臨時雇用員制度の廃止が不可欠であったのであるから、原告の配転可能性を探求し又は他の臨時雇用員に対して希望退職者を募集しなかったことも、解雇回避努力義務違反とはならない。

 原告は、臨時雇用員全員の一律解雇は女性を対象とするもので、性別による差別に当たり無効であると主張する。国鉄は昭和24年に女子職員を大量に採用して以来女子職員の新規採用を停止し、昭和52,55年を除き、男女雇用機会均等法が施行されるまで女性を職員として採用しなかったこと、その間事務補助業務は臨時雇用員として採用した女性に担当させていたこと、O工事局の臨時雇用員59人のうち53人が女性であったこと、国鉄は男女雇用機会均等法施行後女性を職員として採用し始めたことが認められる。これらの事実によれば、国鉄が男女雇用機会均等法施行前に女性を職員として採用しなかったことの当否はともかく、これを違法と断ずることはできないし、雇止めを通告された59人の臨時雇用員中53人が女性であったとしても、それは事務補助職をたまたま女性が担当していた結果であって、臨時雇用員の一律解雇が性別による差別に該当するということはできない。

 更に原告は、O工事局が国労分会との間で労使協議義務を履行していない旨主張する。一般に、労働協約に整理解雇についての労使間の協議ないし同意条項がない場合でも、使用者は人員整理を進めるに当たって労働組合に実情を説明しその了解を得るよう努力すべき信義則上の義務があると解されるが、認定事実によれば、O工事局は臨時雇用員削減問題について国労分会の了解を得るべく十分尽くすべき措置を講じたにもかかわらず、なおその了解を得られなかったことが認められ、労使協議を履行していないとはいえないと解するのが相当である。

 以上によれば、国鉄及びO工事局において臨時雇用員に対し従来の取扱いを変更して雇止めをする事もやむを得ない特段の事情が存在しなかったものとは認められず、他方、本件雇止めを無効とすべき事由はない。したがって、本件労働契約は、同年9月30日の経過をもって期間満了により終了したというべきである。
適用法規・条文
男女雇用機会均等法
収録文献(出典)
労働判例551号12頁
その他特記事項
本件は控訴された。