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兵庫(溶接工)労働者派遣事件(派遣)
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- 兵庫(溶接工)労働者派遣事件(派遣)
- 事件番号
- 神戸地裁姫路支部 - 平成21年(ワ)第21号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 鉄工所 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2010年12月08日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 被告は船舶等の製造・販売、修理及び救難解体等を業とする株式会社、T鉄工は、金属プレス加工及び板金プレス加工、労働者派遣事業等を業とする株式会社である。被告は、平成12年頃、T鉄工との間で、同社を請負人とする業務請負契約を締結し、原告は同業務請負契約締結後である平成12年5月22日、T鉄工との間で雇用契約を締結し、翌23日から被告製作所にて就労を開始した者である。
原告の従事していた具体的業務内容は、溶接の準備作業であり、一旦作業内容を覚えてしまえば、具体的な作業方法について単独で行うことが可能な業務であった。また、原告の作業部署では、一般的な訓辞や各種事務連絡がされたが、被告作業員から作業に関する指示がされることはなく、更にT鉄工の従業員の労働時間管理は同社がしており、被告はしていなかった。
被告は、需要の急増を受け、増産に対応するため製品の生産体制を再構築する必要が生じたことから、生産工程を統合して見直しをすることとし、業務請負体制を止め、平成18年3月16日、T鉄工との間で労働者派遣に関する基本契約を締結し、同年4月1日から労働者派遣を開始することを個別契約によって定めた。そして、被告は、T鉄工との契約関係を業務請負から労働者派遣に切り替えたことに伴い、同年4月以降は工具類につき派遣労働者に自ら支給することとした。平成21年4月1日、被告は、原告が作業しているエリアは指揮命令が必要でないと判断し、被告・T鉄工間の契約関係を再度業務請負に切り替えた。
これに対し原告は、被告・T鉄工間の契約関係は、いわゆる偽装請負であり、原告が就労した当時は原告が従事した「物の製造」について労働者派遣は認められていなかったから、被告・T鉄工間の法律関係は労働者派遣契約ではなく脱法的な労働者供給契約と解されるところ、これは法律に違反し、公序良俗違反により無効であるとして、原告・被告間には期間の定めのない黙示の労働契約が成立しているとして、被告との間の労働契約上の地位の確認を請求した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 請負契約においては、請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが、請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人に委ねられている。よって、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとい請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。そして、上記の場合において、注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば、上記3者間の関係は、労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。そして、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないというべきである。そして、労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等に鑑みれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情がない限り、そのことだけによって派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである。
本件では、原告はT鉄工の採用面接の際、被告製作所の作業長B及び係長Cからグラインダーの使用の可否等の質問を受けたものの、被告の採用担当である総務部長や工作部長の臨席はなく、その他被告従業員がT鉄工による原告採用に関与したことを認めるに足りる証拠はないこと、原告が被告製作所にて作業を開始するに当たり、当該配置は被告・T鉄工所間の業務請負契約に基づきT鉄工が決定したものであり、被告はこれに関与していないこと、平成18年4月1日付けで被告・T鉄工間の契約関係が労働者派遣に切り替わるまで、被告従業員が行う作業と請負会社の従業員が行う作業とは中核的なものかそれ以外かという基準で棲み分けされており、原告の従事する業務も、一度作業を覚えてしまえば具体的な作業方法につきその都度の指示を受けることなく単独で行うことが可能なものであり、朝礼等の機会も含め、そこに被告従業員からT鉄工従業員に対する指揮監督関係は見られないこと、原告の賃金はT鉄工が独自に決定して自ら支給しており、それに被告は関与していないこと等が認められる。これらの事情からすれば、原告の労働環境の実態は、T鉄工に採用され、T鉄工の指示に基づいて労務を提供し、T鉄工からその対価を受けているものというべきであり、また、被告・T鉄工間の契約関係が労働者派遣、再度の業務請負と切り替わった後においても、上記実態に変化が生じたことを認めるに足りる事情は何ら見当たらないから、原告・T鉄工間の雇用契約を無効ということはできない。
原告は、被告製作所にて就労を始めた当初から、原告・被告間には期間の定めのない黙示の労働契約が成立していると主張する。しかし、T鉄工は被告のグループ会社ではなく、資本関係や人的関係はないこと、T鉄工の役員は被告従業員の出向もされていないことが認められることからすれば、T鉄工が被告の第二人事部的存在であるとか、被告から独立した存在でないと評価することはできない。次に原告は、被告の従業員と渾然一体となり被告従業員の指揮命令を受けて労務に従事し、出退勤の管理も被告が行っていたと主張するが、いずれも事実に反する。更に原告は、被告・T鉄工間の契約代金は実質上被告が決定しており、原告の賃金等として定められていると主張する。しかし、被告・T鉄工間の契約代金は、両者間の交渉によって決められているし、仮に上記契約代金を実質上被告が決定しているとしても、それは単に請負企業であるT鉄工の地位の相対的な脆弱性を示すものにすぎず、原告の賃金額の決定方法とは直結しない議論であるといわねばならない。
以上のとおりであるから、原告が被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを認めることはできない。 - 適用法規・条文
- 労働者派遣法2条、職業安定法4条6項、44条、労働基準法6条、民法90条
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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