判例データベース
E社雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- E社雇止事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成22年(ワ)第7302号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2011年04月28日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 被告は、自動車のカタログやパンフレット等の企画と印刷を目的とする会社であり、原告(昭和37年生)は、昭和63年に美大を卒業し、数社において勤務した後、平成18年4月に被告に入社し、クリエイティブディレクター(CD)として勤務していた。
原告は、当初平成18年4月1日から12月31日までの雇用契約を締結し、平成19年以降、1月1日から1年間の雇用契約の更新を3回繰り返したが、平成21年11月20日、被告は、原告のCDとしてのプロジェクト遂行力、チーム統括力に欠けること、原告の行為に起因する顧客からのクレームが発生したことなど業務遂行能力が十分でないとして、本件有期契約を更新しない旨原告に通告した。
これに対し原告は、採用面接時において被告担当者は長期安定雇用を前提とした話をしたこと、3回にわたる本件各更新手続きはいずれも形式的・機械的なものに過ぎないこと、被告は翌年の仕事に関する割り振りを原告に告げていたことなど、本件有期雇用契約の継続に対する原告の期待には合理性が認められるから本件雇止めには解雇権濫用法理が類推適用されるべきところ、原告は各種受賞歴のある優秀なCDである上、整理解雇の合理性を裏付ける事実関係は全く存在しないから、本件雇止めは権利の濫用に当たり無効であるとして、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 本件各更新手続きの回数は3回に過ぎず、本件有期雇用契約が期間の定めのない契約と実質的に同視することができる状態にないことは明らかであるから、本件雇止めに解雇権濫用法理が類推適用されるためには、本件有期雇用契約による雇用継続に対する原告の期待利益に合理性があることが必要と解されるところ、この合理性の有無は、1)当該雇用の臨時性・常用性、2)更新の回数、3)雇用の通算期間、4)契約期間管理の状況、雇用継続の期待を持たせる言動・制度の有無などを総合考慮し、これを決するのが相当である。
原告はコピーライターとして入社応募したところ、その経験や意欲を買われ、CDというワンランク上のポジションで採用されたものであって、その年齢等を併せ考慮すると、被告との雇用契約が長期かつ安定的に継続されることに対して、それなりの期待を抱いていたということはできる。しかし、1)CDは自由な発想に基づく創造性、専門性を持った人材が求められることから、その職務は、本来常用よりもむしろ臨時的な性格を有している認められること、2)現に被告は、CD業務につき1年毎の嘱託社員向けの業務と位置付け、原告に対しても、その採用面接時はもとより入社直後のオリエンテーション等においてもその旨を明確に説明し、雇用継続に対する期待利益を抱かせるような言動をした形跡は窺われないこと、3)本件各更新手続の回数は僅か3回に止まっており、その通算期間も4年に満たないこと、4)被告は、本件各更新手続に先立って、各契約期間の成果等に基づき、原告とその上長との間において面談を実施した上、これを踏まえ年俸の額等を決定し、原告との間において有期雇用契約書を取り交わしており、本件各更新手続の管理は厳格に行われていたものといい得ることなどの事情を指摘することができる。これらの事情を総合すると、本件有期雇用契約による雇用継続に対する原告の期待利益に合理性があるとはいい難く、本件雇止めに解雇権濫用の法理を類推適用する余地はないというべきである。
原告は、採用面接時において、被告担当者から事業拡大を前提にコピーライターではなくCDでの採用を打診されたと供述するが、被告が原告をCDとして採用した直接の理由は専らCDに欠員が生じたことにあり、事業拡大のためではない。原告は、採用面接時に担当者から、有期契約社員の中には定年過ぎまで働いているコピーラーターもいる、原告も社内結婚してずっと居れば良い、どこに出しても恥ずかしくないCDに育てるなどの話があった旨供述するが、原告に対する採用面接では、「嘱託契約社員」であることが明記された「労働条件書」が提示された上で実施されており、上記のような発言があったとしても、それは単なる雑談の類に過ぎないとみるのが相当である。いずれにしても原告の上記主張は、雇用継続に対する期待利益の合理性を基礎付けるに足る事実関係を主張するものではなく、採用の限りではない。
原告は、採用決定時も労働条件の説明はなかったとか、「労働条件書」と題する入社手続きの書面中の「嘱託契約社員」の趣旨について、被告担当者は年俸額の期間ということで便宜的なものと説明したとか、局長らから、正社員と契約社員の違いは退職金の有無にあり、契約社員も希望すればずーっと働き続けることができるなどの話があったなどと供述するが、これらの供述を裏付ける証拠はなく、しかも局長らは、採用面接時、原告に対し「嘱託契約社員」であることが明記された「労働条件書」を提示し説明しており、こうした経緯等に照らすならば、原告の上記供述は俄に信用し難く、採用の限りではない。
原告は、3回にわたる本件各更新手続は、いずれも形式的・機械的なものに過ぎず、肝心の更新するかしないかに関する言及はなかったばかりか、「更新資料」も最初の更新の際に1回使用されただけであったなどと主張する。しかし、被告は初回の更新時こそ「2007年契約更新資料」と題する書面を使用したものの、それ以後の更新手続においては、上記書面に改良を加えた書面を使用し、事前に契約を更新するか否かを決定した上、原告に対する評価面談に臨んでいたものであって、本件各更新手続の管理がルーズに流れ形式化していたとは認め難く、本件各更新手続の運用が、原告の雇用継続に対する合理的な期待を生じさせるようなものであったとは到底いい難い。
以上のとおりであるから、原告の上記一連の主張は、いずれも採用の限りではない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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