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D公社採用内定取消本訴上告事件
- 事件の分類
- 採用内定取消
- 事件名
- D公社採用内定取消本訴上告事件
- 事件番号
- 最高裁 - 昭和52年(オ)第94号
- 当事者
- 上告人 個人1名
被上告人 電信電話公社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1979年07月20日
- 判決決定区分
- 上告棄却
- 事件の概要
- 上告人(第1審原告・控訴審被控訴人)は昭和43年3月に高校を卒業し、昭和44年11月10日頃、近畿電気通信局から、昭和45年4月1日付で、機械職として見習い社員とするとの採用通知を受けた。
上告人は高校卒業後T地区反戦青年委員会の構成員となり、昭和44年10月31日に国労、動労の機関助士廃止反対の集会に参加して逮捕されたり、万博会場付近において、安保万博粉砕のデモ及び座り込みに参加したりした。
近畿電通局は上告人に対し前記採用通知を出した後、上告人が反戦系グループに属しているという情報を入手して調査した結果、上告人は反戦青年委員会発足時から役員的地位にあることが確認された。同局は、上告人が反戦行動によって逮捕され、法律違反の行動があったことを確認し、昭和45年3月20日に至り上告人に対し採用消しを通告した。
これに対し上告人は、公社との間に労働契約が成立していること、上告人の逮捕は正当な示威運動に対する職権濫用であること、上告人は過激派グループとは無関係であることなどを主張して、本件採用取消(見習社員契約の解約)は無効であるとして、被上告人(第1審被告・控訴審被控訴人)の見習社員としての地位の確認と賃金の支払を請求した。
本件は、本訴の前に仮処分事件としても争われ、第1審では申請人(原告)が勝訴し、見習社員としての地位の確認と賃金の支払を受けたが、第2審では、控訴人(被告)の見習社員契約の解約は正当であるとして控訴を認容したため、原告は被告の見習社員としての地位の確認を求めて本訴を提起した。なお本訴においては、被告(947号事件原告)は、仮処分第1審判決に従って支払った仮払賃金の返還を求めた。
第1審、第2審とも、被控訴人による控訴人の本件見習社員契約の解約(採用内定取消)は正当であるとして控訴人の請求を棄却したほか、控訴人が受けた仮払賃金の返還を命じたことから、上告人はこれらを不服として上告に及んだ。 - 主文
- 本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。 - 判決要旨
- 事実関係によれば、被上告人から上告人に交付された本件採用通知には、採用の日、配置先、採用職種及び身分を具体的に明示しており、右採用通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったと解することができるから、上告人が被上告人からの社員公募に応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対する被上告人からの右採用通知は、右申込みに対する承諾であって、これにより、上告人と被上告人との間に、いわゆる採用内定の一態様として、労働契約の効力発生の始期を右採用通知に明示された昭和45年4月1日とする労働契約が成立したと解するのが相当である。
そして、右労働契約においては、上告人が再度の健康診断で異常があった場合又は誓約書等を所定の期日までに提出しない場合には採用を取り消し得るものとしているが、被上告人による解約権の留保は右の場合に限られるものではなく、被上告人において採用内定当時知ることができず、また知ることを期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができる場合をも含むと解するのが相当であり、本件採用取消の通知は、右解約権に基づく解約申入れとみるべきである。したがって、採用内定を取り消すについては、労働契約が効力を発生した後に適用されるべき日本電信電話公社法31条等の規定が適用されるものでないことも明らかである。
ところで、被上告人において本件採用の取消をしたのは、上告人が反戦青年委員会に所属し、その指導的地位にある者の行動として、大阪府公安条例違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受ける程度の違法行為をしたことが判明したためであって、被上告人において右のような違法行為を積極的に敢行した上告人を見習社員として雇用することは相当でなく、被上告人が上告人を見習社員としての適格性を欠くと判断し、本件採用の取消をしたことは、解約権留保の趣旨・目的に照らして社会通念上相当として是認することができるから、解約権の行使は有効と解すべきである。したがって、原審が、上告人の採用試験への参加等が労働契約の申込みに、辞令書の交付が右契約の承諾に当たり、これに先立ってなされた本件採用通知は以後の手続きを円滑に進展されるための事実上の通知にすぎず、労働契約的な関係を生ぜしめるものではないと判断したところは失当であるが、上告人の本訴請求は理由がないと判示しているから、原審の判断は、その結論において正当として是認することができる。 - 適用法規・条文
- 憲法14条、労働基準法3条、民法90条
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
大阪地裁 - 昭和45年(ヨ)第998号 | 認容(控訴) | 1971年08月16日 |
大阪高裁 - 昭和46年(ネ)第1122号 | 原判決取消(控訴認容) | 1973年10月29日 |
大阪地裁 - 昭和49年(ワ)第863号、大阪地裁 - 昭和49年(ワ)第947号 | 認容(控訴) | 1977年04月21日 |
大阪高裁 - 昭和52年(ネ)第770号 | 控訴棄却(上告) | 1979年02月27日 |
最高裁―昭和52年(オ)94号 | 上告棄却 | 1979年07月20日 |