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M電機採用内定取消控訴事件

事件の分類
採用内定取消
事件名
M電機採用内定取消控訴事件
事件番号
東京高裁 - 昭和45年(ネ)第3147号
当事者
控訴人(附帯被控訴人) 株式会社
被控訴人(附帯控訴人)個人1名
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1972年03月31日
判決決定区分
一部変更
事件の概要
被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)は高校3年在学中に、控訴人(附帯被控訴人・第1審被告)の従業員採用試験を受験し、昭和42年1月20日控訴人より、就労の始期を同年4月1日とする採用決定の通知を受けた。

被控訴人は、同年3月11日に高校を卒業し、同月13日より控訴人において稼働していたところ、控訴人は同月25日被控訴人に対し採用内定の取消しを行い、翌26日からは従業員として取り扱わなかった。控訴人は採用内定取消しの理由として、当時経営状況が極めて悪化し、作業能力の劣る者や作業上発展を望めない者について人員整理せざるを得なくなったところ、「被控訴人は左足に小児麻痺後遺症があり、現場作業者として不適格である」ことを挙げた。

これに対し被控訴人は、控訴人に人員整理を必要とするような経営悪化はないこと、控訴人は被控訴人の身体障害の態様・程度を知悉した上で現場作業員として採用し、現に就労作業した間にも作業面で何ら支障もなかったこと、控訴人は被控訴人の高校在学中の行動を知り、その思想信条を嫌悪して解雇に及んだものであるから、労働基準法3条に違反することを主張して、解雇の無効確認と昭和42年4月以降の賃金の支払を請求した。

第1審では、控訴人と被控訴人の間の労働契約は成立しており、本件採用内定取消は解雇に当たるところ、解雇に正当事由は認められないとして、被控訴人の労働契約上の地位を認めたことから、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。一方被控訴人は、同年度、同時期に、同年齢、同学歴、同職種の作業員として雇用された者と同額の賃金等が支払われるべきであるとして、合計1,692,045円を請求して附帯控訴に及んだ。
主文
1被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決を次の括弧内のとおり変更する。

「一被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という)が控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という)に対し労働契約上の権利を有することを確認する。

二控訴人は被控訴人に対し、金1,692,045円及び昭和46年9月21日より本判決確定に至るまで、毎月28日限り金33,904円を支払え。」

2控訴人の控訴を棄却する。

3訴訟費用は第1、2審とも控訴人の負担とする。

4この判決は第1項括弧内二に限り仮に執行することができる。
判決要旨
昭和42年度の控訴人(附帯被控訴人)の採用予定者数は男女合わせて僅か8名であったところ、採用内定者数も8、9名で殆ど違わなかったこと、右内定者の内7名が同年2月7日を始めとし遅くとも同年3月20日から控訴人方でいわゆる実習を始め、遅い者は同年3月下旬まで続け、その間一般工員と同様午前8時から午後4時までを作業時間とし、これに対し日給650円の支払いを受けたこと、一般に控訴人としては採用内定者が4月1日の入社式に来社したときは、その就労を拒む意思はなく、同日来社しない者に対しては就労を求めて追及するまでもないと考えていたことが認められる。

これらの各事実を総合して本件労働契約の成立の点を判断すれば、控訴人の「会社概要」の発行による社員の募集は契約申込みの誘引と解すべきであり、これに対する被控訴人の1月10日の各書類の提出による受験申込みが契約の申込みとなるものというべきである。そうして、控訴人から被控訴人にあてられた「採用内定のお知らせ」が右申込みに対する承諾であって、本件のような経過をたどった場合は、これによって被控訴人が学校を卒業できないときは、控訴人において解約し得ることとした労働契約の成立があったものと解すべきであり、昭和42年1月20日に控訴人の雇用する意思と被控訴人の就労する意思との合致があって労働契約が成立したものである。

してみると、控訴人が被控訴人に対し昭和42年3月25日にした前示採用取消通知は、右労働契約を終了させる解雇の意思表示と解すべきである。従って、控訴人、被控訴人間の労働契約は今なお存続しており、被控訴人は控訴人に対し労働契約上の権利を有するものであって、控訴人が昭和42年4月1日以降被控訴人を従業員として取り扱わず、被控訴人の就労を拒んでいることは控訴人も争わないので、被控訴人の就労不能は控訴人の責に基づくものというべきであるから、昭和42年4月1日以降の賃金等の債権を控訴人に対し被控訴人は有することになる。そうして、被控訴人と同年度、同時期に、同年齢、同学歴、同職種の控訴人に雇用された作業員に対する賃金の、昇格基準に基づいて同期採用者が控訴人から支払われた賃金及び夏季、年末の各手当が昭和46年8月支払分まで合計1,692,045円であるので、被控訴人も控訴人に対し右同額の債権を有するというべきである。
適用法規・条文
労働基準法3条
収録文献(出典)
その他特記事項