判例データベース
財団法人雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 財団法人雇止事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成18年(ワ)第19133号
- 当事者
- 原告 個人3名 A、B、C
被告 財団法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1989年01月01日
- 判決決定区分
- 認容(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、刀剣類の保存及び公開並びに日本刀の鍛造技術等の保存向上、これに関する調査研究等を目的とする財団法人であり、原告A(昭和11年生)は平成16年5月11日より被告の事務局長、原告B(昭和15年生)は警視庁を退職後平成12年4月1日から会計課長、原告C(平成15年生)は警視庁を退職後平成12年3月1日から管理課長を、それぞれ務めてきた者である。
平成13年10月、被告は文化庁文化財部美術学芸課長名の文書により、「刀剣及び刀装具の審査については、今後は財団の役員、職員並びにその親族は申請できないよう改善していただきたい」旨の指導を受け、平成17年11月にも同趣旨の指導を受けていた。ところが、平成18年5月頃、文化庁に、被告の刀剣審査に携わる者と刀剣商の癒着についての通報があり、原告Aは専務理事と文化庁を訪れ、担当官から指導を受けた。原告Aはこの指導に従おうと事務を進めたが、専務理事はこれに消極的で、他の多くの理事もこれに同調したことから、原告Aと専務理事の対立が鮮明になった。
同年8月、専務理事は原告A及び同Cに対し理事会開催の意向を示したが、両原告が開催は無理と回答したところ、それ以上開催を強く求めることはなかった。そうするうちに、事務局が関知しない形で本件理事会の文書連絡がなされ、同月14日、専務理事は原告Cに対し、理事会の開催を指示したが、原告Cは、通常の開催手続きが踏まれていないこと、敢えて一部理事が出席不能な日程で開催することに疑問を持ち、専務理事の指示に従わなかった。同日に開催された本件理事会後、新たに就任した新会長は、原告Aは文化庁に勝手に協会文書を提出したので解職とする旨告げた。また原告B及び同Cは、本件理事会の正当性に異議を唱えて非協力的であったこと、被告の寄付行為では、基本財産の管理は会長が管理することになっているところ、原告らは平成17年3月から12月にかけて定期預金を解約して債権を購入したり、基本財産である国債を買い替えたりしたこと、原告Bは会長の決裁を得ずに専務理事の承諾を得て上記事務を進めたこと等があったほか、就業規則では事務局長の支出権限は50万円までであるところ、原告Bは緊急の必要があるとして原告Aの決済で90万円以上の工事を発注し、支出したことがあったことなどが問題とされた。そして、被告は、同年8月24日の通知書により、原告Aは70歳定年に達しているから定年退職とする旨通知し、就業規則上60歳定年後70歳までを限度として1年毎に雇用を継続することができるところ、原告Bには平成19年3月末、原告Cにも平成18年12月末で雇止めする旨通告した。
これに対し原告Aは、就業規則の70歳定年を定める部分は事務局長には適用されないこと、前任者らは78歳まで勤務していたことから継続雇用に合理的な期待権があることを主張し、また原告B及び同Cも、被告との雇用契約では「定年70歳」と表示して募集され、6年以上契約更新され、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態であるから、一方的な雇止めは信義則に反し無効であると主張して、職員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告Aに対し、平成18年9月から本判決確定まで、毎月10日限り69万0076円、毎年6月15日限り168万3794円及び毎年12月10日限り184万4156円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告Bに対し、63万3326円及びこれに対する平成18年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに平成19年4月から本判決確定まで、毎月10日限り36万7268円、毎年月15日限り82万8063円及び毎年12月10日限り90万6926円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告Cに対し、59万9838円及びこれに対する平成18年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに平成19年1月から本判決確定まで、毎月10日限り35万0208円、毎年6月15日限り79万7487円及び毎年12月10日限り87万3438円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 この判決の第2項ないし第4項は、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 被告事務局長に定年制の適用があるか
原告Aの採用時、就業規則の規定に従えば、同原告の勤務できる期間は1年8ヶ月ほどであるから、規定通り適用するのであれば、明確にそのような短期の契約であることを確認して雇用契約を締結するはずであるが、そのような事情を窺わせる証拠はなく、かえって、同原告は被告の評議員であったものを、専務理事らに請われて就任したが、任期は確認されていないことが認められる。このことと、前任及びその前任の事務局長がいずれも78歳で退職している事実からすれば、少なくとも事務局長に対する定年制の適用は厳格にされていたものではなかったと認められる。そうすると、原告Aについては、定年制を形式的に適用しない約定で雇用契約が締結されたと認めるのが当事者の合理的意思に適うというべきである。被告は、就業規則の定めに従い、原告Aは期間の定めのある雇用契約であるとして、雇止めの主張をするが、同原告の雇用契約に期間を定めたことは認められないから、同原告の雇用契約には雇止めの法理の適用はないというべきである。
2 原告らにつき雇用継続の期待があるか
原告B及び同Cは警視庁退職後嘱託として採用されたもので、本件雇止め時において、原告Bは67歳、原告Cは66歳であったところ、嘱託は就業規則により70歳を限度として1年毎に契約を継続することができることとされており、両者は雇用契約の更新を重ね6年以上にわたり雇用を継続してきた。
期間の定めのある雇用契約は、期間満了により終了するのを原則とするが、(1)期間の定めのある雇用契約が反復更新されて期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていれば、更新拒絶には解雇に関する法理が類推される。(2)期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていたとまではいえないものであっても、雇用関係の継続がある程度期待されていたものは、同様に解雇の法理が類推される。上記(1)(2)の契約類型では、労働者は契約関係の終了に関し、手厚い保護を受けることになるが、これら類型に該当しないものでも、期間満了時の更新の反復の度合いや携わる仕事の内容等によっては、一定の保護が与えられるものもあるというべきであり、その場合には、いかなる恣意的な理由によって雇止めがされてもよいと解するのは相当でない。
本件においては、原告B及び同Cは、雇止め時には年金も受給可能な年齢に達していたもので、若年労働者ほどには雇用継続の必要性も強いとはいえず、前記(1)(2)のように解雇に関する法理を類推すべきものとはならない。しかし、両原告はフルタイムで1週間に5日勤務し、他の職員と全く同様に勤務してきたこと、雇用契約の更新を重ねて、勤務期間は約6年に及んでいること、契約更新の手続きは毎年行われてきたが、面接や雇用契約書の作成はなく、辞令交付がされていたものの雇用期限前ではなく、形式的なものに近いといえること、の各事実が認められ、これらを考えると、期間の経過により当然に雇用契約が終了するものとは解し難い。
3 原告らにつき雇止めを相当とする事由が存するか
平成13年10月の文化庁の指導があったことは明確であり、原告A及び同Cが、ありもしない文化庁の平成13年の指導を持ち出して被告の事務を混乱させたり、文書を偽造・行使したという事実は認められない。平成18年8月14日の理事会の開催に当たり、原告らが積極的に開催を妨害した事実は認められないし、理事会当日に、原告B及び同Cが専務理事や新会長の指示に従わなかったことは、指揮命令系統からすれば客観的には不適切ともいい得るが、両原告の立場とすれば無理からぬものがあったといえる。国債の買替え、工事支出や給与の点については、雇止めの事由として、原告らの責任のみを問うことは適切でないというべきである。
原告Aについては、定年制を厳格に適用しない期間の定めのない雇用契約を締結したと認められるから、上記事由は解雇事由となるか否かを検討すべきところ、この程度の事由で解雇するのは相当性を欠くものであり、解雇は無効というべきであって、同原告についての地位確認、賃金及び賞与の支払いの請求は理由がある。
原告B及び同Cについては、期間の定めのある雇用契約を締結したものであるところ、契約終了には当該契約の性質に見合った合理的な事由を必要とすると解すべきである。両原告は若年労働者ほどには雇用継続の必要性も強いとはいえないが、他方、両原告はフルタイムで1週間に5日勤務してきたこと、更新を重ねて勤務期間は約6年に及んでいること、契約更新手続きは形式的なものに近いことを考えると、雇用継続の期待は強いといえる。そして、このような雇用契約においては、恣意的な理由によって雇止めがされて良いと解するのは相当でないところ、本件において、被告主張の事由はいずれも認められないか、雇止めの事由として考慮することが不適切であって、雇止めは恣意的な理由に基づくものといわざるを得ないから、両原告の雇用契約は終了していないというべきである。
両原告の雇用契約は、1年ごとの期間の定めのあるものであるが、雇用継続の期待は強いところ、両原告の採用時の求人票には「定年70歳」と記載されており、両原告はこれを労働条件として被告に就職していることからすると、両原告には70歳までの雇用継続の強い期待があり、実質的に70歳を定年とする雇用契約が締結されているものと考えられる。そうすると、その時点までの雇用契約上の地位の確認につき、確認の利益があり、かつ賃金及び賞与の支払い請求について理由があるとも考えられる。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例971号58頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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東京地裁 - 平成18年(ワ)第19133号 | 認容(控訴) | 1989年01月01日 |
東京高裁 - 平成20年(ネ)第3144号 | 控訴棄却 | 2009年05月09日 |