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地公災基金静岡県支部長(H市清掃業務員)脳卒中死事件【過労死・疾病】
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 地公災基金静岡県支部長(H市清掃業務員)脳卒中死事件【過労死・疾病】
- 事件番号
- 静岡地裁 − 昭和59年(行ウ)第7号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 地方公務員災害補償基金静岡県支部長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1992年02月26日
- 判決決定区分
- 認容(控訴)
- 事件の概要
- S(大正4年生)は、昭和36年以来H市の清掃乗務員として勤務し、昭和52年6月7日までの間は、運転手1名、清掃業務員2名の体制でロータリー車によるゴミ収集作業に従事していたが、除草作業に従事した後の同月20日からは清掃業務員が1名となり、取扱業務量が大幅に増大した。
Sの業務は、ロータリー車に運転手と同乗してゴミ集積所を巡回し、家庭から排出されるゴミを清掃車に積み込み、事業所に戻って作業の整理をするものであり、1台への積み込みは600個余りであって、勤務時間は、月曜日から金曜日までは午前8時30分から午後5時まで、土曜日は午前8時30分から午後0時30分までであった。
昭和52年6月25日、大雨の中、Sは雨合羽及び長靴を着用してロータリー車に乗って事業所を出発したところ、対向車線上で前輪を側溝に落として難渋しているタクシーを発見した。Sらは、タクシーの横に停車して下車し、3枚の木の板を発見して、これを側溝に並べてタクシーを誘導し、これによりタクシーは脱出した。その後Sは板を元の場所に戻してロータリー車に乗り、午前8時50分頃最初のゴミ集積所で下車したところ、顔面を蒼白にして震えながら車体に寄りかかった。Sは救急車で病院に搬送されたが、午前9時35分不整脈により死亡した。
Sの妻である原告は、Sは業務による過重負荷を受けて死亡したものであるとして、地方公務員災害補償法に基づき、公務災害の認定を請求したが、被告は公務外とする処分(本件処分)をした。原告は本件処分を不服として審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、原告は本件処分の取消を求めて本訴を提起した。 - 主文
- 1 被告が昭和55年3月24日付けで原告に対してした地方公務員災害補償法による公務外認定処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 - 判決要旨
- Sの陳旧性心筋梗塞症は、前壁・中隔に貫壁性の梗塞を来していたものであって、不整脈死の素因を有していたが、過重な負荷がなければ、当日死亡の可能性は高くなかった。
Sのタクシー助勢行為は、視界不良のもとで、他のゴミ収集ロータリー車の運行の支障を除去し、業務の遂行にとって障害となるべき状況を排除するためのものであって、公務に準ずる行為というべきである。大雨の中でした助勢行為は、軽易な作業とはいえず、Sに過重な負荷を与えたと考えられる。
Sは、死亡前1週間以内の昭和52年6月20日から前日24日までの間、1対1体制でゴミ収集作業に従事し、その体制のもとでのゴミ収集量は1対2体制におけるよりも倍加しており、軽作業である除草作業を経て従事したゴミ収集作業も、Sに相当な負荷を与えたと思われる。
Sのタクシー助勢行為は、日常業務に比較して、特に過重な業務というべきであり、陳旧性心筋梗塞症であったSは、これにより明らかな過重負荷を受け、間もなく不整脈により死亡したものであって、死亡には公務起因性があるというべきである。 - 適用法規・条文
- 地方公務員災害補償法31条、42条、45条
- 収録文献(出典)
- 労働判例665号80頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
静岡地裁 − 昭和59年(行ウ)第7号 | 認容(控訴) | 1992年02月26日 |
東京高裁 − 平成4年(行コ)第30号 | 控訴棄却 | 1994年02月23日 |