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フリーディレークターくも膜下出血死事件
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- フリーディレークターくも膜下出血死事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成19年(ワ)第34649号
- 当事者
- 原告 個人2名 A、B
被告 株式会社(被告X)
被告 株式会社(被告Y)
被告 株式会社(被告Z) - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2010年05月14日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- F(昭和41年生)は、フリーランスのTV映像の企画及び制作ディレクターであり、被告Xはテレビ放送事業、被告Yは放送番組の企画及び制作、被告Zは放送番組等の企画及び制作などをそれぞれ目的とする株式会社である。
Fは、遅くとも平成17年4月頃までには、被告Zとの関で、番組企画(本件企画)の制作業務全般を統括するディレクター業務(本件業務)を請け負う旨の契約(本件契約)を締結した。Fは、本件契約締結後から同年12月20日までの間、本件契約に基づき本件業務に従事したが、同月7日までは、これに加えて週3回、1日9時間程度(同年11月22日から同年12月7日までの例では1日6時間ないし11時間)、被告らとは無関係なニュース番組等の業務にも従事した。
Fは、同月24日午前9時頃、くも膜下出血により死亡した。Fの両親である原告らは、被告Xは番組制作上の指示などを行い、Fを指揮監督する立場にあったにもかかわらず、安全配慮義務に違反してFの業務が過重とならないような措置を何ら取らなかったこと、被告Yは本件企画の実質的な企画者であってFの本件業務を指揮監督する立場にあったにもかかわらず、安全配慮義務に違反してFの業務が過重にならないような措置を何ら取らなかったこと、被告ZはFとの間の本件契約の当事者であり、本件企画の制作業務全般に責任を持っていたにもかかわらず、安全配慮義務に違反してFに本件企画の制作業務の全てを委ね、平成17年11月下旬から12月20日まで連日長時間労働に従事させたことにより、Fがくも膜下出血を発症して死亡したとして、被告らに対し、Fの逸失利益6262万5598円、Fの死亡慰謝料2800万円、原告ら固有の慰謝料各500万円、弁護士費用各500万円を請求した。 - 主文
- 1,原告らの請求をいずれも棄却する。
2,訴訟費用は、原告らの負担とする。 - 判決要旨
- 1 被告らの安全配慮義務違反について
Fはフリーのディレクターであって、被告ら以外の者の業務にも従事しており、Fが被告Zから受ける業務の対価も定額(月20万円)と定められていたことが認められる一方、被告らにおいて、Fが従事する本件業務について、その処理方法や時間帯を具体的に指示するなどして、その指揮監督下でこれを行わせていたとの事実は認められない。したがって、被告らについては、Fを雇用していたとしても、実質的に使用従属させていたとも認められないから、Fの業務に対する従事状況を積極的に把握するなどして、これらが過重にならないよう配慮すべき義務を負っていたものとは認められない。
2 本件業務とFの死亡との因果関係
Fは、看護師に対し、平成17年12月13日、「24時間ぶっとおしで働いて半日休むという生活を3週間余続けており、頭が重く、極端に言うと血管が破裂しそうな感覚があって、少し不安に思っている。今日から1週間は休めないので、落ち着き次第診察をお願いしたい」旨のメールを送り、更に同月15日、同看護師に対し、ここ1〜2日症状を感じることはなく、クスリを飲みながら健康管理に努めたい旨のメールを送った。
Fの血圧は、同年6月8日に166/96、同月29日に180/130、同年11月21日に160/104で、Fは死亡当時高血圧であった可能性があり、本件企画の納期である同年12月21日が近づくことによるFの精神的緊張には相応のものがあったと推認できる。
しかしながら、Fが看護師に送付したメールの記載については、その内容が概括的である上、Fは同月7日までは、被告らとは無関係で、週3回相応の時間を要する業務にも従事していたとの状況もあって、本件業務に要した時間等を明らかにするに足りる証拠とはならないところ、上記時間等を証するに足りる証拠は他にも存しないから、Fが従事した本件業務の内容が、精神的・肉体的に過重なものであったと認めるに足りない。また、Fはこれまでも番組制作の業務に従事してきたものであって、本件業務がこれまでの番組制作業務と比して特別過重な業務であったことを窺わせるに足りる証拠もない。
以上のことからすれば、Fが高血圧だったとしても、本件業務が、これを増悪させ、更には脳の動脈瘤を破裂させ、くも膜下出血を引き起こしてFを死に至らしめるほど、精神的・肉体的に過重なものであったとは認めるに足りないから、その死亡が、本件業務により惹き起こされたとは認められない。 - 適用法規・条文
- 02:民法415条、709条,
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報2081号23頁
- その他特記事項
- ・法律 民法、労災保険法
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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