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地公災基金東京都支部長(保母)外傷性てんかん事件
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 地公災基金東京都支部長(保母)外傷性てんかん事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成2年(行ウ)第17号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 地方公務員災害補償基金東京都支部長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1991年12月09日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 原告(昭和12年生)は、昭和56年当時、区立新舞子健康学園に勤務する保母であったところ、同年12月4日、同学園のスケート教室において、自由滑りをしていた際、滑走する原告の前方に滑り出てきた児童を避けようとしてフェンスに衝突・転倒し、後頭部をリンク氷面に打ち付けた(本件事故)。原告は同日以降、頭痛、視力低下、めまい、耳鳴り、嘔吐、両腕の痺れ、肩と頸部の痛み、握力低下、筋力低下等の症状を来し、同月5日以降、入院及び通院にて治療を受けていた。
原告は、昭和57年6月10日、傷病名を「後頭部打撲、頚椎捻挫、バレーリュー症候群」として被告に公務災害の認定を請求し、被告は昭和58年1月28日付け通知書をもって、これらの傷病を公務上の災害と認定する旨通知した。ところが、原告は、昭和59年4月14日以降、めまい様の意識障害発作を起こすようになり、「外傷性てんかん」(本件傷病)と診断されたので、本件傷病は本件事故に起因して発症したものであるとして、公務災害認定請求書を被告に提出したが、被告は、これを公務外災害と認定する処分(本件処分)をした。
原告は、地方公務員災害補償法51条2項の規定に基づき、本件処分の取消を求めて、審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却されたため、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。 - 主文
- 1 被告が原告の昭和59年10月10日付け認定請求につき昭和61年2月13日付け通知書をもって通知した、公務外の災害と認定した処分は、これを取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 - 判決要旨
- 原告は、昭和58年5月18日に受診したが、原告の脳波所見によると右前側頭部に棘波焦点が認められたこと、その後にはいまだ発作症状は見られず、昭和59年4月中頃から「めまい」を数分間自覚する症状が出現し、再び脳波にも異常が認められ、抗たんかん剤の投与により発作はコントロールされるに至っていること、右発作は部分発作、てんかん分類では部分てんかんと診断されたことが認められる。
原告は本件事故前にはてんかん発作を起こしていないことが認められ、遺伝的素因によるてんかんが30歳以降に発症することはごく稀であるとされているところ、原告はてんかん発作を起こした当時は47歳であり、その点から遺伝的素因によるものとは考えにくいこと、てんかんの原因として他に脳腫瘍、脳膿瘍、肺炎、脳血管奇形、脳血管障害等が一般的に考えられるが、これらの原因も否定できることが認められる。
脳損傷の有無の判断にはCTが有力な資料となるが、本件事故後にCTを撮った記録はなく、カルテには「頭部CT異常なし」と記載されているが詳細は不明であり、明確なものは昭和57年11月4日(頭部、頸部)及び同月16日(頸部)に撮影されたCTのみで、それによるとほぼ正常とされていることが認められ、原告の頭部の異常を示すCTは存在しない。しかし、専門医の研究結果によれば、外傷性てんかんの32%はCTが正常であったとの症例報告もなされている程であるから、脳の異常を示すCTが存在しないからといって脳損傷が存在しないとすることはできず、むしろ、原告の平成3年3月16日のMRIによれば、大脳基底核部に外傷の可能性の高い小異常影が認められることや、整形外科医の被告の照会に対する昭和58年12月付け回答によると、同医師は「左脳幹部あたりの症状が考えられる」旨指摘していること及び他の原因がほぼ否定されていることを総合すると、外傷による脳損傷の存在が確認できる。
また、脳波についても、昭和58年12月14日の脳波検査等正常であるとする所見も見られるが、昭和57年9月11日の脳波検査で左右側頭部に棘波〜鋭波が認められて異常と判定された他、昭和58年5月及び昭和59年5月にいずれも脳波の異常が認められ、特に昭和58年5月の場合には右側頭前部に棘波焦点が認められ、しかも前記MPRIの結果と右脳波異常の部位は側頭葉という点で一致していることが認められる。
以上を総合すると、原告のてんかんは、外傷性てんかんと推認するのが相当である。
本件てんかん発作は本件事故後2年4ヶ月を経過して発現しているが、そのような場合でも本件事故が原因といえるか否かが特に問題となる。外傷性てんかんの発症時期に関しては種々の統計があるが、ほとんどその内容は一致しており、1年目までに約半分が、2年目までに約4分の3が発症するとされており、5年で90%、10年で91.7%が発症していることが認められる。
これを本件事故について見るに、原告は本件事故後約2年4ヶ月後にてんかん発作を起こしており、右基準の2年を少し上回っているものの、原告は本件事故以前にてんかん発作を起こしたことがなく、本件事故後にも脳に損傷を受けるような事故に遭遇したことを窺わせるような事情も見当たらず、てんかんの他の原因もほぼ否定されていることを合わせ考えると、原告の本件事故傷病は、本件事故によって頭部をリンクに打ち付けたことにより脳に損傷を受け、そのために外傷性てんかんに罹患したものと認めるのが相当である。そうだとすれば、本件事故と本件傷病との間には相当因果関係があることになり、原告の本件傷病は公務上の災害ということになる。
○適用法規・条文
○収録文献(出典) 労働判例603号18頁 - 適用法規・条文
- 地方公務員災害補償法51条2項
- 収録文献(出典)
- 労働判例603号18頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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