判例データベース

貨物自動車運送会社労働審判事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
貨物自動車運送会社労働審判事件
事件番号
東京地裁 − 平成19年(労)第262号
当事者
その他申立人 個人1名

その他相手方 貨物自動車運送会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2008年04月22日
判決決定区分
一部認容・一部棄却
事件の概要
 相手方会社(会社)は、貨物自動車運送事業等を目的とする代表者Aと妻、子で構成される家族経営会社であり、従業員は平成8年に入社した申立人を含む4名であった。

 平成15年12月、申立人がAに対し乳ガン検診の結果を報告すると、「心配していたんだよ」と胸に手を当てられ、抱きしめられ、頬にキスをされた。それ以降、Aは申立人に対し、人目を盗んでは同様の行為を繰り返し、申立人はこれを拒否したが、Aの行為は止まなかった。

 平成18年8月12日、申立人がAを避ける姿勢を明確に打ち出したところ、申立人は、夏期休暇明けの18日に、Aから「メールばかりしていたらダメだ。辞めてもらうよ」と言われ、退職を余儀なくされた。なお、申立人がメールの件で注意されたのは2年前の1度きりで、解雇通告は唐突であった。

 申立人の退職後、労働相談情報センターの斡旋、代理人間の交渉が行われたが、会社が事実関係を否認したため決裂した。なお、代理人交渉の中で、Aは「謝辞文」を提出したが、その冒頭部分では肩をマッサージするような行動が数度あり申し訳なかったとしつつも、「女性の言葉だけでセクハラなるものが適用し、それを逆手に利用している」、「女性というだけで貴女のように下心を持って就職してくる様では」などと申立人を非難する内容で結ばれていた。
 申立人は、Aの一連のセクハラ行為につき300万円の慰謝料と30万円の弁護士費用を請求して、労働審判を申し立てた。
主文
会社は申立人に対し、200万円を支払え。
判決要旨
 第1回期日において審判委は、Aの日頃の言動及び申立人の手控えの信用性が高く、とりわけAのセクハラ行為が行われた直後に、申立人がその場で記載したと認定できるメモの走り書きの信用性は極めて高く、申立人の主張事実は認定できるとした。一方、社内には妻、子供がいる中、申立人に手を出すことはあり得ないとAは主張するが、代表者と申立人との力関係から、申立人の供述の信用性を弾劾するに足らないとした。

 第2回期日において審判委は、謝罪文においてAがある程度の行為を認めていることなどから、200万円の調停案を示し、双方持ち帰りとなった。
 第3回期日において、20万円しか払わないとする会社に対し、審判委は、証拠も揃っているし、裁判でも認定は変わらないだろうと述べて説得を試みたが、会社はこれに応ぜず、審判の言い渡しになった。
適用法規・条文
民法709条、715条
収録文献(出典)
労働判例956号95頁
その他特記事項
本件は裁判に移行した。