判例データベース
産業医面談自律神経失調症悪化事件(パワハラ)
- 事件の分類
- うつ病・自殺
- 事件名
- 産業医面談自律神経失調症悪化事件(パワハラ)
- 事件番号
- 大阪地裁 - 平成22年(ワ)第9240号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2011年10月25日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 原告は、昭和62年から財団法人(勤務先)に勤務している者であり、被告は勤務先の産業医を務めている医師である。原告は平成9年6月に自律神経失調症と診断され、これが悪化して平成20年6月30日から休職し、通院・自宅療養していた。勤務先の上司であるC係長は原告に対し産業医による面談を打診し、原告はこれに応じることとし、平成20年11月26日に、C係長立会いの下に被告と面談した。
被告は、原告を見た印象で、もう一歩で職場復帰できると感じていたため、前向きな生活をするよう励ませば良いと考えて、「それは病気やない、それは甘えなんや」、「薬を飲まずに頑張れ」、「こんな状態が続いとったら生きとってもおもろないやろ」などと言った・また原告が、いつ急に不安になるか自分でも予測がつかず、妻や知合いと話をしても不安になることがあると言うのに対し、被告はC係長に事実確認しなければならない旨告げた。原告は面談途中から、嗚咽が漏れないようにハンカチを噛み、下を向いて体を震わせながら涙を流していた。原告は同年12月5日、従来は改善傾向にあったが、本件面談後、明らかに症状が悪化しているとして、平成21年1月31日まで自宅療養が必要との診断を受け、復職は同年4月27日となった。
原告は、本件面談における被告の言動は、自律神経失調症に罹患している原告に対する言動として明らかに不適切であり、産業医としての注意義務にも反し、本件面談により一時は自殺まで考え、復職もずれ込んだとして、被告に対し、休業損害30万円及び慰謝料500万円を請求した。 - 主文
- 1 被告は、原告に対し、60万円及びこれに対する平成20年11月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを9分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は。第1項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 被告は、原告が自律神経失調症で休職中であるという情報を与えられた上で面接に臨んでいたにもかかわらず、原告に対し、薬に頼らず頑張るよう力を込めて励ましたり、原告の現在の生活を直接的な表現で否定的に評価し、その克服に向けた努力を求めたりしていたことが認められる。
ところで、被告は、産業医として勤務している勤務先から、自律神経失調症により休職中の職員との面談を依頼されたのであるから、面談に際し、主治医と同等の注意義務までは負わないものの、産業医として合理的に期待される一般的知見を踏まえて、面談相手である原告の病状の概略を把握し、面談においてその病状を悪化させるような言動を差し控えるべき注意義務を負っていたものといえる。そして産業医は、大局的な見地から労働衛生管理を行う統括管理に尽きるものではなく、メンタルヘルスケア、職場復帰の支援、健康相談などを通じて、個別の労働者の健康管理を行うことも職務としており、産業医にはメンタルヘルスにつき一通りの医学的知識を有することが合理的に期待されるものというべきである。
してみると、確かに自律神経失調症という診断名自体、交感神経と副交感神経のバランスが崩れたことによる心身の不調を総称するものであって、特定の疾患を指すものではないが、一般に、うつ病やストレスによる適応障害などとの関連性は容易に想起できるのであるから、自律神経失調症の患者に面談する産業医としては、安易な激励や、圧迫的な言動、患者を突き放して自助努力を促すような言動により、患者の病状が悪化する危険性が高いことを知り、そのような言動を避けることが合理的に期待されるものと認められる。してみると、原告との面談における被告の言動は、被告があらかじめ原告の病状について詳細な情報を与えられていなかったことを考慮してもなお、上記の注意義務に反するということができる。
原告は、被告との面談直前には状態が安定し、平成21年1月からの復職を目指して面談を行うほどであったところ、本件面談により病状が悪化し、自宅療養期間が延び、実際の復職時期が平成21年4月27日までずれ込んだことが認められ、原告の病状の悪化は、本件面談における被告の言動により生じたものと認めることができる。
原告の復職が遅れたことによる減収は30万円を下らないと認められ、慰謝料は30万円が相当である。 - 適用法規・条文
- 民法709条
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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