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M社雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
M社雇止事件
事件番号
大阪高裁 − 平成9年(ラ)第971号
当事者
その他抗告人 個人1名
その他相手方 株式会社
業種
製造業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1997年12月16日
判決決定区分
棄却(確定)
事件の概要
 抗告人(昭和17年生)は平成4年1月20日にダム等の製造を業とする債務者に嘱託社員として採用された者であって、奈良工場において主として旋盤作業に従事していた。

 抗告人と相手方は、平成4年3月1日から6ヶ月ごとに契約更新を繰り返し、その後同年3月1日から10月18日まで更新した後、翌19日から平成9年4月13日まで6ヶ月ごとに更新を繰り返した。抗告人は加工ミスが多く、また当日の朝に連絡して休む「ポカ休」も多かった。

 相手方のマネージャーらが抗告人と面接し、抗告人に加工ミスが多いこと、ポカ休が多いなど勤務程度に問題があることなどから、平成9年2月24日、相手方は同年4月13日以降雇用契約を更新しない旨抗告人に告知した。

 これに対し抗告人は、本件契約更新が実質的に自動的に行われていたこと、作業の種類・内容の点で正社員と差異がないこと、採用後5年間10回にわたって契約が更新されていたこと等に照らすと、本件雇用契約は実質的に期間の定めのない契約と同視することができるところ、解雇を正当化するに足りる合理的な理由はなかったとして、従業員としての地位の保全と賃金の支払いを求める仮処分を申し立てた。
 第1審では、本件嘱託職員の更新が自動的に行われてきたものではないこと、抗告人には仕事上のミスやポカ休も少なくないこと、相手方の経営状況も芳しくないことを理由として本件雇止めを認め、抗告人の請求を却下したことから、抗告人はこれを不服として即時抗告した。
主文
1 本件即時抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。
判決要旨
 期間の定めのある雇用契約の期間満了による雇止めの効力の判断に当たっては、当該労働者の従事する仕事の種類、内容、勤務の形態、採用に際しての雇用契約の期間等についての使用者側の説明、契約更新時の新契約締結の形式的手続きの有無、契約更新の回数、同様の地位にある他の労働者の継続雇用の有無等を考える必要がある。これらに鑑み、期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態で存在していたか、あるいは労働者が期間満了後の雇用の継続に期待することに合理性が認められる場合には、解雇に関する法理を類推適用すべきである。

 これを本件についてみると、抗告人は合計10回の契約更新により5年間にわたり継続して相手方に雇用され、その従事した業務内容も正社員と同様のものであったということができる。しかし、相手方では、比較的高年齢の修飾希望者に関し、その技能に着目して、期間、賃金等の雇用条件をその都度明示して雇用契約の締結ないし更新契約を締結してきたものである。その上、相手方の担当者が、抗告人を採用するに際し、抗告人に対し、長期継続雇用をするとか、正社員として採用することを期待させるような言動をしたことを認めるに足りる疎明がない。また、相手方においては、嘱託職員の雇用契約の更新の可否を、その都度実質的に審査し、これを可とする判断をした場合にのみその更新を行っており、抗告人についても本件雇止めに至るまで右のような実質的な審査の結果を踏まえて雇用契約の更新が行われてきたことが認められる。

 その上、抗告人の勤務態度には問題がなかったとはいえないのみならず、相手方の担当者は抗告人に対し加工ミス等につき厳重に注意していたが、抗告人の勤務状況の改善がされなかったことが認められる。なお、抗告人は嘱託職員で60歳未満で雇止めされた者はほとんどいない旨主張するが、そもそも嘱託社員は、定年退職者の中から勤務成績、技能等の優秀な者を再雇用するために発足した制度であり、相手方はその後定年退職者以外の者で、その技能を特に必要とする場合にも拡大した。相手方はその後の更新に際しても、その都度その必要性を吟味して更新契約をしてきたのであるから、仮に嘱託職員で60歳未満で雇止めされた者がほとんどいなかったとしても、そのことが直ちに、本件雇用契約が期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態であったとか、抗告人が期間満了後の雇用の継続を期待することに合理性があったことに結びつくものではない。
 抗告人は、本件契約更新の都度、その要否を実質的に判断してきたとはいえず、本件契約更新時には所属長との形式的な面接があったに過ぎない旨主張するが、相手方は本件雇用契約更新の都度、その要否を実質的に判断してきたものと認められ、所属長との面接が形式的なものに過ぎなかったとはいえないから、抗告人の主張は理由がない。また抗告人は、加工ミスなどの問題点につき注意を受けていた事実はなく、勤務態度にも問題はなかった旨主張するが、抗告人が所属長から加工ミスなどの勤務状況上の問題点につき厳重な注意を受けていたことが認められ、また抗告人の勤務態度に問題がなかったとはいえない。したがって、原決定は相当であって、本件即時抗告は理由がない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例729号18頁
その他特記事項