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倶知安労基署長(喜茂別生コン)脳出血死事件【過労死・疾病】

事件の分類
過労死・疾病
事件名
倶知安労基署長(喜茂別生コン)脳出血死事件【過労死・疾病】
事件番号
札幌地裁 − 昭和55年(行ウ)第11号
当事者
原告個人1名

被告倶知安労働基準監督署長
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1981年11月27日
判決決定区分
認容
事件の概要
Aは、コンクリート技士の資格を持ち、昭和49年6月以降K生コン社の工場長として勤務していた。Aは、昭和53年10月1日、同社の業務命令により、午前8時30分頃から地域のコンクリート協同組合が加盟会社の従業員らの親睦を目的として開催したソフトボール大会に参加した。Aは、第一試合にフライを捕球しようとして両手を上げて背走した際に後ろ向きに転倒し、また走塁の際2塁ベース近くで前のめりに転倒したほか、第二試合では、フライを捕球しようとして打球を追った際、他の守備者と衝突したこともあったが、いずれの場合もそのまま競技を続けていた。Aはこれら2試合を終えた後、午前11時頃から昼食を摂り、約40分の昼休みを取ったが、午後零時30分頃から開始された試合にも先発出場してレフトの守備位置についたものの、間もなく体調が悪いとして以後観戦していた。その後午後1時50分頃呼吸困難に陥り、病院に搬送されたが、同日午後2時10分、脳出血で死亡した。

Aの妻である原告は、被告に対し、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ、被告はAの死亡には業務起因性が認められないとして、右給付をしない旨の処分(本件処分)をした。そこで原告は本件処分を不服として審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたことから、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。
主文
1 被告が原告に対して昭和54年1月16日付けでなした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。
判決要旨
労災保険法12条の8の援用に係る労働基準法79条、80条所定の「労働者が業務上死亡した場合」とは、労働者が業務に基づく負傷又は疾病に起因して死亡した場合、いい換えれば、右負傷又は疾病と業務との間に相当因果関係があり、かつ、その負傷又は疾病が原因となって死亡した場合をいうが、その負傷又は疾病は、業務の遂行を唯一の原因として発症したものである必要はなく、当該労働者の素因又は基礎疾病が条件ないし原因となっている場合であっても、業務の遂行が発症を早め、又は増悪させる等、それが素因又は基礎疾病と共働原因となっていれば足りると解するのが相当である。

 認定事実を総合すれば、Aは、ソフトボールの競技中に転倒したり他の競技者と衝突した際に、少なくとも1回は頭部を強打したものと推認することができる。そして、このことに、本件ソフトボール大会直前のAの健康状態及び死亡に至る経緯等を併せ考えると、Aの脳出血は、ソフトボールの競技中に頭部を強打したことにより惹起されたものと推認することができる。したがって、右両者間に相当因果関係があるものと解するのが相当である。なお、救急出動した消防士が、Aの同僚からAは普段から血圧が高かった旨聞いていたことが認められるが、その証拠価値はさほど高いとは思われない上、Aは享年36歳であったが、それまでの間、年に1、2回風邪を引く程度で、極めて健康であったことが認められ、Aが高血圧症であったのか否か、仮に高血圧であったとしてもその症状はどの程度であったのか不明といわざるを得ない。

負傷又は疾病と業務との間の相当因果関係を肯認するためには、必ずしも業務の遂行が唯一の原因となっている必要はなく、業務の遂行が発症を早め、又は増悪させる等、それが当該労働者の素因又は基礎疾病と共働原因となっている場合であってもよいと解されるところであるから、こうした観点に立ち、かつAの死亡に至る経緯、ことに当時のAの健康状態、本件ソフトボール大会での転倒等の模様及びそれと死亡との時間的接着性等を併せ考えると、Aの頭部に外傷がなかったとの医師の所見が存在すること、Aが高血圧であるとの伝聞が存在すること及びAの肥満体であること等の事情をもってしては、未だソフトボールの競技中に頭部を強打したことと本件脳出血との間の相当因果関係を肯認する妨げとなるものとは到底いえないというべきである。そして、Aの本件ソフトボール大会の出場がK生コン社の業務命令に従ったものであることは当事者間に争いがなく、いわゆる業務遂行性が存することについては被告において認めているところであるから、Aの死亡は「業務上死亡した場合」に該当ものということができる。
適用法規・条文
労災保健法16条の2、17条
収録文献(出典)
労働判例377号8頁
その他特記事項
本件は控訴された。