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地公災基金福井支部長(県立科学技術高校女教諭)もやもや病事件【過労死・疾病】

事件の分類
過労死・疾病
事件名
地公災基金福井支部長(県立科学技術高校女教諭)もやもや病事件【過労死・疾病】
事件番号
福井地裁 − 平成5年(行ウ)第4号
当事者
原告個人1名

被告地方公務員災害補償基金福井県支部長
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1997年11月19日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
原告(昭和15年生)は、昭和38年4月に福井県の養護教諭として採用されて以来、昭和49年4月からはK高校の教諭兼養護教諭として、昭和51年から同校の教諭専任として、勤務していた女性である。

 原告は、平成元年3月までは教務部に所属して主任を補佐し、同年4月からは1年生の担任として週24時間の授業を受け持っていた。また、担当している衛生看護学科の性質から実技指導が多く、生徒指導委員会の委員長として、特に問題のある2、3人の生徒に対して懇談指導を実施していた。

 原告は、同年6月28日、午前9時50分頃、三重県鳥羽市で行われる講習会に出席するために、JR越前花堂駅に赴き、階段を上り詰めたところで、両手に持っていた2個のバッグを落とし、脳内出血・脳室内出血を発症して倒れると共に嘔吐し、身体は硬直して口から泡を出し、呼吸も途切れがちになって意識不明に陥った。原告は病院に搬送され、血腫除去術、外減圧術の緊急手術が施され、意識状態が改善されたが、その後も軽度意識障害、左半身完全麻痺後遺症が残った。なお、原告はもやもや病の基礎疾患を有していた。
 原告は、本件発症は公務に起因するとして、被告に対し平成元年7月14日、地方公務員災害補償法に基づく公務認定災害補償請求を行ったところ、被告は平成2年2月28日、公務外とする決定(本件処分)を行った。原告は本件処分を不服として、審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 原告は、もやもや病の基礎疾患がある同人が、過重な公務を反覆継続したため、疲労が蓄積して血圧上昇及び血管破綻を来しやすくなっていたところに、本件災害直前に重い荷物を持って階段を上ったことが、本件災害の直接の原因となって、脳内出血・脳室内出血を引き起こした旨主張する。

 もやもや病は、脳の頸動脈及びその先にある前大脳動脈や中大動脈(主幹動脈)近位部が慢性進行的に閉塞して細くなり、本来は血管でない側副血行路が主幹動脈の機能を果たすために太くなって、破綻しやすくなる特徴があり、同病によって脆弱化したもやもや血管は、時に精神的緊張や肉体的負荷による血圧上昇を原因として破綻するに至ることがあるとする。一方、血圧が上昇することによって、もやもや血管が破綻すると推定する見解もあるが、血圧上昇ともやもや血管の破綻との関連を裏付ける実証的研究結果はなく、必ずしも強い労作をしなくても出血を発症する例があり、出血型もやもや病の発症に対して身体的・精神的疲労が関与しているとの医学的知見はないことが認められる。
 右認定事実、特に出血型もやもや病が、高血圧症の罹患者のみならず、正常血圧症の場合に多く発症している報告がなされていることに照らすと、右報告症例の母数が少数であることを考慮しても、血圧上昇がもやもや病に影響すると断定することはできず、むしろ、特段の精神的・肉体的負荷がなくても同血管は自然的経過によって破綻するものと推認される。してみると、本件災害は、原告の基礎疾患であるもやもや血管が、長期間の血流により脆弱化し、遂に血流そのものに耐えきれず破綻したことによって惹起されたと認めるのが相当であるから、公務の過重から来る精神的・肉体的負荷と発症との間には因果関係を認めることはできない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例796号69頁
その他特記事項
本件は控訴された。