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大館労基署長(Y店)脳出血死上告事件【過労死・疾病】
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 大館労基署長(Y店)脳出血死上告事件【過労死・疾病】
- 事件番号
- 最高裁 − 平成6年(行ツ)第200号
- 当事者
- 上告人 個人1名
被上告人 大館労働基準監督署長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1997年04月25日
- 判決決定区分
- 破棄自判
- 事件の概要
- 電気工事を業とするY店に勤務するKは、昭和53年12月27日、大型運搬車等からの荷卸し作業中にフックの落下により顔面を負傷した。
Kは受傷した当日及び翌日も通常勤務し、同月29日も電柱上の地上約10mの場所で他の電柱との間に高圧線の架線作業をしていたところ、突然具合が悪くなったため、同僚にKを電柱から下ろされ、救急車で病院に搬送されて入院したが、翌30日午前零時45分には容態が急変し、午前2時35分死亡に至った。
Kの妻である上告人(第1審原告・第2審被控訴人)は、昭和54年2月16日、被上告人(第1審被告・第2審控訴人)に対し、Kの死亡は業務に起因するものとして、労災保険法に基づく遺族保証金及び葬祭料の請求を行ったが、被上告人は同年4月16日、Kの死亡は業務上の災害ではないとして、右各給付をしない旨の処分(本件処分)をした。上告人は本件処分を不服として、審査請求さらには再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。
第1審では、本件事故が本件発症の原因となり、それによってKは死亡に至ったとして、Kの死亡を業務上災害と認め、本件処分を取り消したことから、被上告人がこれを不服として控訴したところ、第2審では、Kの死亡は業務上災害とは認められないとして、第1審判決を取り消したことから、上告人がこれを不服として上告した。 - 主文
- 判決を破棄する。
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。 - 判決要旨
- Kは、被外傷性の脳血管疾患を発症しているのであるから、その発症の基礎となり得る素因又は疾患を有していたことは否定し難いが、その程度や進行状況を明らかにする客観的資料がないだけでなく、同人は死亡当時39歳と比較的若年であり、死亡前約3年間は医療機関で受診した形跡はなく、周囲の者からは健康状態に格別異常はないとみられていたというのであるから、同人の家族歴を考慮しても、右基礎疾患等が確たる発症因子がなくてもその自然の経過により血管が破綻する寸前にまで進行していたとみることは困難である。そして、Kが脳血管疾患の症状を示す2日前に遭遇した本件事故は、金車及びこれと一体をなすフック等が吊り荷である電柱と共に地上約3mの高さから同人の近くに落下し、その結果、同人が軽度とはいえ顔面を負傷したというものであり、右の事故態様に照らし、相当に恐怖、驚愕をもたらす突発的で異常な事態というべきであって、これによる精神的負荷及び本件事故後に生じた頭痛や食欲不振といった身体的不調は、同人の基礎疾患等をその自然の経過を超えて急激に悪化させる要因となり得るものというべきである。しかも、Kは本件事故後も、右のような精神的、肉体的ストレスを受けながら、厳冬期に、地上約10mの電柱上での電気供給工事等の相当の緊張と体力を要する作業に従事していたというのである。以上によれば、Kの死亡原因となった非外傷性の脳血管疾患は、他に確たる発症因子のあったことが窺われない以上、同人の有していた基礎疾患等が業務上遭遇した本件事故及びその後の業務の遂行によってその自然の経過を超えて急激に悪化したことによって発症したものとみるのが相当であり、その間に相当因果関係の存在を肯定することができる。Kの死亡は、労働者災害補償保険法にいう業務上の死亡に当たるというべきである。
- 適用法規・条文
- 労災保険法16条の2、17条
- 収録文献(出典)
- 労働判例722号13頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
秋田地裁 − 昭和57年(行ウ)第2号 | 認容(控訴) | 1991年02月01日 |
仙台高裁秋田支部 − 平成3年(行コ)第1号 | 原判決取消(請求棄却) | 1994年06月27日 |
最高裁 − 平成6年(行ツ)第200号 | 破棄自判 | 1997年04月25日 |