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K社ほか配転事件(パワハラ)

事件の分類
配置転換
事件名
K社ほか配転事件(パワハラ)
事件番号
東京地裁 - 平成18年(ワ)第29044号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社(A社)、B社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2008年01月18日
判決決定区分
一部認容・一部却下・一部棄却(控訴)
事件の概要
 被告A社は国内マーケティングを業とする会社であり、被告B社はA社の子会社であって、原告はA社に雇用されて営業員として勤務していたが、平成13年4月からA社の子会社であるM社に在籍出向していた。

 平成15年2月頃から原告の出向先のM社において、架空リースの問題が生じ、内部監査の結果、平成16年9月以降、仕入れ先をY社とし、販売先をN社とする取引に関しての「架空リース」が発覚し、不正リースの件数は80件以上、金額は1億3000万円以上に上り、その多くはリース契約の中途解約による契約返済を余儀なくされた。原告はこの不正リース事件に関与したとして、同年12月A社に始末書を提出したが、A社は原告の担当者としての自覚の不足を感じ、平成17年3月、原告の外、M社社長、営業本部長、原告の上司らを譴責処分に付して更迭するとともに、原告については、折しも同年4月から新賃金制度を実施することとしていたことから、営業職に就かせることは不適切と判断し、B社に在籍出向させ、同社のシニアインナーセールスとし、2等級(β3)で処遇することとした。その後同年9月頃、原告が担当していた本件取引につき、実際のリース対象の物件価格が多額に支払われ、そのうち約700万円の現金がN社に環流していたとの疑いが生じ、原告は本件取引につき具体的な商談内容は承知していないと報告したため、A社は本件リース契約を白紙撤回し、約970万円をM社がリース会社に返還し、この金額をY社から回収しようとした。

 平成18年1月、本件取引に関して、A社らとY社との間で面談が持たれ、Y社の抗弁に対し原告が明確な反論をしなかったことから、被告らは原告が一定の責任・関与を認めたと受け止めた。A社とM社は、本件不正リースへの原告の深い関与が疑われ、原告の不適切な対応や不十分な反省状況を踏まえ、同年7月、原告を営業職から外し、B社出向のまま業務スタッフ職に転換し、同社の業務推進課伝票管理センターへ配転した。これに対し原告は、本件配転命令は無効であるとして、従前の地位にあることの確認を請求した。
主文
1 本件請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 原告の出向先であるM社へ被告A社による内部監査が入り、そこで原告が担当したリース取引について不正リースの実態が窺われたことから、被告A社は系列会社であるM社の社長、営業本部長を始めとする管理職を含めて譴責処分及び人事異動を行っており、直接担当者であった原告もM社から被告B社のPODセンターへ異動の人事措置を受けている。

 被告らにとっては、N社との不正リースに関わる責任の所在がY社側のみにあるのか、M社側の原告もその不正の一端を担っているのかは重大な関心事であるが、面談の席で原告が示した言動は、従前に報告していた内容とは食い違う素振り、内容であったと思われ、被告らは原告が当該不正リースに深く関与していたのではないかとの疑いを強く持ち、そのためM社は当該取引による損害をY社と折半せざるを得なくなった。そしてM社は、原告に当該損害負担分の補填を求めたところ、原告は自らの責任を全面的に否定するに至っている。このような原告の対応や原告の反省状況を踏まえて、被告A社が被告B社と相談して、被告B社の伝票管理センターに配置転換した上で、伝票処理の事務的な業務に就けたものである。

 以上のような事情・経緯からすると、原告に対する平成18年7月1日付の本件配転命令は、被告らの社内において一定の必要性があったことは明らかであり、それが原告の従来の仕事とは異質のものであるとしても、原告を少なくとも当面は営業職から外さざるを得ないと考えた被告らの考えには合理性があるというべきである。また配転後に原告を営業職以外のどのような職種ないし部署に就けるかは被告らの社内における組織統制や人員体制上の問題であり、当該人事が濫用にわたるなどの特段の事情がない限り被告らの裁量が尊重されるべきである。そして、被告らには当該人事権を濫用したり、違法と目される動機も特に窺われないことからすると、本件配転命令は有効というべきである。
適用法規・条文
収録文献(出典)
平成21年度労働判例命令要旨集273頁
その他特記事項