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北九州東労基署長(段ボール製造会社)配送係員脳出血死事件
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 北九州東労基署長(段ボール製造会社)配送係員脳出血死事件
- 事件番号
- 福岡地裁 − 平成6年(行ウ)第18号
- 当事者
- 原告個人1名
被告北九州東労働基準監督署長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1997年07月30日
- 判決決定区分
- 棄却(確定)
- 事件の概要
- Tは、昭和60年2月頃、段ボールの製造、販売を業とするJ社に入社し、門司工場において発送係としてダンボールの運送業務に従事していた。
Tの発症前3ヶ月の勤務状況を見ると、出勤日数は休日労働6日を含め77日であり、時間外労働は休日労働を含め242時間49分であった。Tは、昭和61年6月27日、28日及び7月2日に従事した市内等への配送業務は、配達地域及び配送先が一定したものであり、配送所要時間は5時間程度であった。6月30日及び7月3日に従事した大分への配送業務は、午前3時に会社を出発し、午前11時20分前後に帰社したものであり、6月30日から7月1日にかけて従事した四国への配送業務は、午後8時30分に門司を出発し、翌日午後10時30分頃帰社したものであるが、往路約7時間及び復路約2時間30分は、それぞれフェリーボートに乗船していたものであり、配送先において、午前8時30分頃まで荷降ろし作業に従事した。
同月4日、午前9時42分に北九州市内の2軒に配送に出掛け、途中953枚の段ボールを降ろし、午後3時39分にS物産に到着した。Tは段ボール206枚(20枚を1束としてその重量は15kg程度)をS物産の2階倉庫へ運び終え、午後4時30分頃通路に倒れているところを発見され、病院に搬送されたが、翌5日午前1時44分に高血圧性脳出血の一つである橋出血により死亡した。
Tは本件発症前から高血圧症の基礎疾病を有しており、昭和59年8月の定期健康診断における血圧値は、260-160であり、昭和60年8月は142-88で、血圧経過観察の注意事項が付されていた。また、Tは1日30本くらい喫煙し、酒は好んで飲んでいた。
Tの妻である原告は、Tの死亡は長期間にわたる重労働に起因するものであるとして、被告に対し、遺族補償給付及び葬祭料の請求をしたが、被告はこれらを支給しない旨の処分(本件処分)をした。原告は本件処分を不服として、審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたことから、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。 - 主文
- 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- Tの業務内容はトラックによるダンボールの配送業務であり、Tは右業務に習熟していたこと、1ヶ月に1回の四国への配送業務には助手1名が同行し補助に当たっていたほか、フェリー乗船中は休憩することができたこと、1週間に2回の割合で行っていた大分への配送業務は午前3時に門司を出発するものであったが、これはTが自ら変更したものであること、Tは発症前3ヶ月間において休日労働を含め242時間49分の時間外労働に従事しているが、その多くが四国及び大分への配送によるものであること、及び休日出勤の際に従事していたダンボール製造作業も梱包されたダンボールをパレットに積み込むという軽作業であることからすれば、Tにとって門司工場における業務内容が特に過重であったとは認められない。
S物産における作業は、1度に2束を運んだとしても5往復を要し、この場合1束の重さが約15kgとして約30kgの荷物を持って階段を昇降することになるから、右作業がTの血圧を一時的に上昇させたと考えられるが、Tは以前から明らかな高血圧症の基礎疾病を有していたにもかかわらず、これに対する十分な治療を継続的に行っておらず、高血圧症による脳血管壊死が進行していた可能性が高いと認められること、右高血圧症の治療が不十分であったことについては、Tが医師の処方する降圧剤の服用に消極的であったことがその主たる原因と考えられ、J社の業務がTをして適切な治療を受けさせなかったと認めるに足りる証拠は存在しないこと、Tの業務が全体として特に過重なものではなく、S物産における作業もTの業務の中で特に異常な負荷を加えるものとまでは認められないことを総合して考慮すれば、橋出血を原因とするTの死亡を、同人の業務に内在する危険が現実化したものと評価することはできず、Tの業務と死亡の間の相当因果関係すなわち業務起因性もこれを認めることはできない。
以上のとおり、Tの死亡に業務起因性は認められないから、原告の遺族補償給付及び葬祭料の支給を認めなかった本件処分は適法である。 - 適用法規・条文
- 99:その他 労災保険法16条の2、17条
- 収録文献(出典)
- 労働判例725号67頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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