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派遣労働者中途解雇事件(派遣)

事件の分類
雇止め
事件名
派遣労働者中途解雇事件(派遣)
事件番号
神戸地裁姫路支部 - 平成21年(ワ)第555号
当事者
原告 個人4名A、B、C、D
被告 ベアリング等製造会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2011年02月23日
判決決定区分
一部認容・一部棄却
事件の概要
被告はベアリング等の製造・販売等を目的とする株式会社、S社は請負業、労働者派遣事業、有料職業紹介事業等を業とする株式会社であり、原告Aは平成16年4月19日、原告Bは平成19年9月26日、原告Cは平成19年8月21日、原告Dは平成17年3月18日、それぞれS社と雇用契約を締結し、被告姫路工場でベアリングの製造業務に従事していた。

被告は、平成15年12月1日、S社との間で出向協定(本件出向協定)を締結し、その後被告・S社間の契約関係は、平成17年10月1日から業務委託(請負)契約(本件業務委託契約)、平成18年8月21日からは労働者派遣契約(本件派遣契約)に変更された。原告らはS社との雇用契約を締結した後、被告・S社間の本件出向協定、本件業務委託契約ないし本件派遣契約に基づき、姫路工場で就労していたところ、S社から、同社が被告から本件派遣契約を中途解除する旨の通知を受けたとして、平成21年3月31日をもって中途解雇(雇用契約の本来の終期は同年8月20日)する旨の通知を受けた。

兵庫労働局は、原告ら及び原告らが加入する労働組合JMIUの申入れを受けて、平成21年3月23日、被告及びS社に対し、労働者派遣法違反(派遣期間制限違反)及び職業安定法違反(労働者供給事業禁止違反)があったとして、同年4月23日までに原告ら派遣労働者の雇用の安定を図るための具体的方策を講じて報告するようにという是正指導(本件是正指導)を行った。そこで被告はこれを受けて、本件派遣契約の解除につき、同年3月31日から4月23日付けと変更し、S社も原告らの解雇を同日付きに繰り下げた。更に被告は、同年4月23日、原告らとの間で、期間を翌24日から同年9月30日までとして期間雇用契約(本件期間雇用契約)を締結したところ、この際原告らは、上記期間制限等につき異議を留める旨主張したが、本件期間雇用契約は、平成21年9月30日をもって、更新されることなく終了した。

これに対し原告らは、採用に当たって被告姫路工場長Eが面接をするなど被告が採用に関与していること、被告と原告らは黙示の労働契約が成立していたこと、本件出向協定は違法な労働者供給に該当すること、原告A及び同DについてはS社と被告との間に二重の労働契約が成立していたことなどから、原告らと被告との間には黙示の労働契約が成立している旨主張した。その上で原告らは、被告との間に期間の定めなき黙示の労働契約が成立しているから、平成21年2月の派遣切りは労働契約法16条に違反して無効であること、原告らと被告との間の労働契約が仮に有期契約であるとしても、原告らは正社員と一体となって従事していたこと、契約更新の回数は多い者で6回であり、社外労働者の中で「雇止め」された者は誰もいないこと、派遣切り直前の契約期間は、短い者でも1年4ヶ月であり、有期契約としては異例の長期間であること、更新手続きも極めて形式的であり、更新が当然の前提となっていたことからすれば、当然に解雇法理が類推適用されるべきところ、整理解雇の4要件はいずれも満たしていないこと、6ヶ月足らずの期間雇用は労働局の指導内容である「雇用の安定」を図る措置とは到底評価できないことから、本件雇止めは無効であるとして、被告の従業員としての地位の確認を求めた。また原告らは、平成21年2月の派遣切り、諸手当の支給の全面的打切り、本件是正指導後の直接雇用は1度も更新することなく雇止めされ、本件是正指導に反するばかりか、原告らに対する不利益取扱いであって違法であるなどとして、被告に対し原告ら各自に対し慰謝料300万円を請求した。
主文
1被告は、原告ら各自に対し、各50万円及びこれに対する平成21年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2原告らのその余の請求を棄却する。

3訴訟費用は、これを5分し、その4を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

4この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1原告ら・被告間の労働契約の成否について

松下PDP事件判決(最高裁平成21年12月18日判決)は、事実関係等に現れた全事情を総合的に判断した上で、発注元・労働者間の雇用契約関係が黙示的に成立していたものと評価することはできないと判断したものであることは明らかであって、特に重要なものとして、誰が給与等の額を決定していたかとか、誰が具体的な就業態様を決定し得る地位にあったかといった事情とともに、並列的に、発注元が請負業者による労働者の採用に関与していたかを挙げているにすぎず、仮に発注元による上記採用への関与がとみに大きく、その結果として、敢えて他の事情を判断するまでもなく、発注元・労働者間に黙示の労働契約が成立したものと評価できる場合があり得ることは格別、「採用への関与」がありさえすれば同契約が成立するといった規範を示したものとは到底解されない。

原告らは、本件出向協定が、S社が「業として」行うものにほかならず、労働者派遣ではなく、違法な労働者供給であることを前提に、原告A及び同Dについては、S社との間のみならず、被告との間でも二重に労働契約が成立していたなどと主張する。この点、請負契約を前提とする場合、仮にその実態が労働者派遣であっても、労働者は、請負業者との間のみ労働契約関係を有し、発注元との間には同関係を有しないのに対し、出向の場合、労働者は出向元企業との労働関係を維持しつつ、出向先との労働契約関係に入るものであるから、業務請負契約の事案を前提とする松下PDP事件判決が、出向関係下の事例において、直接に妥当するものとまではいえない。

原告らは、S社の社員F、Nの面接を受けた後、姫路工場を訪れ、被告の従業員EないしIから業務内容等に関する説明を受け、同工場の見学をしているところ、原告らは、これをもってEらが原告らの能力を確認して採用を決定したと主張する。しかし、姫路工場で工場見学を行うようになったのは、被告・S社間で話し合った結果、S社の採用予定者に事前に工場見学を見てもらい、職場環境、業務内容を本人に見てもらうことで、後のトラブルを避けるためであったにすぎない。加えて、S社においては、自社の募集広告への応募者に対し面接及びテストを行い、希望の職種や履歴書等から総合的に採用の可否を決定し、採用可と判断した場合には就業先の職場を見てもらい、その上で本人の意思を確認し、同人の了解を得られた場合に雇用契約を締結することとしていたこと、被告が、これまでに姫路工場を見学に来た者の就労を拒否したことは一度もないのに対し、自ら就労を取り止めた工場見学者は10名ないし20名にのぼることが認められる。そうすると、原告らが、工場見学の日に、Eらから業務内容に関する説明や過去の職歴に関する質問を受けたことを考慮しても、S社による労働者の採用は、姫路工場見学の前に同社によって既に決定されているのであって、これに被告が関与して、採用の可否を事実上決定したとは認められないといわなければならない。

姫路工場では、本件出向協定当時から、原告ら受入労働者に対する作業内容の指導、残業や休日出勤の指示等の指揮監督は、専ら被告の正社員が行っており、常駐管理者であったFは、出勤簿の管理や給与計算等を行っていたに過ぎず、同指揮監督をするS社の社員は存在しなかったこと、生産ラインにおいても、被告の正社員と受入労働者とが混在して業務に従事しており、受入労働者が使用する機材や制服、更衣室、ロッカー等は全て被告が用意していたことのほか、被告がS社に対し、姫路工場で勤務する受入労働者の補充を依頼する際には、現場からの要請に基づき、社員の就労場所や配置を事前に決定していたことが認められる。また、本件出向協定においても、被告は出向者につき、同人の責めに帰すべき事由が発生した場合には、出向期間中にかかわらず、同人の出向を取り消すことができる権限を有していたことが認められる。これらによれば、被告が、原告らに対し、作業上の指揮命令権のほか、配置・懲戒の権限を有していたといえる。

原告らは、同人らの賃金は被告が実質的に決定していたと主張する。しかし、被告がS社に対し、業務委託料等を出来高でなく時間給として支払っていた点については、両者間の契約内容の問題にすぎず、またS社が自己の雇用する従業員に対し賃金としていくら支払うか、被告から支払を受ける業務委託料等からどの程度を自己の利益分として差し引くかは、まさにS社が自ら決定すべき事柄であって、かえって、本件出向協定においては、賃金及び賞与につき、S社が同社の定める基準により支給し、それに係わる費用は別に定める基準により両社がそれぞれ負担すると定められていること、出向者に係わる保険についても、労災保険を除いては、いずれもS社の取扱いに従い、その保険料は同社が負担していたことが認められる。これによれば、被告が原告らの賃金を決定していたとは認められない。

また原告らは、被告が原告A及び同Bに対し、作業上の指揮命令権を取得し、出退勤の管理を行っていたに止まらず、配置、懲戒、解雇に関する権限をも保持していたことから、労務給付請求権を有していたと評価できると主張する。しかし、本件出向協定において被告が出向社員に対して有する懲戒権限は、出向者が自己の責めに帰すべき事由を生じさせた場合に、その者をS社に復帰させるに止まり、それを超えて同出向者を同社から解雇する権限まで有していたわけではないことは明らかである。

以上のとおり、被告はS社による原告らの採用に関与していたとは認められない上に、原告らに対する作業上の指揮監督権や配置・懲戒の権限を有していたものの、解雇権限まで有していたわけではなく、賃金や諸手当についてもS社が主体的に決定していたことが認められる。これらの事情を総合考慮すると、原告ら・被告間の黙示の労働契約が成立していたとまで評価することは困難というべきである。

2解雇(更新拒絶)の無効について

原告ら・被告間には、黙示の労働契約の成立は認められないから、同契約の成立を前提としてその解雇(更新拒絶)の無効をいう原告らの主張には理由がない。そして、黙示の労働契約の成立が認められないとすると、原告ら・被告間に成立したのは本件期間雇用契約ということになるところ、原告らは、1)本件是正指導によって成立した本件期間雇用契約は、本来期間の定めのない契約として実現されなければならなかったこと、2)仮に有期契約自体は許されるとしても、実質的には1ヶ月だけの雇用を確保するにすぎない本件期間雇用契約では、「雇用の安定」を図る措置とは到底評価できない旨主張する。しかし、被告は、平成21年4月7日の時点で、兵庫労働局に対し、本件是正指導に基づく措置として、派遣労働者の数人につき、時給1200円により同年9月末までの有期という条件で雇用することを考えていること、及び同日以降の処遇につき、業務量等により更新することがあるといった文言で対処することを考えているが、実際には経営環境が大きく好転しない限り更新は難しい旨述べたこと、兵庫労働局からは、派遣労働者全員の直接雇用を検討するよう指導されたものの、有期といった指導がされた事実はなく、かえって被告が同年4月14日、同労働局に対し、派遣労働者全員を直接雇用する旨の方針を伝えたところ、同労働局からは、当該方針のもとに同月21日には是正報告書が受理されたことが認められる。これらの事実経過からすれば、本件是正指導にある「雇用の安定」とは、期間の定めのない契約や、更新を前提とする有期契約の実現までをも意味するものではないといわざるを得ない。したがって、本件の雇止めが無効であるとは認められない。

3被告の不法行為について

原告らが主張する被告の違法性のうち、派遣切りしたことの違法性については、原告ら・被告間において黙示の労働契約が成立していることを前提とする主張であるところ、原告らについては、同契約の成立は認められず、被告との間に黙示の労働契約が成立したことを認めるに足りる証拠はないから、理由がない。また、被告は平成21年4月14日、兵庫労働局に対し、本件是正指導に基づく措置として、派遣労働者の賃金につき時給1200円の条件で雇用する旨の募集・応募用紙を提出し、JMIU支部に対しても同様の説明をしたこと、兵庫労働局は同月20日に、JMIU支部から派遣労働時の労働条件を下回らないこと等が最低限必要との要望を受けたにもかかわらず、被告から賃金につき上記条件のままで是正報告書を受理したことが認められる。このような一連の経過からすれば、原告らに、被告との間で従前の労働者派遣契約下の雇用契約と同様の条件で直接契約が締結されるとの期待が生じていたとみるのは困難である。したがって、同期待が裏切られたことを前提に、従前の手当等の支給を打ち切ったことの違法性をいう原告らの主張には理由がない。更に、本件雇用契約を更新しなかったことが、原告らに対する不利益取扱いであるとか、被告が労働組合を嫌悪していることによるものであることを示す的確な証拠はないから、これが不当労働行為を構成するとの原告らの主張にも理由がない。

しかし、被告はS社との本件出向協定を2年足らずで本件業務委託契約に切り替え、更に1年足らずで本件派遣契約に切り替えており、その間、専ら被告正社員がS社の社員に対する指揮監督を行い、両者が混在して業務に従事するという就業実態には何ら変わりはなく、その点について業務改善命令を受けたにもかかわらず、何ら改善することなく、更に本件指導を受けたものであって、もともと、本件出向協定時から姫路工場におけるベアリング製造工程のS社による請負化を目指していたことを考え合わせると、本件出向協定が締結された平成15年12月当初から、その実態は労働者派遣であったというべきである。しかも、製造業における労働者派遣は平成16年3月1日に初めて解禁されたものであり、当初は1年間の派遣しか認められておらず、平成19年3月以降も3年間の派遣しか認められていなかったにもかかわらず、被告はS社とともに、偽装出向、偽装請負、労働者派遣と契約形態を巧みに変化させながら、本件是正指導がされた平成21年3月23日までの間をみても、実に5年超の長きにわたって、違法に労働者派遣を実施していたことが明らかである。そして、本件出向協定を締結して以降の経緯等からすれば、被告が、前記違法状態にあること、本来は早期に完全な業務委託(請負)等を実現しなければならないことを十分認識していたと推認される。それにもかかわらず、被告はこれらを実現することなく、本件派遣契約を締結し、漫然と派遣労働を継続したのであるから、これは法が許容する場合に限って三者間労働関係を認めている労働関係法規の趣旨に反するものであって、原告らに対し不法行為を構成するというべきである。そして、原告らは5年超の長きにわたる違法な派遣労働下において就労させられたという違法の重大性に鑑みれば、同人らに対する慰謝料としては、各50万円が相当である。
適用法規・条文
民法709条、労働者派遣法5条、35条の2、40条の2第2項、48条1項、49条の2第1項、職業安定法44条、労働契約法16条
収録文献(出典)
その他特記事項
神戸地裁姫路支部 平成21年(ワ)555号:2011081943