判例データベース

外国会社退職強要・賃金請求物品返還請求事件

事件の分類
その他
事件名
外国会社退職強要・賃金請求物品返還請求事件
事件番号
東京地裁 - 平成13年(ワ)第16181号
当事者
原告個人1名

被告個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2002年10月18日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
 被告は、コンピュータ・ソフトウェアの開発、販売等、コンピュータ・グラフィックスの制作等を目的とするアメリカ合衆国法人P社の代表者であり、原告は、平成12年5月1日からP社に雇用され、販売応用技術者として本件事務所に勤務していた女性である。

 被告は、平成13年2月16日、原告に対し、事務所を縮小して移転する旨告げ、同日付けで雇用契約関係終了契約書を手渡し、これに署名して提出するよう求めたところ、原告は翌日以降出勤しなくなった。

 原告は、被告の下記の不法行為により、人格権を侵害され、精神的苦痛を負ったとして、慰謝料100万円と事務所に置いてあった私物(物件1〜4はソフトのマニュアル本等、5は顧客管理ファイル、6〜11はCD、12はカタログ・解説書)の返還を請求した。

(1)被告は、平成13年1月頃から、故意に原告の義務命令違反の事由を作出するため、原告の承諾なく、原告の業務上の行動を映像及び録音により盗撮・盗聴するため、事務所内にカメラ、ボイスレコーダーを設置する等した。

(2)被告は、雇用契約を締結する際、雇用保険手続きの約束をしたにもかかわらず、結局この手続きを行わなかったため、原告は被保険者でなくなった期間が1年以上に及び、将来にわたり雇用保険の支給額の減少を余儀なくされた。

(3)被告は、事務所内に残置せざるを得なかった原告の私物について、一切手を触れないよう原告から申し出を受け、これを承諾したにもかかわらず、原告に何ら連絡をすることなく、私物の一部のみを選別して原告の自宅へ送りつけた上、他の所有物を返還していない。
(4)被告は、原告が会社のために立て替えて支払った経費4286.65ドルについて、原告が提出した所定の書類の一部しか会社に提出せず、故意に原告の会社に対する経費請求権を侵害した。
主文
判決要旨
 原告主張の(1)については、平成13年1月、会社が原告の解雇を検討しており、被告がこれに関する対応を検討する際、業務に関するメモに「音声、映像を取っておく、MDでrecord」旨記載したことが認められるが、この事実をもって原告主張の事実を認めることはできない。

 (2)については、会社に対し雇用契約に基づいて被ったとする財産的損害の回復を求めれば足り、については、所有権に基づいて物の返還を求めれば足り、については、会社に対し立替費用の償還を求めれば足りるものであり、これらとは別の権利侵害が認められないか、又は別途金銭により償うべき非財産上の損害が生じたとは認められない。

 被告は、原告に対し平成13年5月9日物件1、2を返還した旨主張し、被告が原告に対し、事務所に置いていた私物の一部を送付したことは認められるが、物件1、2がこの送付物に含まれていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

 原告が物件3、4、6を所有し、事務所に置いていたことが認められ、被告が、原告が事務所に置いていた私物を所持するに至ったことが認められる。そうすると、被告は原告所有の物件3、4、6を所持していたものと認められる。物件5は会社における顧客ファイルであり、その性質上原告の所有物とは認められない。

 物件7ないし11について、原告が所有し、被告が占有していることには争いはない。被告は、上記物件について、不正にコピーされたCDをメーカーを通さずに直接返還するのは問題があるので、書面に原告が署名押印した後に返還する旨主張するが、仮にこのような事情が存するとしても、このことをもって被告が上記物件を占有する適法な権原を有するとは認められない。物件12について、原告が所有し、被告が占有していること及び被告が返還義務を負っていることについて争いはない。
 以上によれば、原告の所有権に基づく返還請求のうち物件1ないし4、6ないし12に対する請求は理由があるが、その余の請求は理由がない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例844号94頁
その他特記事項
本件は控訴された。