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大阪(飲食店店長)急性心筋梗塞死事件(過労死・疾病)
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 大阪(飲食店店長)急性心筋梗塞死事件(過労死・疾病)
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成18年(ワ)第12828号
- 当事者
- 原告X
原告Y
被告株式会社A社
被告株式会社グルメK屋 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2009年12月21日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴
- 事件の概要
- 被告は、和食・洋食レストランの企画・経営を業とする株式会社であり、P(昭和48年生)は、大学卒業後の平成9年4月、被告に入社して平成14年8月に中国料理の本件店舗の店長となり、平成15年4月1日A社の設立と同時に、被告に在籍のままA社に出向した。なお、A社は平成21年7月に被告に吸収合併された。
店長の業務は、店舗全体の確認、パートらへの指示、年間・月間・日割予算の作成、損益計算書の作成、基本シフトの作成、原材料の仕入れ、仕込み・廃棄処分・清掃・整備の指示と確認、接客の先頭に立ち苦情処理を行うこと、伝票整理・日報の記載、レジ精算のチェック、月に1度の本社での店長会議への出席、月に1度の棚卸しなどであった。Pは、本件店舗で支配人として勤務していたQが他店舗に移った平成15年1月以降、ホールと厨房の皿洗い等の両方の業務を行うようになり、勤務時間も長くなって、休日もほとんど出勤するようになった。また、Pは厨房部門との関係が悪く、厨房部門のパートらはPの指示に従わないことがあった。
Pは、本件店舗の営業時間(午前11時〜午後11時)中、午後2時〜6時の来客のほとんどいない時間帯も基本的に業務を行い、営業時間終了後も業務を行ったことから、労働時間は長時間に及び、Pの法定時間外労働は、死亡1ヶ月前が約153時間、同2ヶ月前が約106時間、同3ヶ月前が約116時間、同4ヶ月前が約96時間、同5ヶ月前が約116時間、同6ヶ月前が約141時間となっていた。
Pは、平成15年4月21日は、業務を終えた閉店後の翌22日午前0時15分から午前2時30分まで3名でミーティングを行い、他の2名はミーティング終了後帰宅したが、Pは店内に留まり、午前9時55頃、本件店舗において、冠動脈硬化症による急性心筋梗塞(本件疾病)により死亡(本件死亡)しているのを発見された。Pの両親である原告らは、本件死亡は業務上のものであるとして、労働基準監督署長に対し、労災補償の給付を申請したところ、同署長はこれを認め、平成16年11月29日付けで、遺族補償一時金、遺族特別支給金、遺族特別一時金及び葬祭料を支給した。
原告らは、Pの本件死亡は、著しい長時間労働、人間関係によるストレス等過重な業務に起因するものであり、被告らには安全配慮義務違反があったとして、逸失利益5555万円余、死亡慰謝料3000万円、葬儀費用150万円、損益相殺等1493万円等、合計7212万3116円を被告らに対し請求した。これに対し、被告らは、Pの業務は過重労働ではないこと、Pは労働基準法で定める管理監督者であるから、労働時間等の管理責任はないこと、安全配慮義務違反はないこと、仮に不法行為に基づく損害賠償請求権が認められるとしても、時効により消滅している旨主張して争った。 - 主文
- 1 被告は、原告Xに対し、金2745万5726円及びこれに対する平成15年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告Yに対し、金2745万5726円及びこれに対する平成15年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを10分し、その3を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 Pの業務の過重性及び業務と本件死亡との因果関係
Pの労働時間は著しく長時間であると認められる。そして、その業務内容も、特にQの転出後は、以前よりも業務量が増した上、本件店舗の経営が厳しかったことなどから、店長として人員削減等の経営立て直しのための対策を講ずる必要があって、精神的負荷のかかるものであった。また、本件店舗では、上記対策の影響により、厨房部門の従業員らとの関係が悪化し、同従業員らが指示に従わないため、従業員らとの適切な業務分担もできず、更にPは、日々の業務に加え、店長として監査、店長会議、研修等にも対応する必要があった。以上に照らせば、Pの業務は、継続的な長時間労働である上、その内容も身体的精神的負荷のかかるものであったと認められるから、過重であったと認められる。また、Pに業務外の私生活等において身体的、精神的に強い負荷がかかるような事情があったことを認めるに足りる証拠はない。
以上に照らせば、Pは本件店舗の店長として過重な労働に従事し、十分な休憩や休日も取れなかったため、冠動脈が自然経過を超えて著しく硬化した結果、急性心筋梗塞が発症し、本件死亡に至ったものであるから、Pの業務と本件発症・死亡との間には、相当因果関係があると認められる。
2 被告らの債務不履行責任(安全配慮義務違反)及び不法行為責任
被告らは、雇用契約に付随する義務として、使用者として労働者の生命、身体及び健康を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負い、その具体的内容として、労働時間を適切に管理し、労働時間、休憩時間、休日、休憩場所等にについて適正な労働条件を確保し、健康診断を実施した上、労働者の年齢、健康状態等に応じて従事する作業時間及び作業内容の軽減等適切な措置を採るべき義務を負っている。そして、これに違反した場合には、安全配慮義務違反の債務不履行であるとともに不法行為を構成するというべきである。被告らがPに提出させていた出勤表記載の労働時間はPの労働時間の実態を反映したものではないところ、被告らは警備会社のセキュリティ装置を利用したり、警備会社や本件店舗従業員からヒアリングを実施したりすれば、Pの過重労働の実態を容易に把握することができたにもかかわらず、被告らはこれらの方策を採らず、Pに対し自己申告による出勤表を提出させたのみであり、同出勤表の内容がPの実際の労働時間に合致しているかについての実態調査等を行った形跡は認められない。以上に照らせば、被告らのPに対する労働管理は、まことに不十分なものであり、被告らがPの労働時間を適正に管理する義務を怠っていたことは明らかである。
これに対し、被告らは、Pは管理監督者であるから、労働管理をする義務はない旨主張する。労働基準法41条2号に規定する「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)は、同法が定める労働条件の最低基準である労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用が除外されるものであるところ、その範囲については一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩及び休日に関する規制の枠を超えて事業活動をすることが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限定されなければならない。すなわち、具体的には、管理監督者の範囲については、資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があり、賃金等の待遇面にも留意しつつ、総合的に判断されなければならないものである。なるほどPは、本件店舗におけるパートらの採用やシフトの決定等の労務管理を行う権限を有し、実際にこれらを行使していたが、他方、Pの店長としての職務や権限は、あくまでも本件店舗に関する事項に限定されていた上、人員募集やパートに係る費用については上司の決裁を受けることになっていたこと、閉店等の重要な経営判断はあくまでも被告らが行っていたことが認められる。これらの事情に照らせば、Pは企業経営上の必要から経営者と一体的な立場にあったとは到底いえず、労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動をすることを要請されざるを得ない重要な職務と責任を付与されていたとは認められない。したがって、Pは管理監督者ではなく、労働基準法の労働時間、休憩及び休日に関する規定等の適用を除外されるものではないから、被告らの主張は採用できない。そして、長時間労働や過重な労働により、疲労やストレス等が過度に蓄積し、労働者の心身の健康を損なう危険があることは周知のとおりであるから、そうすると、被告らは、Pの労働時間を適正に管理しない結果、同人が長時間労働に従事して死亡に至ることを予見することが可能であったというべきである。
以上によれば、被告らは、Pの労働時間を適切に管理せず、同人の労働時間、休憩時間、休日等を適正に確保することなく、長時間労働に従事させたものであるから、安全配慮義務違反が認められ、被告らの同義務違反と本件死亡との間には因果関係が認められる。したがって、被告らは、本件死亡について安全配慮義務違反の債務不履行責任及び不法行為責任を負うと認められる。
3 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は3年であるところ、本件においては、原告らの損害賠償請求権は、本件死亡の日である平成15年4月22日から3年間を経過した平成18年4月23日に時効により消滅したと認められる。もっとも、被告らの安全配慮義務違反は、不法行為であるとともに債務不履行を構成するところ、債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効は10年であるから、原告らが同請求をすることを妨げるものではない。
4 過失相殺
Pの本件発症・死亡について、被告らは債務不履行責任を負うが、Pは店長として本件店舗の従業員を指示監督する立場にあったのであるから、たとえ自ら率先して業務を行うことが求められる局面があるとはいえ、他方、管理者として、自らの負担を含め、従業員間の仕事の分担の適正さを図り、店舗全体としての業務の効率化を図ることも、その権限及び職務に照らし求められていた。したがって、Pとしても、必ずしも指導や業務命令が徹底できなかった厨房部門を含め、店長として本件店舗における仕事量の配分や従業員に対する指示の方法ないし内容に意を用いて、自らの業務量を適正なものとし、休息や休日を十分にとって疲労の回復に努めるべきであり、本件店舗の経営状況・人間関係、業務内容等を勘案しても、当時の本件店舗がこれを行うことを期待できない状態にあったとはいえない。これに加え、Pが適宜の機会を捉え、被告らに対し、本件店舗の経営状況、従業員の不足・勤務状況及び自己の業務の状況等を申告するなどして、被告らに対し業務軽減のための措置を採るよう求めることも店長の任務の内であり、これが不可能であったともいえない。それにもかかわらず、Pは結果として上記措置を採らず、全て自己の負担に帰していたのであるから、店長としての業務遂行に当たって不十分な面があるとともに、自らの健康保持に対する配慮も十分ではなかったといわざるを得ない。以上に照らせば、Pには本件死亡について一定の過失があったというべきであり、その割合は2割と認めるのが相当である。
5 原告らの損害
本件死亡の前年である平成14年におけるPの給与総額は、417万6026円であるが、これは、同年産業計・企業規模計・男子労働者大卒の25歳から29歳までの平均給与総額437万2000円と概ね一致する。そして、被告が東京証券取引所・大阪証券取引所の第一部に上場されている企業であること、Pの本件死亡時の年齢(29歳7月)、被告らにおける地位等を併せ考えると、Pは67歳までの38年間にわたって、1年間に平成15年賃金センサス産業計・企業規模計・男子労働者大卒の平均収入である658万7500円を得られる蓋然性があると認められる。また、Pの生活状況に照らせば、逸失利益を算定するに当たって控除すべき生活費は、その全稼働期間を通じ、50パーセントが相当である。以上を前提に、ライプニッツ方式で中間利息を控除し、Pの逸失利益を算出すると、5555万8316円となる。
Pの本件死亡に至る経緯、本件死亡時の年齢、身上関係、被告らにおける勤務の状況等その他一切の事情を考慮すると、Pの死亡慰謝料は2400万円が相当である。本件において葬祭料として求めている150万円は、葬儀費用として本件労災と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
本件では、Pにも2割の過失が認められるから、民法418条を適用して損害額の2割を減ずることが相当と認められる。
原告らは、労災保険により、遺族補償一時金、葬祭料の支払を受けているから、これを控除する。また弁護士費用は、原告ら各250万円とするのが相当である。
1 Pの業務の過重性及び業務と本件死亡との因果関係
Pの労働時間は著しく長時間であると認められる。そして、その業務内容も、特にQの転出後は、以前よりも業務量が増した上、本件店舗の経営が厳しかったことなどから、店長として人員削減等の経営立て直しのための対策を講ずる必要があって、精神的負荷のかかるものであった。また、本件店舗では、上記対策の影響により、厨房部門の従業員らとの関係が悪化し、同従業員らが指示に従わないため、従業員らとの適切な業務分担もできず、更にPは、日々の業務に加え、店長として監査、店長会議、研修等にも対応する必要があった。以上に照らせば、Pの業務は、継続的な長時間労働である上、その内容も身体的精神的負荷のかかるものであったと認められるから、過重であったと認められる。また、Pに業務外の私生活等において身体的、精神的に強い負荷がかかるような事情があったことを認めるに足りる証拠はない。
以上に照らせば、Pは本件店舗の店長として過重な労働に従事し、十分な休憩や休日も取れなかったため、冠動脈が自然経過を超えて著しく硬化した結果、急性心筋梗塞が発症し、本件死亡に至ったものであるから、Pの業務と本件発症・死亡との間には、相当因果関係があると認められる。
2 被告らの債務不履行責任(安全配慮義務違反)及び不法行為責任
被告らは、雇用契約に付随する義務として、使用者として労働者の生命、身体及び健康を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負い、その具体的内容として、労働時間を適切に管理し、労働時間、休憩時間、休日、休憩場所等にについて適正な労働条件を確保し、健康診断を実施した上、労働者の年齢、健康状態等に応じて従事する作業時間及び作業内容の軽減等適切な措置を採るべき義務を負っている。そして、これに違反した場合には、安全配慮義務違反の債務不履行であるとともに不法行為を構成するというべきである。被告らがPに提出させていた出勤表記載の労働時間はPの労働時間の実態を反映したものではないところ、被告らは警備会社のセキュリティ装置を利用したり、警備会社や本件店舗従業員からヒアリングを実施したりすれば、Pの過重労働の実態を容易に把握することができたにもかかわらず、被告らはこれらの方策を採らず、Pに対し自己申告による出勤表を提出させたのみであり、同出勤表の内容がPの実際の労働時間に合致しているかについての実態調査等を行った形跡は認められない。以上に照らせば、被告らのPに対する労働管理は、まことに不十分なものであり、被告らがPの労働時間を適正に管理する義務を怠っていたことは明らかである。
これに対し、被告らは、Pは管理監督者であるから、労働管理をする義務はない旨主張する。労働基準法41条2号に規定する「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)は、同法が定める労働条件の最低基準である労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用が除外されるものであるところ、その範囲については一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩及び休日に関する規制の枠を超えて事業活動をすることが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限定されなければならない。すなわち、具体的には、管理監督者の範囲については、資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があり、賃金等の待遇面にも留意しつつ、総合的に判断されなければならないものである。なるほどPは、本件店舗におけるパートらの採用やシフトの決定等の労務管理を行う権限を有し、実際にこれらを行使していたが、他方、Pの店長としての職務や権限は、あくまでも本件店舗に関する事項に限定されていた上、人員募集やパートに係る費用については上司の決裁を受けることになっていたこと、閉店等の重要な経営判断はあくまでも被告らが行っていたことが認められる。これらの事情に照らせば、Pは企業経営上の必要から経営者と一体的な立場にあったとは到底いえず、労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動をすることを要請されざるを得ない重要な職務と責任を付与されていたとは認められない。したがって、Pは管理監督者ではなく、労働基準法の労働時間、休憩及び休日に関する規定等の適用を除外されるものではないから、被告らの主張は採用できない。そして、長時間労働や過重な労働により、疲労やストレス等が過度に蓄積し、労働者の心身の健康を損なう危険があることは周知のとおりであるから、そうすると、被告らは、Pの労働時間を適正に管理しない結果、同人が長時間労働に従事して死亡に至ることを予見することが可能であったというべきである。
以上によれば、被告らは、Pの労働時間を適切に管理せず、同人の労働時間、休憩時間、休日等を適正に確保することなく、長時間労働に従事させたものであるから、安全配慮義務違反が認められ、被告らの同義務違反と本件死亡との間には因果関係が認められる。したがって、被告らは、本件死亡について安全配慮義務違反の債務不履行責任及び不法行為責任を負うと認められる。
3 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は3年であるところ、本件においては、原告らの損害賠償請求権は、本件死亡の日である平成15年4月22日から3年間を経過した平成18年4月23日に時効により消滅したと認められる。もっとも、被告らの安全配慮義務違反は、不法行為であるとともに債務不履行を構成するところ、債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効は10年であるから、原告らが同請求をすることを妨げるものではない。
4 過失相殺
Pの本件発症・死亡について、被告らは債務不履行責任を負うが、Pは店長として本件店舗の従業員を指示監督する立場にあったのであるから、たとえ自ら率先して業務を行うことが求められる局面があるとはいえ、他方、管理者として、自らの負担を含め、従業員間の仕事の分担の適正さを図り、店舗全体としての業務の効率化を図ることも、その権限及び職務に照らし求められていた。したがって、Pとしても、必ずしも指導や業務命令が徹底できなかった厨房部門を含め、店長として本件店舗における仕事量の配分や従業員に対する指示の方法ないし内容に意を用いて、自らの業務量を適正なものとし、休息や休日を十分にとって疲労の回復に努めるべきであり、本件店舗の経営状況・人間関係、業務内容等を勘案しても、当時の本件店舗がこれを行うことを期待できない状態にあったとはいえない。これに加え、Pが適宜の機会を捉え、被告らに対し、本件店舗の経営状況、従業員の不足・勤務状況及び自己の業務の状況等を申告するなどして、被告らに対し業務軽減のための措置を採るよう求めることも店長の任務の内であり、これが不可能であったともいえない。それにもかかわらず、Pは結果として上記措置を採らず、全て自己の負担に帰していたのであるから、店長としての業務遂行に当たって不十分な面があるとともに、自らの健康保持に対する配慮も十分ではなかったといわざるを得ない。以上に照らせば、Pには本件死亡について一定の過失があったというべきであり、その割合は2割と認めるのが相当である。
5 原告らの損害
本件死亡の前年である平成14年におけるPの給与総額は、417万6026円であるが、これは、同年産業計・企業規模計・男子労働者大卒の25歳から29歳までの平均給与総額437万2000円と概ね一致する。そして、被告が東京証券取引所・大阪証券取引所の第一部に上場されている企業であること、Pの本件死亡時の年齢(29歳7月)、被告らにおける地位等を併せ考えると、Pは67歳までの38年間にわたって、1年間に平成15年賃金センサス産業計・企業規模計・男子労働者大卒の平均収入である658万7500円を得られる蓋然性があると認められる。また、Pの生活状況に照らせば、逸失利益を算定するに当たって控除すべき生活費は、その全稼働期間を通じ、50パーセントが相当である。以上を前提に、ライプニッツ方式で中間利息を控除し、Pの逸失利益を算出すると、5555万8316円となる。
Pの本件死亡に至る経緯、本件死亡時の年齢、身上関係、被告らにおける勤務の状況等その他一切の事情を考慮すると、Pの死亡慰謝料は2400万円が相当である。本件において葬祭料として求めている150万円は、葬儀費用として本件労災と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
本件では、Pにも2割の過失が認められるから、民法418条を適用して損害額の2割を減ずることが相当と認められる。
原告らは、労災保険により、遺族補償一時金、葬祭料の支払を受けているから、これを控除する。また弁護士費用は、原告ら各250万円とするのが相当である。 - 適用法規・条文
- 02:民法167条1項、415条、418条、709条、724条,
07:労働基準法41条, - 収録文献(出典)
- 労働判例1003号16頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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