判例データベース
全日本会員組合解雇・配転・自宅待機事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- 全日本会員組合解雇・配転・自宅待機事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成22年(ワ)第25155号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 全日本会員組合
個人2名 B、C - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2011年08月31日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部脚下・一部棄却
- 事件の概要
- 被告組合は、海運、水産、港湾業務等に従事する船員及び水際労働者等で組織する労働組合であり、原告は昭和55年1月、被告組合に執行部員として採用され、平成10年から平成16年にかけて中央執行委員を務めた者、被告Bは組合長、同Cは副組合長を務める者である。
原告は、平成16年11月の役員選挙で、被告Cと副組合長の座を争って落選し、平成17年2月22日、被告組合の在籍出向命令により、期間を2年間として関連財団法人に常勤幹事として派遣され、平成19年2月、更に2年間の出向期間延長を命じられた上、平成20年3月12日、被告組合より同年4月15日付けで解雇する旨の意思表示を受けた。そこで原告は、被告組合に対し、被告組合の従業員及び組合員の地位を主張して労働審判を提起しところ、原告の被告組合に対する雇用契約上の地位を確認し、被告組合に原告への給与等の支払を命じる旨の審判が出された。被告組合はこれに異議を申し立てたが、最高裁まで争った結果、平成22年3月16日、原告の地位を認める判決が確定した。
原告は、同判決確定の2日後、被告組合に対し、確定判決に沿った処遇を求めたところ、被告組合は原告に対し、発令年月日を同月16日、「総務部付先任事務職員」として、かつ自宅待機を命ずる旨を通知した(配転命令を「第1回配転命令」、自宅待機命令を「第1回自宅待機命令」、合わせて「第1回人事決定」という)。原告は、同年7月5日、被告組合に対し、原告が被告組合の執行部員たる地位を有すること、第1回自宅待機命令が無効であることの確認、役職手当の支払を請求した。これに対し被告組合は、同月16日、定例中央執行委員会を開催し、同年8月1日付けで原告を執行部員にするとともに、同日付けで改めて自宅待機命ずる旨の人事決定(この配転命令を「第2回配転命令」、自宅待機命令を「第2回自宅待機命令」、合わせて「第2回人事決定」という)をし、原告に通知した。
原告は、被告組合に対し、平成23年2月14日の第4回弁論準備手続期日において、第2回自宅待機命令が無効であることの確認を求める請求を選択的に追加し、かつ、被告B及び同Cに対し、不法行為に基づく損害賠償として、連帯して2700万円を支払う請求を予備的に追加した。そして、原告は、第2回配転命令によって執行部員たる地位を回復したこと等を受けて、第1回自宅待機命令の無効の確認及び執行部員たる地位の確認を求める部分をいずれも取り下げた。 - 主文
- 1 本件訴えのうち、被告全日本会員組合が原告に対して発令した平成22年8月1日付け自宅待機命令の無効の確認を求める部分を却下する。
2 被告全日本会員組合は、原告に対し、26万7600円及びうち6万6900円に対する平成22年3月26日から、うち6万6900円に対する同年4月26日から、うち6万6900円に対する同年5月26日から、うち6万6900円に対する同年6月26日から、それぞれ支払済みに至るまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
3 被告全日本会員組合は、原告に対し、平成22年7月25日から本判決確定の日まで、毎月25日限り6万6900円の割合による金員及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
4 被告B及び同Cは、原告に対し、連帯して、220万円及びうち110万円に対する平成22年3月18日から支払済みまで、うち110万円に対する同年8月1日から支払済みまで、それぞれ年5パーセントの割合による金員を支払え。
5 原告のその余の請求を棄却する。
6 訴訟費用は、これを6分し、その5を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
7 この判決は、第2項ないし第4項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 第2回自宅待機命令の無効確認にかかる訴えの適否
自宅待機命令とは、使用者が、労働契約上の一般的な労務指揮権に基づき、労働者の具体的な就労義務を免除してその労務の受領を拒絶するものであって、通常は、労働契約の形成、変更等を伴わない単なる業務命令の一種と解される。したがって、自宅待機命令は、労働者に就労請求権が認められるような例外的な場合を除き、昇給等において差別されるなどの特段の事情がない限り、労働者に法的不利益を与えるものとはいえない。
本件においては、第2自宅待機命令の発令から既に1年以上が経過し、原告に事実上多大な不利益が生じていることが推認されるものの、他方で、原告に就労請求権あるとまでは認められず、自宅待機命令に起因する経済的不利益も認められない。したがって、第2回自宅待機命令によって法的な不利益が生じているものとはいえないから、第2回自宅待機命令の無効確認を求める訴えは、過去の単なる事実の確認を求めるもので不不適法というほかない。
2 役職手当請求権の有無
原告は、本件解雇当時、被告組合の従業員規定に基づく人事として、部長待遇扱いとされていたことが認められる。したがって、原告への役職手当の支給は、人事上、職制上の根拠を有するものであり、被告が主張するような事実上の恩恵的措置とみる余地はない。そして、原告は前訴判決確定により当然に上記待遇に復帰したものであり、減給を伴う降格処分の手続きが適法になされたような事情も認められないから、原告は被告組合に対し、前訴判決確定後の役職手当を請求できる。
3 第1回人事決定は継続的不法行為といえるか
原告は、第1回人事決定に基づく違法状態が同決定以後絶えることなく継続しており、これにより原告の損害も日々生じているから、これを継続的不法行為と評価すべきであるとするが、人事決定自体は1回的な行為と解するのが自然であること、第1回人事決定の後に第2回人事決定という別個の決定がなされ、現在は後者のみが効力を有していること等に鑑みれば、第1回人事決定により生じた状態が継続しているとしても、これを継続的不法行為と把握すべきとはいえない。
4 第1回配転命令並びに第1回及び第2回自宅待機命令は不法行為に該当するか
組合従業員規定には、執行部員から先任事務職員への配転を命ずる根拠規定はなく、原告と被告組合との間で、執行部員から先任事務員への配転につき合意した事実も認められないから、第1回配転命令は、その根拠を欠き違法というべきである。
自宅待機命令は、一般的な労務指揮権に基づくものであるが、使用者はこれを無制限に命ずることができるわけではなく、労働関係上要請される信義則に照らして合理的な制約に服すると解すべきである。したがって、業務上の必要性を欠く場合、またはその必要性と労働者の被る事実上の不利益を比較して、後者が特段に大きい場合などは、業務命令権の濫用として、自宅待機命令は違法になると解される。
紛争の経緯、特に、1)第1回人事決定が、確定判決によって復職した原告の地位を直ちに変更するものであり、原告の原職復帰を阻む強い意思が窺われること、2)本件提訴と機を一にしてなされた第2回人事決定では、原告を執行部員に戻しながら、自宅待機命令は継続されていること、3)被告組合において、原告を執行部員として職務に復職させ、就労させるための努力を払ったとは認められないこと等の事情に鑑みれば、第1回及び第2回自宅待機命令には、いずれも業務上の必要性や合理性が認められない。そして、4)原告の自宅待機が既に約1年半にわたっており、原告は、必要性や合理性が認められない命令により、多大な事実上の不利益を被っていることを併せ考えれば、第1回及び第2回自宅待機命令は、いずれも業務命令権の濫用であり、不法行為に当たるというべきである。
5 原告に生じた損害
原告は、2年にわたる法廷闘争の結果、本件解雇が無効であるとの確定判決を得て原職に復帰するはずであったところ、第1回配転命令並びに第1回及び第2回自宅待機命令という故意による不法行為により、執行部員として活動する機会を奪われたものである。前訴の確定判決を実質的に潜脱する司法軽視の態度も甚だしい人事命令によって原告に生じている精神的苦痛は決して小さくないこと、損害は継続的に生じていること等の事情に鑑みれば、原告に生じた精神的損害の額を、第1回人事決定につき100万円、第2回自宅待機命令につき100万円と認めるのが相当である。そして、各10万円についても、弁護士費用として、相当因果関係にある損害というべきである。
6 被告B及び同Cの責任の有無
1)被告B及び同Cを含む被告組合の執行部は、第1回人事決定当時、既に前訴の確定判決の存在及び内容を十分に知っていたこと、2)それにもかかわらず、被告B及び同Cを含む被告組合の執行部において、前訴の確定判決を無に帰しめるような配転及び自宅待機を決定していること、3)被告B及び同Cは、前訴で提出された陳述書において、いずれも原告の行動を私利私欲のために組織混乱を図るものと断じているほか、被告Cは被告組合の定期大会においても、原告を組織から排除する必要性を訴えていることが認められる。そして、被告Bは組合長として、組合組織全体の業務執行を指揮し監督するなどの権限を有していた上、被告組合の中央執行委員会の議長であり、招集権者でもあること、被告Cは、同じく副組合長として、被告組合の中央執行委員会の構成員であり、組合長を常時補佐する立場にあること、中央執行委員会は構成員の3分の2以上が出席しない限り成立しないが、出席者には組合長又は副組合長が含まれる必要があることなどに鑑みれば、被告B及び同Cは、特段の事情がない限り、中央執行委員会において主導的な役割を果たしていると推認され、原告に対する第1回配転命令並びに第1回及び第2回自宅待機命令を決定する際も、特段の事情がない限り、被告B及び同Cが主導的な役割を担ったものと認めるのが相当である。よって、被告B及び同Cは、第1回配転命令並びに第1回及び第2回自宅待機命令によって原告に生じた損害につき、連帯して、不法行為に基づく損害賠償責任を負うというべきである。 - 適用法規・条文
- 民法709条、719条
労働経済判例速報2124号20頁 - 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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