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O社懲戒解雇・雇止事件(パワハラ)

事件の分類
配置転換
事件名
O社懲戒解雇・雇止事件(パワハラ)
事件番号
大阪地裁 - 平成11年(ヨ)第10133号
当事者
債権者 個人2名 A、B
債務者 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
決定
判決決定年月日
2000年05月18日
判決決定区分
却下
事件の概要
 債務者はビルメンテナンス、警備等を業とする株式会社であり、債権者Aは平成3年4月に債務者に正社員として雇用された者、債権者Bは平成9年3月にパート従業員として期間1年の雇用契約で入社した者である。債権者Aは豊中市役所S駐車場において警備業務を担当し、債権者Bは豊中市立N図書館で就労していた。

 豊中市役所S駐車場は、平成11年10月以降、機械ゲートの導入により被告と豊中市との間の契約人員の減員が決定されていたが、債務者は解雇を避けて、駐車場から他の職場に1名を異動させ、雇用を確保することとした。当時豊中市の職場で欠員を生じていたのは保健センターの夜勤業務であったところ、債務者は当時U図書館に勤務していた1名を同センターに異動させた上で、債権者AをU図書館に異動させることに決定した。一方、債権者Bは職場で他の従業員と折合いが悪かったことから、平成11年10月16日から1年間の雇用契約を締結するに当たっての就労場所として、債務者は債権者Bに対し体育館を提案した。債務者は、これらの配転について債権者らを組織する労組と団体交渉を持ち、債権者らの職場変更について了解を得たが、その後組合は電話で突然拒否を通告した。しかし債務者は、債務者の申込みを承諾する旨の回答を得た時点で労使間の合意により就労場所は変更になったものであり、労使間の合意は組合員たる債権者らを拘束するものとして、U図書館勤務を拒否する債権者Aを懲戒解雇するとともに、同年10月16日以降体育館での就労を拒否した債権者Bとの契約を更新しなかった。

 債権者らは、債権者Aについては、配転の必要があったとしても同人が選ばれる理由がなく、組合潰しを図ったものであって、本件解雇は解雇権の濫用として無効であること、債権者Bについては、その反復更新によって期間の定めのない契約に転化していること、人間関係の悪化の原因は債権者Bにはないこと、非正規社員に対する配転は本人の了解を得て行うという慣行に反することを挙げて、本件更新拒絶は解雇権の濫用として無効であると主張して、いずれも従業員としての地位の保全を求めて仮処分の申立を行った。
主文
1 債権者らの本件申立てをいずれも却下する。

2 申立費用は債権者らの負担とする。
判決要旨
1 債権者Aについて

 豊中市役所S駐車場について機械ゲートが導入されることになり、そのため同所に就労する警備員に余剰人員が生じたこと、その結果、債権者Aに対する配転が決定したことを認めることができる。そして、債権者Aに対する右配転は、その通勤上の負担などを考慮してされたものと認められ、これを不合理とする事情は疎明されていない。人事権は使用者に属するものであるから、その経営上の判断によって行えば足りるもので、かつその人選も唯一最上のものである必要はない。また右配転によって債権者Aに著しい不利益が生じることもなく、また手続き的にも、組合と協議の上一旦はその承諾を得ているものである。そうであれば、右配転の拒否は明らかに業務命令に違反し、就業規則に規定する懲戒解雇事由に該当するものであり、これによる解雇を無効とする事情はない。

2 債権者Bについて

 債権者Bと債務者との雇用契約は更新を予定していたものということができる。しかし、更新されたのも平成9年10月16日及び平成10年10月16日の2回だけであり、更新時には改めて書面による契約書を作成していることからすると、これが期間の定めのない契約に転化したということはできない。そして、債権者らはパート授業員について過去に配転がされたことがないというが、だからといって配転に労働者の承諾を必要とするとの慣行があったということはできない。債務者が債権者Bに対して行った体育館勤務を命じる旨の配転は、債権者Bの就労場所において人間関係の円滑を欠き、そのまま放置すれば業務の遂行等影響を及ぼすことが懸念されたためであることが窺え、配置換えの必要があったことは肯定できる。債権者Bは、軋轢のあった従業員を配転すべきであるというが、債権者Bにかかる請求権はないし、債権者Bに対する配転は人事権の行使としてされたもので、懲罰としてされたものではなく、またこれによって債権者Bに労働条件において著しい不利益を与えるものということもできない。これらによれば、債権者Bを配転したことを人事権の濫用ということもできない。更に、右配転については、一旦は債権者Bも加わる労働組合も承諾したものであり、手続的にも咎められるところがなく、債権者Bの組合活動を嫌悪してされたものと認める疎明もない。しかるに債権者Bは右配転に応じなかったものであるから、債務者の更新拒絶には合理的な理由があるというべきである。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働経済判例速報1755号27頁
その他特記事項