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D印刷採用内定取消上告事件
- 事件の分類
- 採用内定取消
- 事件名
- D印刷採用内定取消上告事件
- 事件番号
- 最高裁 - 昭和52年(オ)第94号
- 当事者
- 上告人 株式会社
被上告人 個人1名 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1979年07月20日
- 判決決定区分
- 上告棄却
- 事件の概要
- 上告人(第1審被告・第2審控訴人)は総合印刷を業とする株式会社であり、被上告人(第1審原告・第2審被控訴人)は昭和44年3月にS大学を卒業した者である。被上告人は昭和44年度の上告人の採用試験を受験し、昭和43年7月12日に採用内定通知を受領し、その際被上告人は上告人の指示に従って誓約書を送付した。同誓約書では、卒業後は間違いなく入社することのほか、1)履歴書身上書等書類の記載事項に事実と相違した点があったとき、2)過去に於て共産主義運動及び之に類する運動をし、又は関係した事実が判明したとき、3)本年3月学校を卒業できなかったとき、4)入社迄に健康状態が選考日より低下し勤務に堪えないと認められたとき、5)その他の事由によって入社後の勤務に不適当と認められたときには、採用内定取消をされても異存はない旨記載されていた。ところが、上告人は被上告人がグルーミーであるなどの理由から、昭和44年2月12日頃、被上告人に対しては理由を付すことなく採用内定取消しの通知をした。
これに対し被上告人は、採用内定取消は解雇に当たるところ、本件解雇は思想信条を理由とするものであり、仮にそうでないとしても公序良俗に反するとしてその無効の確認と賃金の支払を請求するとともに、精神的苦痛に対する慰藉料200万円を上告人に対し請求した。
第1審では、本件内定取消は正当な理由がなく無効であるとして、被上告人の従業員としての地位を認め、上告人に対し昭和44年4月以降の賃金の支払を命じたが、一方慰藉料の請求についてはこれを棄却した。そこで上告人はこれを不服として控訴する一方、被上告人は慰藉料の支払いを求めて附帯控訴した。第2審では、第1審と同様被上告人の従業員としての地位を認め、上告人に対し、被上告人の賃金の外、慰謝料100万円及び弁護士費用50万円の支払いを命じたことから、上告人はこれを不服として上告に及んだ。 - 主文
- 1上告人の上告を棄却する。
2訴訟費用は、第1、2、3審を通じて上告人の負担とする。 - 判決要旨
- 企業が大学新規卒業者を採用するについて、早期に採用試験を実施して採用を内定する、いわゆる採用内定の制度は、従来我が国において広く行われているところであるが、その実態は多様であるため、採用内定の法的性質について一義的に論断することは困難というべきである。したがって、具体的事案につき、採用内定の法的性質を判断するに当たっては、当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即してこれを検討する必要がある。
本件の事実関係においては、上告人からの募集(申込みの誘引)に対し、被上告人が応募したのは労働契約の申込みであり、これに対する除告認からの採用内定通知は、右申込みに対する承諾であって、被上告人の本件誓約書の提出と相俟って、これにより被上告人と上告人との間に、被上告人の就労の始期を昭和44年大学卒業後とし、それまでの間、本件誓約書記載の5項目の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解するのを相当とした原審の判断は正当である。
我が国の雇用事情に照らすとき、大学新規卒業予定者で特定企業との間に採用内定の関係に入った者は、「解約権留保付であるとはいえ、卒業後の就労を期して、他企業への就職の機会と可能性を放棄するのが通例であるから、就労の有無という違いはあるが、採用内定者の地位は、一定の試用期間を付して雇用関係に入った者の試用期間中の地位と基本的に異なるところはない。
採用内定期間中の留保解約権の行使についても、試用契約における留保解約権の行使の場合と同様に解すべきであり、したがって、採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものと解するのが相当である。
上告人はグルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定にしておいたところ、そのような材料が出なかったことを理由とする内定取消は、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用というべきである。 - 適用法規・条文
- 民法709条、労働基準法3条
- 収録文献(出典)
- 労働判例323号19頁、判例時報938号3頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
大津地裁 - 昭和44年(ワ)第84号 | 認容(控訴) | 1972年03月29日 |
大阪高裁 - 昭和47年(ネ)第458号 | 控訴棄却、附帯控訴変更(上告) | 1976年10月04日 |
最高裁 - 昭和52年(オ)第94号 | 上告棄却 | 1979年07月20日 |