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飯田橋署長(塗装会社部長)くも膜下出血死事件【過労死・疾病】
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 飯田橋署長(塗装会社部長)くも膜下出血死事件【過労死・疾病】
- 事件番号
- 東京地裁 − 昭和48年(行ウ)第108号
- 当事者
- 原告個人1名
被告飯田橋労働基準監督署長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1980年04月28日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- Sは、D社の工事部長として工事現場の視察、工事関係者らとの打合せ等の監督業務のほか、人工・資材の確保、段取り、手配等の現業の事務をも統括し、同社が施行する塗装工事の一切を管理統括していた。
昭和44年7、8月頃は、D社が請け負っていた鋼製プールの塗装工事が輻輳する時期であり、そのためSは視察、打合せのため出張を重ね、加えてこの頃は梅雨等の影響により塗装工事が遅延することも多く、工事の完成と納期に追われていたが、トラブルもなく、この間の工事も比較的順調に進んでいた。Sは、昭和25年以来家族を静岡の自宅に残しての別居生活を続け、本件発症当時はD社の寮で単身生活をしていた。
昭和44年8月21日、D社ら関係会社23名が出席して本件会議が開かれ、鋼製プールの工事の遅れについて指摘があった際、Sは塗装工事は最終段階に行われるものであるから、他の工事の遅れのしわ寄せが来ること、工程の遵守等管理体制を考えてもらいたいこと、当社は頭を低くして打合せを密にしているから比較的工事が順調に進行していること等5〜7分程度説明し、自席に戻った途端、うつ伏せになって倒れた。Sは直ちに病院に搬送されたが、その10分後にくも膜下出血で死亡した。
Sの妻である原告は、昭和45年1月21日、被告に対し、Sの死亡は業務上の理由によるものであるとして、労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の各支給を請求したところ、被告は同年3月3日、Sの死亡は業務上とは認められないとして、各保険給付を支給しない旨の処分(本件処分)をした。原告は本件処分を不服として審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。 - 主文
- 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 労働者災害補償保険法による障害補償給付等を受ける業務上の事由による労働者の負傷又は疾病等(傷害等)とは、業務との間に相当因果関係をもって発生したものでなければならないが、ここにいう業務上の傷害等が被災労働者の既往の素因もしくは基礎疾病又は既存の疾病が条件又は原因となって発生したと認められても、業務的要因がこれらと共働原因となり当該傷病等が発生し又は既存疾病等が急激に増悪し、かつその間に相当程度の因果関係が認められる限り、当該傷病等は業務上のものと認定されるべきであると解するのを相当とする。
本件会議は、鋼製プール工事の施工状況の報告と、塗装工事施行上の問題点を互いに検討することを目的とするもので、その過程で塗装工事の遅延・瑕疵等に関する事実の指摘、報告があったことは認められる。しかしながら、これらの諸点に対して元請業者らから具体的な督促・批判が加えられ、場合によっては契約責任の追及等という議論がなされた形跡はないし、本件会議自体このような応酬を目的としたものではないから、緊張を強いられるような状況で議事が進行していたとは考えられない。従って、本件会議の席上、Sが激しい精神的緊張に襲われ、その結果本件発症を来すような血圧亢進が惹起したとは認められない。そうであるとすれば、本件動脈瘤の破綻は、Sが有していた基礎疾病たる動脈瘤が自然発生的に増悪して破綻するに至ったもので、それが偶々本件会議の機会であったと解するのが相当である。従って、Sの死亡を業務上の事由による死亡と解することはできないとした本件処分は相当であり、他に本件処分を違法とする事由も見出し得ない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 判例時報983号69頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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