判例データベース

F社退職勧奨拒否配転事件(パワハラ)

事件の分類
配置転換
事件名
F社退職勧奨拒否配転事件(パワハラ)
事件番号
大阪地裁 - 平成11年(ワ)第4732号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2000年08月28日
判決決定区分
一部認容・一部棄却
事件の概要
 被告は、各種包装資材、包装用機械等の製造販売等を目的とする会社であり、国内における関連会社として、フジアステック、フジアルファ、フジタック等を有している。原告は昭和55年被告に雇用され、主に開発業務を担当し、平成5年3月から平成7年12月までフジアステックに出向した。その後原告はソフトバウチ部の部長となり、平成9年4月、開発部の業務内容が別会社化されフジアルファとなったのに伴い同社に出向し、同社のソフトバウチ部長として業務に従事してきた。

 被告は、平成8年7月頃から、Y社販売に係る天然水の容器及び充填機の注文を受け、最優先事項として取引きに努めたが、結局失敗に終わり、経済的損失だけでなく、対外的信用も失ったとして、関係幹部は降格や引責辞任させられた。原告もこの業務の実務担当者であったほか、他の業務でも失敗をしたり、責任回避の言動をしたりするなどと見られていた。原告は、平成10年12月14日、フジアルファの社長から、3ヶ月分の給与加算、通常の退職金の支払いを条件に退職勧奨を受け、これを拒否すると、被告の代表取締役から得意先への訪問を禁止され、更に同月21日、業績不振の責任を取るという名目で、期間を定めない自宅待機命令を受けた。

 原告は、同月24日、被告総務課長から、筑波工場への転勤命令の告知(本件配転命令1)を受け、平成11年1月12日同工場へ赴任し、同年2月1日付けで、被告から副参事職への降格処分を受けた。原告は本件配転命令1を不服として、筑波工場に勤務する雇用契約上の義務のない地位にあることの確認を求めて仮処分を申し立て、これは認容された(本件仮処分決定)。このため被告は、同月21日、原告に対し期限を定めない自宅待機命令を出すとともに、同年8月17日付けでフジタック奈良工場への出向を命じ(本件配転命令2)、同日より原告は奈良工場で勤務した。

 原告は、本件配転命令1について、ポストは同命令によって初めて作られたものであり、筑波工場で担当した業務は肉体労働の単純反復労働であって、これは原告を退職に追い込むためだけの配転命令であること、本件配転命令2について、原告が命じられた業務は完全な肉体労働であり、原告のこれまでの経験や能力を無視するものであること、本件降格処分は懲戒処分であるところ、その根拠規定を欠くことなどから、いずれも人事権の濫用として無効であることを主張するとともに、本件配転命令1、2及び本件降格処分によって月額給与及び賞与の減額を受けたとして、その差額分及び精神的肉体的苦痛に対する慰謝料500万円を被告に対し請求した。
主文
1 原告が、株式会社フジアルファのソフトバウチ部に勤務する雇用契約上の地位にあることを確認する。

2 原告が、副参与職の地位にあることを確認する。

3 被告は、原告に対し、252万5935円及びこれに対する平成12年5月9日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

4 被告は、原告に対し、平成12年5月1日以降本判決確定に至るまで、毎月25日限り12万8600円を支払え。

5 原告のその余の請求を棄却する。

6 訴訟費用はこれを8分し。その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
判決要旨
1 本件配転命令1の有効性

 被告の就業規則上、業務上必要があるときは異動を命じ得る旨の定めがあり、また雇用契約上原告の職種に限定はなく、現に原告は勤務地の限定のない全国社員を選択していた者であるところ、これらに照らせば、被告には原告の個別的同意がなくとも配転を命じる権限がある。しかしながら、当該配転について、業務上の必要性が存しない場合や、業務上の必要性が存したとしても他の不当な動機・目的をもってなされたものである等の特段の事情が存する場合には、当該配転命令は権利の濫用として無効となるとするのが相当である。

 本件配転命令1のポスト「印刷センター」の「筑波駐在インキ担当」は、本件配転命令1により初めて作られたものであり、原告が現実に担当した業務は、15,6kgもあるインクの缶を倉庫の棚から降ろし、台車で印刷作業所まで運び、同作業所において運んできたインクを混ぜ合わせ、有機溶剤を加えて一定の粘度にし、印刷機のところまで運ぶ肉体労働で、殊更に経験を必要とするものではない単純作業であった。そして、本件配転命令1の後、平成11年1月29日、原告は懲戒処分としての本件降格処分を受けた。

 以上を総合考慮するならば、筑波工場の生産量の増大、これに伴う設備投資の増加は認められるものの、当時筑波工場でのインク担当業務に原告を従事させなければならない業務上の必要性があったものとはいえず、退職勧奨を拒否した直後に従前とは全く異なった業務に従事させていること、原告が担当した業務がその経験や経歴とは関連のない単純労働であったこと等に照らせば、本件配転命令1は、退職勧奨拒否に対する嫌がらせとして発令されたというべきで、権利の濫用として無効といわざるを得ない。

2 本件配転命令2の有効性

 そもそも本件配転命令1の効力が訴訟で争われており、その有効・無効が確定しない間に「暫定的」な配置をすることは、労働者の労働条件を著しく不安定にするものである上、原告が奈良工場で従事している業務は、工場の製造ラインから排出されるゴミをゴミ置き場から回収し、手押し台車に入れ、屋外に設置されているゴミ回収車の荷台に入れる作業等であって、従前嘱託社員が行っていたものであり、原告をかかる職場に配置する業務上の必要性はないといわざるを得ない。したがって、本件配転命令2も権利の濫用として無効である。

3 本件降格処分の有効性

 本件降格処分は懲戒処分として行われたものである。そして、被告の就業規則上「降格」処分については、懲戒の種類としての記載はあるものの、いかなる場合に降格処分となるかという要件が定められていない。懲戒処分は、会社の秩序維持のため、使用者が労働者に対し、配置転換や昇給・昇格の低査定などとは別個に課す特別の不利益である以上、懲戒の事由が予め就業規則等で明記され労働契約の内容となっていることが必要と解すべきである。したがって、本件降格処分は規定に基づかないものであるから無効である。被告は、降格処分は、減給・譴責より重く、懲戒解雇より軽い処分であり、右双方とも就業規則上その要件が認められていることから、規定がなくとも、その中間的な降格処分をなし得ると主張するが、そもそも中間的というだけでは要件が明確とはいえず、かかる解釈は労働者に予期し得ない不利益を課すおそれがあって採用し得ない。

 また被告は、人事権行使の裁量の範囲内として本件降格処分を行い得ると主張する。しかし被告の就業規則上、副参事職は「職能」資格であり、これは労働者が一定期間勤続し、経験、技能を積み重ねたことにより得たものであって、これを引き下げるには就業規則等にその変更の要件が定められていることが必要である。被告では、職能資格の変更についても就業規則上規定があるが、本件降格処分では定められた要件、手続きが遵守されておらず、右被告の主張は採用し得ない。

4 各損害の有無

 本件配転命令1により原告は部長職を解かれているが、これは職位に関するものであり、被告の人事権の裁量に委ねられるのが相当である。そして、原告については、取引先と問題を生じさせ、また社内での原告の対応に対する批判があったことに照らせば、原告を部長職に留めておけないという被告の判断を人事権の濫用とまではいえない。従って、給与の減額分については、部長職に支給される役職手当の差額を求める部分については理由がない。また賞与については、少なくとも役職手当を除いた算出基礎額に、夏、冬の各査定月数を乗じた額が差額となる。更に慰謝料については、本件配転命令1、2、及び本件降格処分を無効とすることで足り、これを超える損害は認められない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働経済判例速報1765号3頁
その他特記事項