判例データベース
証券会社資格・等級引下本訴事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- 証券会社資格・等級引下本訴事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成7年(ワ)第2789号
- 当事者
- 原告個人2名 X、Y
被告A証券株式会社 - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2000年01月31日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は証券会社で、原告X(昭和18年生)は平成元年12月に、原告Y(昭和23年生)は昭和62年4月に、それぞれ債務者に入社した営業社員である。
被告はリストラの一環として営業店舗について統廃合、人員削減を行った外、平成6年4月に就業規則の改定を行い、その具体的な金額について別に定めるは給与システムによることとした。新給与規定7条は被告の基本給は職能給であるとした外、同8条には昇減給に関する定めが置かれ、昇減給は社員の人物、能力、成績等を勘案して行う等とされた外、営業成績によって支給される営業奨励金制度が設けられた(本件変動賃金制(能力評価制))。能力評価制の実態は、人事考課・査定に当たって、正社員の年間人件費が年間手数料収入の25%(その後33%)になるようにするというおよその基準を設定し、各従業員についてこの比率を基準にして、これを超える場合には役職又は職能給の号俸を引き下げる対象とし、特にこの比率が40%以上になれば直ちに役職又は職能給の号俸を引き下げる必要がある等として運用していた。
被告では毎年5月に給与システムの変更をしており、平成4年5月以前は、原則として、成績不振を理由に降格、職能給の減額という措置は執られなかったが、能力評価制の導入により、原告Xは、平成4年4月当時6級11号俸(課長二)で、月収60万円であったものが4級3号俸(主任一)で合計28万2500円、同じく原告Yは6級7号俸(課長一)で、月収54万4500円であったものが、23万0500円に引き下げられた。
これに対し原告らは、営業奨励金制度はぺナルティ制度を含むものであって合理性がなく、利益は僅かである一方不利益は著しく大きいこと、被告が一方的に給与額を切り下げることは許されないことを主張し、原告Xについては、2164万円及び平成11年8月から毎月25日限り各38万3000円を、原告Yについては、1911万6360円及び平成11年8月から毎月25日限り各34万9500円をそれぞれ支払うよう請求した。
本件は、原告X及び原告Yから賃金仮払いについての第一次及び第二次の仮処分の申立てが行われ、原告らいずれについても、平成8年12月から平成9年11月まで、平成10年7月から平成11年6月までの間の賃金について、その一部の仮払いが認められ - 主文
- 1,原告らの請求中本判決確定の日の翌日以降の賃金請求に係る訴えは、これを却下する。
2,被告は、原告Xに対し、次の各金員を支払え。
(内容 略)
3,被告は、原告Yに対し、次の各金員を支払え。
(内容 略)
4,原告らのその余の請求を棄却する。
5,訴訟費用は、原告Xと被告との間では原告Xに生じた費用の20分の19を被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告Yと被告との間では原告Yに生じた費用の50分の49を被告の負担とし、その余は各自の負担とする。
6,この判決は、第2項(一)から(六)まで、(七)の(1)及び(3)並びに(二)並びに第3項(一)から(八)まで、(九)の(1)、(十)の(2)並びに(三)に限り仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 将来の未払賃金支払請求に係る訴えの適法性について
将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる。本件では、現在の法律関係を前提とする限り、未払賃金支払請求を認容する判決が確定すれば、被告が本判決の趣旨に従い賃金を支払うことが確実と期待できるから、本判決確定の日の翌日以降の賃金請求まで認容することは原告らにとってはそこまでの必要がなく、したがって、本判決確定の日の翌日以降の賃金請求に係る訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合の要件を欠くものというべきである。よって、原告らの請求中右の部分に係る訴えは不適法として却下する。
2 旧就業規則下における賃金体系について
被告は、原告Xについて、平成4年5月、6級職11号俸から6級職1号俸に号俸を下げ、平成6年5月、課長二から課長一に役職を下げ、6級職7号俸から6級職1号俸に号俸を下げ、また原告Yについて、平成4年5月、6級職7号俸から6級職1号俸に号俸を下げ、平成6年5月課長二から課長一に役職を下げ、6級職9号俸から6級職2号俸に号俸を下げたが、これらの措置は、被告の人事考課、査定に基づいて執られたことが認められる。しかしながら、平成4年5月以前は、病気で療養していた従業員につきその同意を得て給与を減額した者がいたが、このような例を別とすれば、成績不振を理由に右のような措置が執られた者はいなかった。平成4年5月以降は原告らだけでなく、成績不振を理由に降格された従業員がいるが、これだけでは旧就業規則下において成績不振を理由に従業員を降格する運用が確立していたと認めるには不十分である。平成4年5月以後に被告がこのような措置を執るに至った事情としては、業績の悪化が原因であると考えられるが、被告が執った措置が適法か否かは、右のような事情の有無によって決せられるのではなく、そのような措置を執る法的根拠の有無によるというべきであり、被告が執った措置は法的根拠なく一方的に行ったものというほかはない。
平成3年5月作成の給与システムまでは、給与システムに給与総額、前年度と比較しての差引アップ率、アップ額、1人当たりのアップ率、基準ベースアップ率が記載されており、毎年ベースアップが行われていたのであって、給与システムはそれを具体的に決定するものとしての意義も有していた。これに対し平成4年5月作成の給与システム以後は諸手当が更に減額され、職能給については増額されているものの、給与減額が実質的なものとなった。このように、旧就業規則の下での給与システムの改定により給与が減額されることとなったのは、平成4年3月の決算期に被告の財務状況が悪化して以後作成された給与システムに限られ、旧就業規則の下での賃金制度が、職能給の各号俸及び諸手当の具体的金額を決定するに際し、平成4年5月作成の給与システムより前から、その全部又は一部を減額することにより同一資格、同一号俸の給与合計額を減額することを許容するものであったということはできず、また平成4年5月作成の給与システム以後給与が減額されたことだけでは被告の賃金制度が元々右のような内容のものであったというには不十分である。
平成6年4月の就業規則の変更以前の旧就業規則及び毎月5月に作成されていた給与システムは、一般的な職能資格制度を採っていたものであり、一旦備わっていると判断された職務遂行能力が、営業実績や勤務評価が低い場合にこれを備えないものとして降格されることは(心身の障害等特別の事情がある場合は別として)何ら予定されていなかったものである。本件就業規則改定後のセールスマニュアルにおいては、社員の場合は年収が手数料のほぼ25%という基準を明確に打ち出し、従業員1人当たり損益分岐点という思想を示し、これらのセールスマニュアルにおいてさえ、年収が手数料のほぼ25%の基準を満たせなかった場合の降格の可能性については全く言及されていない。更に実際に行われた人事を見ても、平成4年5月以前は、病気で療養していた従業員を別とすれば、成績不振を理由に降格、職能給の減額という措置が採られたことはなかったというべきである。したがって、旧就業規則の下での賃金制度が、毎年給与システムを作成する際、被告が各社員について、人事考課、査定に基づき、降格又は職能給の号俸の引下げ若しくは手当の減額を許容するものであったということはできない。したがって、旧就業規則下において本件変動賃金制(能力評価制)が採られていた事実はない。
3 合意その他の法的根拠の有無について
被告は原告Xの採用に当たって、年収920万円を1年間約束すると告げたが、これは原告Xの採用時の格付けに基づく給与月額では年収920万円に満たないため、年収920万円となるよう特別の措置を執ることを約束したものであり、当時の状況からすると、翌年には、ベースアップ等により、このような特別措置を執らなくても当然原告Xが年収920万円を上回る給与を支給されることになるという見込みがあったために、そのような特別の措置を1年間に限って保障するという趣旨であったと解するのが相当である。
被告においては給与決定の基本方針として能力主義、成果配分主義が採られ、前年度の実績によって給与が改定され、社員の年収は手数料のほぼ20から25%になることを説明し、原告らも了解済みであるとすれば、被告は原告らが入社して1年後に、人事考課、査定により入社後の実績を踏まえて原告らの格付け及び職能給の号俸を改めて然るべきである。原告らの格付け及び給与については、入社して1年後には何ら降格、給与額の減額措置を受けておらず、原告Xについては入社以来平成4年4月まで、原告Yについては入社以来平成3年まで、降格又は職能給の号俸の引下げにより給与を減額されたことはなかった。被告は、各原告の採用に当たって年齢に対応したモデル給与例よりも相当低く格付けしており、原告Xに関しては特別措置を1年間に限って約束したものの、その趣旨は既に述べたものにとどまったから、当事者の合意の趣旨としては、原告らが翌年以降営業実績等により昇給・昇格していくことは当然想定されていたものの、降格・降給は何ら想定されていなかったと解するのが相当である。
原告Xは、平成3年5月の時点で6級職11号俸に格付けされ、職能給31万9500円、役付手当11万1000円、住宅手当8万1000円及び営業手当6万円、合計57万0500円の支給を受けていたから、原告Xの未払賃金請求はこれを基準として算定すべきであり、この時点でこれらとは別に支給されていた月額2万9500円については、未払賃金の算定上考慮すべきではない。
労働基準法24条1項は、使用者が一方的に賃金の一部を控除することを禁止し、労働者の経済的生活を脅かすことのないようにその保護を図ろうとしている。更に同条は使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することを禁止する趣旨をも包含するものであるが、労働者がその自由な意思に基づき右相殺に同意した場合においては、右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、右同意を得てした相殺は右規定に違反するものとはいえないと解されている。このような趣旨に照らせば、賃金の引下げについても、労働者がその自由な意思に基づきこれに同意し、かつ、この同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することを要すると解するのが相当である。
被告は、平成4年5月及び平成5年5月の賃金変更について、原告らが特に異議等を申し立てず、自己申告書を被告に提出するなど現状を肯定して従前通りの就業を続けていたことを理由に、黙示に承諾した旨主張し、また課長以上の給与を一律カットしたことについて、事前に代表取締役が放送し、役員が直接の部課長に協力を求め、全員異議なくこれに応じたことを理由に、原告らが同意した旨主張するが、このような事実を理由に原告らがその自由な意思に基づきこれに同意したものということはできないし、この同意が原告らの自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということもできない。
4 就業規則の変更の不利益性について
被告の従業員は、従前の職能資格制度、職能給制度の下では、一定の資格に見合う職務遂行能力が備わっていると一旦判断されれば、心身の障害等特別の事情が生じた場合は別として、営業実績や勤務評価の低下を理由に降格され、又は号俸を引下げられることはなかったから、安定した賃金収入を得ることができる保障があり、より長期的なサイクルの中で営業実績を上げることにより昇格することができるという安定した地位にあった。しかるに、能力評価制が導入されたことにより、被告の従業員は、営業実績が低下すれば、それを理由に降格されたり、個別的に減給される危険があるという不安定な状態に置かれることになった。その反面、営業実績を上げれば従前の職能資格制度、職能給制度の下よりも早期に昇格する可能性が生じたといえないことはない。しかし、右の降格若しくは減給の危険又は早期昇格の可能性がどの程度顕在化するかは、能力評価制導入当時の実情いかんによって左右されるから、この実情を踏まえて不利益制の判断をするのが相当である。
営業職の従業員(正社員)は、能力評価制の導入によって、自らが獲得する年間手数料収入の概ね25%(その後概ね33%)の給与の支給を受けることになったのであり、多額の年間手数料を得れば給与が増えることになるが、年間手数料収入が減少してこれに対する給与の比率が40%以上になれば直ちに降格、号俸引下げの措置を受けて給与が減額されることになったということができる。この運用結果を見ると、原告らは大幅に賃金が減額されている上、被告の従業員は年々大幅に減少していることが認められ、このことに基づいて考えると、被告が新卒者の採用を手控えたことを考慮しても、能力評価制の導入により被告の従業員が安定した賃金収入を得ることができなくなり、大幅に賃金が減額される事態が生じているため、退職を余儀なくされている者が相当数生じた事実を推認することができる。その反面、能力評価制の導入に伴い、従前よりも早期に昇給する可能性が生じたといえないことはないが、これは未だに抽象的な可能性に留まる。そうすると、能力評価制の導入により、被告の従業員は、賃金減額の可能性が生じたというに留まらず、多くの従業員が実際に不利益を受けることとなったということができ、その不利益の程度も大きいといわざるを得ない。
5 就業規則の変更の合理性について
最高裁の判示しているところに従い、変更の必要性及び変更後の内容自体の合理性から見て、変更による不利益性を考慮してもなお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するか否かを判断すべきである。特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を有するものというべきである。バブル崩壊後の証券業界不況の中で、経常利益が平成4年3月期に赤字に転落し、以後低迷していること、純財産額は平成4年3月期以降年々減少していること等の事実が認められ、この事実に基づいて考えると、受入れ手数料、殊に株式売買委任手数料が激減したことにより営業収益及び経常利益が悪化したため、被告が従業員給与を削減する必要があったことは肯定することができる。
能力評価制は、これを一般的な制度として見る限り、不合理な制度とはいえないが、従前採られていた職能資格制度、職能給制度と比べると余りに大きな制度の変革であり、被告の従業員は不安定な状態に置かれ、大きな不利益を受けているから、被告に人件費を削減する経営上の必要性があり、かつ能力評価制が一般論として合理性を有する制度であるというだけで直ちに変更の合理性を肯定することはできない。
まず、右の各点に加え、能力評価制導入に際し、代償措置その他関連する労働条件の改善がされており、被告の従業員が受ける不利益性が相当に減殺され、能力評価制導入を受忍すべきであるということができるのであれば、変更の合理性を肯定することができる。次に、代償措置その他関連する労働条件の改善がされていないとしても、前記の各点が備わっていることに加え、既存の労働者のために適切な経過措置が採られているのであれば、変更の合理性を肯定することができる。また、代償措置その他関連する労働条件の改善がされておらず、既存の労働者のための適切な経過措置が採られているともいえないとすれば、前記の各点の具備に加え、少なくとも現に雇用されている従業員が、相当程度減収とはなるものの、以後の安定した雇用の確保のためにはやむを得ない変更であると納得できるものである等、被告の業績悪化の中で労使間の利益調整がされた結果としての合理的な内容と認められる場合に、変更の合理性を有すると解するのが相当である。更に、代償措置その他関連する労働条件が改善されておらず、既存の労働者のために適切な経過措置が採られているともいえず、現に雇用されている従業員が以後の安定した雇用の確保のためにはやむを得ない変更であると納得できるものである等、被告の業務の中で労使間の利益調整がされた結果としての合理的な内容と認めることもできないとすれば、変更の必要性として、被告の業績が著しく悪化し、能力評価制を導入しなければ企業存亡の危機にある等の高度の必要性が存することを要すると解するのが相当である。
以上の見地から検討すると、被告は、能力評価制導入に際し、代替措置その他関連する労働条件の改善措置を何ら採っておらず、既存の労働者のために適切な経過措置を執ったわけでもないし、現に雇用されている従業員にとって、以後の安定した雇用のためにはやむを得ない変更であると納得できる合理的な内容のものであることを認めるに足る証拠はなく、その他その内容が被告の業績悪化の中で労使間の利益調整がされた結果としての合理的な内容であると認めるに足りる証拠はない。したがって、変更の必要性として、被告の業績が著しく悪化し、能力評価制を導入しなければ企業存亡の危機にある等の高度の必要性が存することを要するものと解するのが相当であるが、バブル崩壊後の証券業界の不況の中で、被告の手数料が激減したから、人件費を削減する経営上の必要性があったことは肯定できるものの、自己資本リスク比率が平成5年度以降は改善されてきていることに照らすと、能力評価制を導入しなければ企業存亡の危機にあったとまでいうことは困難である。そうすると、能力評価制の合理性を肯定することはできない。
6 平成4年から平成8年までの給与システムにおいて諸手当を減額した措置の適法性について
被告は、旧就業規則当時から毎年5月に定める給与システムにおいて職能給及び諸手当の具体的金額を決定しており、給与システムは就業規則の附属規定と解することができるから、被告が右のとおり給与システムにおいて諸手当を減額したことは、その結果年齢に応じて昇給したとしても給与月額が減少していることに照らせば、就業規則の不利益変更に当たり、その減額の程度も少なくない。
被告は、諸手当を減額する一方で営業奨励金を支給しており、成績優秀者には固定給に上乗せして月額10万円ないし20万円の営業奨励金を支給していることを理由に、これが代償措置に当たると主張する。しかしながら、営業員が実際に営業奨励金の支給を受けるには相当大きな営業実績を挙げることが必要であると考えられ、平成4年度以前の支給実績が明らかにされていないので、諸手当の減額による営業員の給与総額の減少分が幾らなのか、また平成5年度以降の各年の営業奨励金の支給実績が平成4年度以前と比べて実際に幾ら増えているのか明らかでないことからすれば、営業員にとって営業奨励金の支給が前記の給与減額分をどの程度補填するものになっているか疑問が残らざるを得ないところである。そうすると、営業奨励金の支給が代償措置に当たると認めることはできないし、他に被告が諸手当を減額するに際し、代償措置その他関連する労働条件を改善したことを認めるに足りる証拠はない。また、被告が諸手当を減額する措置を決定するに先立ってあらかじめ従業員との間で十分協議を行う等して労使間の合理的な利益調整に努めたことを認めるに足りる証拠はないから、諸手当の減額措置が、現に雇用されている従業員にとって相当程度減収とはなるものの、以後の安定した雇用の確保のためにはやむを得ない変更であると納得できるものである等、被告の業績悪化の中で労使間の利益調整が十分に行われた結果としての合理的な内容であると認めるには不十分である。
以上、諸手当の減額による不利益の程度が大きく、内容自体の相当性を認めるには不十分であることを考えると、従業員給与削減の必要は認められるが、前記のとおり企業存亡の危機にあった等の高度の必要性まで存したということはここでも当てはまるから、就業規則変更の合理性があると認めるには不十分であるといわざるを得ない。よって、被告が平成4年から毎年5月に諸手当を減額した措置の適法性を肯定することはできない。
7 原告らによる賃金の減額部分の支払請求と権利の濫用、信義則違反について
原告らが採用されるに際して、被告に過去の営業実績を過大に告げ、もって実力以上の待遇を受けたことを認めるに足りる証拠はなく、右の事実によれば、被告は原告らを採用するに当たり、原告Xに対する1年限りの特別措置を別にすれば、年齢に対応したモデル給与例よりも原告らを低く処遇し、以後原告らの営業実績次第で昇格、昇進させることとしたものであり、原告らを新規採用の従業員と同様の賃金体系で処遇すべく、その中に位置付けたものというべきである。
手数料収入の実績を見ると、平成4年度及び平成5年度における原告Yの手数料収入の実績は、平成4年度が課長職中最上位であり、平成5年度は課長職17人中9番目であったから、むしろ課長職の水準以上であった。原告Xはこれら両年度において課長職中平均以下であったが、被告が主張するように営業成績が劣悪であったとまではいえない。これに対し、平成7年度以降は原告らの手数料収入の実績は悪くなってきたし、原告らの平成4年度以降の顧客又は取引の新規開拓、預かり資産残高は少ないが、他方、被告は、平成7年3月以後改定のセールスマニュアルにおいて前記方針を打ち出して以降、原告らに従前配分していた預かり資産は他の営業員に移転し、原告らには退職した他の営業員の預かり資産を全く配分しなくなったものである。これらの事実に照らして考えると、原告らの本件請求が権利の濫用に該当し、又は信義則に反するものということはできない。 - 適用法規・条文
- 07:労働基準法 24条,
99:その他民事保全法23条2項, - 収録文献(出典)
- 労働判例711号57頁
- その他特記事項
- 本件は第二次仮処分が申し立てられた後、本訴に移行した。
・法律 労働基準法、民事保全法
・キーワード 就業規則、パワーハラスメント
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 平成8年(ヨ)第21134号 | 一部認容・一部却下 | 1996年12月11日 |
東京地裁 − 平成8年(ヨ)第21134号 | 一部認容・一部却下 | 1998年07月17日 |
東京地裁−平成7年(ワ)第2789号 | 一部認容・一部却下・一部棄却(控訴) | 2000年01月31日 |