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渋谷労基署長(タンクローリー運転手)くも膜下出血死事件
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 渋谷労基署長(タンクローリー運転手)くも膜下出血死事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成2年(行ウ)第190号
- 当事者
- 原告個人1名
被告尼崎労働基準監督署長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1993年06月08日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- J(昭和14年生)は、昭和42年8月、運送事業を目的とするS社に雇用され、以後タンクローリーの運転手として各得意先への石油製品の配送業務に従事していた。
Jの発症前5ヶ月の勤務状況は、総日数151日のうち実労働日数が110日(うち休日労働4日)、早出残業時間は1日平均4時間26分で、同僚5人の平均よりも下回っていた。また、Jの発症前1ヶ月の勤務状況は、総日数30日のうち実労働日数が18日(うち休日労働1日)、早出残業時間が1日平均3時間3分で、同僚の平均よりも下回っていた。更に発症前10日間の勤務状況は、実労働日数は7日、早出残業時間は1日平均2時間55分であった。
Jは、昭和61年5月26日午前5時頃、タンクローリー車を運転してS社を出発し、茅ヶ崎市で運送及び荷積み等の作業をし、午後零時50分、川崎市で荷積みをし、午後1時20分、春日部市の給油所に向けて出発したが、午後3時13分頃、越谷市内でガードレールに車両を衝突させながら運転席に倒れているところを発見され、病院に運ばれたが、翌27日午前11時9分にくも膜下出血により死亡した。
Jの妻である原告は、昭和61年7月24日、被告に対し、Jの死亡は業務に起因するものであるとして、労災保険法に基づき、遺族補償給付及び葬祭料の請求をしたが、被告は昭和62年2月27日付けで不支給決定(本件処分)をした。原告は本件処分を不服として審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消しを求めて本訴を請求した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 労働者の死亡に業務起因性が認められるためには、死亡と当該業務との間に相当因果関係の存在が必要と解されるところ、Jには先天性の脳動脈瘤が存在し、その破裂によりくも膜下出血を来して死亡に至ったものと認められる。このように、労働者の病的素因ないし基礎疾患が原因となって死亡した場合、その死亡と業務との間に相当因果関係があるというためには、業務に起因する過度の精神的・肉体的負担が、基礎疾患等の自然的経過を超えてこれを増悪させ、その結果発症に至るなど、業務が病的素因ないし基礎疾患とともに死亡に対する共働原因となったことが認められなければならないというべきである。
Jの発症に至るまでの勤務状況、発症当日の勤務状況に関して、精神的・肉体的に強度の緊張等を与えるような事情があったとは認められないし、業務の内容も、タンクローリー車による危険物の運搬であるとはいえ、Jは昭和42年S社に就職して以来右業務に携わってきたもので、長年の経験を有し、業務には慣れていたものと考えられる。業務の負担についても、早出残業時間の点を考慮に入れても、質・量ともに著しく過重であったとはいえないし、発症当日の業務はほぼ平常通りのもので、特に過重であったわけではなく、当日の気象も比較的平穏であったということができる。以上の点や、くも膜下出血に関する医学的知見、医師の本件に関する意見を総合すると、Jの疾病は、業務に起因する過度の精神的・肉体的負担によるものではなく、同人の有する基礎疾患である脳動脈瘤が、高血圧、軽度肥満、加齢等により自然に増悪して破綻するに至った結果生じたものであり、それがたまたま業務中に発症したに過ぎないものと認められる。そうすると、Jの疾病及び本件死亡には業務起因性がないといわなければならない。 - 適用法規・条文
- 99:その他 労災保険法16条の2,17条
- 収録文献(出典)
- 労働判例634号30頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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