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国・大阪南労基署長(トラック運転手)脳疾患再発死事件

事件の分類
過労死・疾病
事件名
国・大阪南労基署長(トラック運転手)脳疾患再発死事件
事件番号
大阪地裁 − 平成19年(行ウ)第142号
当事者
原告個人1名

被告国
業種
分類不能の産業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2009年07月15日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 Tは、Z運輸にトラック運転手として勤務していた昭和55年12月15日、左大脳基底核部脳内出血(原傷病)を発症して入院し、昭和56年5月転院してリハビリを受け、同年12月に退院した。Tはそれに引き続いて入通院治療を受け、昭和59年6月25日、上記脳内出血による後遺症として右片麻痺と全失語が残存・固定した旨の診断を受けた。その後、Tは労災保険の障害補償年金を受給していたところ、後遺障害の経過観察とともに高血圧症、糖尿病、腰痛、熱性けいれん、吃逆、肺炎等の診断名で合計13回の入退院を繰り返し、この間の平成14年3月29日、結腸癌の摘出術を受けた。しかし、Tは平成16年7月に再度下血し、結腸癌の再発が確認されたため、同年9月10日、結腸癌の手術目的で入院したところ、同月15日午前3時頃、病院のベッド柵に頸を引っかけた状態で心配停止しているところを看護師に発見され、直ちに蘇生措置を受けたが、翌16日7時42分死亡した。

 Tの妻である原告は、Tの疾病の発症及び死亡は業務上の事由によるものであるとして、大阪南労働基準監督署長に対し、労災保険法に基づき、遺族補償給付及び葬祭料の支払いを求めたところ、同署長がいずれも支給しない旨の処分をしたため、審査請求、再審査請求を経て、同処分の取消しを求めて本訴を提起した。
主文
1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 業務起因性の判断について

 被災労働者の遺族に対して、労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の給付が行われるためには、当該労働者の疾病が「業務上」のものであることを要する。本件疾病ないしTの死亡との間で業務起因性が認められるためには、本件疾病の発症ないしTの死亡が少なくとも従前業務上の疾病と認定されていた原傷病ないしその後遺症との間で相当因果関係が認められなければならないと解するのを相当とする。

2 本件疾病の業務起因性

 Tは、原傷病の発症及びその後症状固定した後遺症の療養等のため各医療機関に入退院を繰り返し、その間、後遺症のため自由に外に出掛けることができず、失語もあって充分な意思疎通もとることができず、ストレスを受け、それを重ねていたことが窺われる。しかし、そのようなストレスを重ねたからといって、同ストレスにより本件疾病が発症したとまで認めることはできない。またアルコールについても原傷病前から飲酒歴があったことを踏まえると、同ストレスに伴い飲酒した、飲酒量が増えたとまでいえるか、必ずしも明らかでないことからすると、同飲酒自体が原傷病発症に基づくものとまでいうことはできない。かえって、Tは、原傷病発症前、少なくとも10年以上前から高血圧の症状を呈し、原傷病後も降圧剤等の治療を受けながら血圧の数値だけを基準にしても軽症、中等症の高血圧症状があったところ、同症状に血圧の数値等を総合すると、Tは長年にわたる高血圧の持続により動脈硬化が進んで老年者に特徴的な高血圧のタイプに進展したことが認められる。Tの高血圧症状の期間、程度、それに脳梗塞のリスクファクターである糖尿病を原傷病発症前から罹患し、それが原傷病後も概ねコントロールがなされながらも継続していることを踏まえると、Tの本件疾病は原傷病の後遺症に基づいて発症したものというよりは、原傷病発症前から罹患していた高血圧症を基礎として糖尿病が加わり、それらの加齢等に伴う自然的経過により発症したことが強く窺われる。

 上記認定、説示したことを踏まえると、Tの本件疾病の発症について原傷病ないしその後遺症状との間で相当因果関係は認められず、したがって、業務起因性は認められないといわざるを得ない。
適用法規・条文
99:その他 労災保険法16条の2

99:その他 労災保険法17条
収録文献(出典)
労働判例986号86頁
その他特記事項
本件は控訴された。