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R社解雇・時間外労働手当不払等事件(パワハラ)
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- R社解雇・時間外労働手当不払等事件(パワハラ)
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成20年(ワ)第24461号
- 当事者
- 原告 個人2名A、B
被告 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2010年10月27日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は不動産業を営む法人であり、原告Aは平成18年2月1日、原告Bは平成17年8月29日に、それぞれ被告に採用された者であり、本件解雇が行われた当時、原告Aは営業本部長の地位にあった。
原告Aは、宅地建物取引主任者の資格を活用して不動産の仲介、販売等の業務をし、部下に原告Bがいたが、同人は平成18年6月に退職し、その後平成19年8月頃、C及びDが入社して部下となった。原告Aは営業本部長であったが、他の従業員より重いノルマが課されていた。また、原告Aは出退勤に当たりタイムカードに打刻しており、役付手当が月15万円支給されていたが、平成19年8月の給与は、期待通りの実績を上げられなかったとして、10万円が減給された。更に被告は、平成19年12月20日、原告Aに対し、整理解雇である旨告げて解雇の意思表示を行った(本件解雇)ところ、原告Aは、平成20年3月4日、被告に対し解雇理由を書面で回答するよう求め、同月24日、被告に対し、管理官監督者であるとして支払われなかった時間外労働及び休日労働に係る未払賃金575万1665円の支払いを求めるとともに、本件解雇は解雇権の濫用により無効であるとして、不当解雇によって失った1年分の給与相当額1170万3506円及び不法行為による慰謝料500万円の支払及び労働基準法114条に基づく付加金を請求した。一方被告は、原告が退職前の平成20年3月6日、不動産の売買・仲介等を目的とする株式会社を設立したこと(本件問題行為)は、競業避止義務に違反するとして、同年5月20日、これによる損害賠償500万円を原告Aに請求する訴訟を提起した。
一方原告Bは、外で営業活動を行っていたが、出社してから営業活動を行うのが通常であり、出退勤においてタイムカードを打刻していた外、訪問先や帰社予定時刻等を被告に逐一報告し、営業活動中もその状況を携帯電話等によって報告していた。原告Bはみなし労働時間を適用され、時間外割増賃金の支払いを受けていなかったところ、営業活動は出社した後に行い、営業活動中も携帯電話等で上司と連絡を取り、出退社に当たりタイムカードを打刻するなどしていることから、みなし制度の適用はないとして、未払となった割増賃金75万4618円及び労働基準法114条に基づく付加金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 被告は、原告Aに対し、392万9818円及び別紙1「未払賃金一覧(原告A)」の各「未払賃金額」欄記載の金額に対する各「支払日」欄記載の日の翌日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
2 被告は、原告Aに対し、80万円及びこれに対する平成20年12月21日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
3 被告は、原告Aに対し、270万8547円及びこれに対する本判決確定日の翌日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
4 被告は、原告Bに対し、75万4618円及び別紙2「未払賃金一覧(原告B)」の各「未払賃金額」欄記載の金額に対する「支払日」欄記載の日の翌日から平成18年7月25日までは年6パーセントの割合による、同月26日から支払済みまでは年14.6パーセントの割合による各金員を支払え。
5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、原告Aに生じた費用の10分の7と被告に生じた費用の10分の7を原告Aの負担とし、原告Bに生じた費用の2分の1を原告Bの負担とし、原告ら及び被告に生じたその余の費用を被告の負担とする。
7 この判決は、第1項ないし第4項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 原告Aの管理監督者(労働基準法41条2号)該当性について
労働基準法41条2号の「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)には、労働時間、休憩、休日に関する労働基準法の規定を適用しない旨定めているところ、その趣旨は、同法の定める労働時間規制を超えて活動することが、その重要な職務と責任から求められる者であり、かつその職務内容(権限・責任)や現実の勤務態様等に照らし、労働時間規制を除外しても、同法1条の基本理念や同法37条の趣旨に反するような事態が避けられるということにあり、行政通達が、管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、経営者と一体的な立場にあるものをいい、その名称にとらわれず、実態に即して判断すべきであるなどとしているのも、前記趣旨に沿ったものと解される。そして、同通達の内容も踏まえると、管理監督者に該当するかどうかについては、(1)その職務内容、権限及び責任が、どのように企業の事業経営に関与するものであるのか、(2)企業の労務管理にどのように関与しているのか、(3)その勤務態様が労働時間等に対する規制に馴染まないものであるか、(4)管理職手当等の特別手当が支給されており、管理監督者に相応しい待遇がされているかといった視点から、個別具体的な検討を行い、これら事情を総合考慮して判断するのが相当である。
原告Aは、主として不動産の営業、仲介、販売等の業務を担当していたこと、宅地建物取引主任者の資格を活用して不動産の仲介、販売等の業務を行っていたこと、平成18年6月に部下の原告Bが退職し、平成19年8月頃C及びDが入社し販売営業部に配属されるまでは明確に部下として位置付けられた社員はいなかったことが認められる。更に、被告の営業目標を記載した「レイズ第7期目標」として、原告Aには他の従業員より重い営業ノルマや罰則が課されるなどしていること、専務も原告Aが一般の従業員と同じ業務をしていた旨証言していることなどを併せ考えると、原告Aは、被告において「営業本部長」という肩書きは有しているものの、その業務内容は基本的に営業活動であり、他の一般社員と異なるところはなかったものと解され、経営者と一体的な立場にあると評価することは困難といわざるを得ない。
原告Aの部下に相当する従業員は、原告B、C及びDであったことを併せ考えると、結局、被告における労務管理が明確な形で構築され、その責任者として原告Aが位置付けられていたとは考え難く、少なくとも原告Aが部下の査定に実質的に関与していたと認めることはできない。原告Aは、原則として午前9時算後には出勤してタイムカードに打刻し、退社する際にもタイムカードに打刻していたこと、被告は週休2日制であるにもかかわらず、原告Aは週2日の休日を取得することは余りなかったことが認められ、同事実からは、原告Aは勤務時間について自由裁量はなかったものと強く推認される。
被告は原告Aに対し、基本給の外に役付手当15万円を支給しており、その支給額は役員以外の従業員において最も高い水準に位置していたと認められる。しかしながら、平成18年4月以降。原告Aの基本給は23万円であり、他の従業員と比較してもそれ程多いわけではない。被告は、原告Aに支給されている報奨金等の多寡も問題にしているが、報奨金は、基本的には従業員の立場等とは関係なく、契約を成立させた事実に対して支給されるものであり、その多寡が直ちに管理監督者性を基礎付けるものとは解し難い。更に営業本部長(原告A)は他の従業員より重い営業ノルマと罰則を課されていたものと解され、結局、役付手当15万円が支給されるなど、水準は高かったと認められるものの、このこと自体から原告Aの管理監督者該当性を認めることはできない。
前記検討を総合考慮すると、原告Aについては、その業務内容等に照らし、労働基準法の定める労働時間規制を超えて活動することが、その重要な職務と責任から求められる者であるとは解し難いといわざるを得ない。そうである以上、原告Aについては、労働基準法に基づく労働時間、休憩、休日に関する規制が及ぶというべきである。
2 原告Aに対する本件減給の可否、相当性について
被告は、本件減給を行った理由について、原告Aが期待通りの実績を上げなかったからなどと主張するが、その内容は抽象的で、本件減給は原告Aの事前の同意を得ることなくされたものと認められる。そして被告の就業規則は、制裁としての減給について、始末書を提出させ、賃金の1割を超えることはない旨定めているところ、本件減給において始末書が作成されたことは窺われず、本件減給(10万円)が原告Aの賃金の1割を超え、上記定めに反するものであったことも明らかである。以上によれば、本件減給は、原告Aの同意を得ずに行われたものであり、その理由は明らかではなく、制裁としても被告の就業規則に明確に反するものであって、許されないものといわざるを得ない。
3 原告Aに対する本件解雇の有効性等について
被告は、懲戒解雇(本件解雇)の具体的根拠として、(1)原告Aが本件問題行為を行ったこと、(2)営業部における業績不振を挙げているところ、具体的理由を明らかにしないまま普通解雇(整理解雇)の意思表示をし、その後になって当該解雇が実は懲戒解雇であったなどと主張することは、解雇手続きとしての適正を著しく欠くものといわざるを得ない。そして、被告における制裁としては、懲戒解雇以外もあるものの、他の選択肢を検討したことも窺われないことをも踏まえると、本件解雇は懲戒解雇として効力を有しない。また、(2)(営業部の成績不振)については、本件事案においてこれを理由として直ちに懲戒解雇を行うことは相当ではない。なお、被告は本件訴訟において、本件解雇が実は懲戒解雇であった旨主張するが、解雇の意思表示等においては、本件解雇が整理解雇である旨説明しており、整理解雇としての有効性も一応問題となり得る。しかしながら、被告から整理解雇の相当性を基礎付け得る主張ないし立証は何らなされておらず、かえって、被告が、本件解雇の約3ヶ月前に40代の男性2名を採用しており、本件解雇の約2週間前に自社ビルを購入していることが認められること、被告は解雇予告手当も支払っていないのであり、本件解雇が普通解雇としても無効であることは明らかである。
解雇の意思表示が効力を有さない場合であっても、そのことから直ちに当該解雇が不法行為を構成するわけではなく、解雇がされた経緯、解雇が無効であることを基礎付ける事実等を踏まえて不法行為責任が生じるかどうかを個別具体的に検討すべきところ、本件において、被告は整理解雇を解雇理由として本件解雇を行いながら、その具体的根拠は何ら明らかにしていない上、本件訴訟に至って初めて本件解雇が懲戒解雇であったなどと主張しているのであって、このような事実経緯に鑑みれば、本件解雇は社会通念上許容されるものではなく、それ自体で不法行為を構成するというべきである。
原告Aは、本件解雇の約2ヶ月半後、株式会社を設立しており、この時点で被告における就労意思を有していないことは明らかである。また、原告Aは、解雇後しばらくの間は本件解雇を積極的に争う姿勢を明確にせず、株式会社を設立する直前になって、本件解雇の具体的説明を求める書面を送付するなどし、その後本件訴訟に至っていること等の事情をも総合考慮すると、本件解雇による損害額については、80万円(給与1ヶ月分50万円と慰謝料相当額30万円の合計額)と算定評価するのが相当である。
4 原告Bの業務に対する事業場外みなし制度の適用の有無
本件みなし制度は、事業場外における労働について、使用者による直接的な指揮監督が及ばず、労働時間の把握が困難であり、労働時間の算定に支障が生じる場合があることから、便宜的な労働時間の算定方法を許容したものと解される。そして、使用者は、本来労働時間を把握・算定すべき義務を負っているのであるから、本件みなし制度が適用されるためには、例えば使用者が通常合理的に期待できる方法を尽くすこともせずに、労働時間を把握・算定できないと認識するだけでは足りず、具体的事情において、社会通念上、労働時間を算定し難い場合であるといえることを要するというべきである。また、労働基準法は、事業場外労働の性質に鑑みて、本件みなし制度によって、使用者が労働時間を把握・算定する義務を一部免除したものに過ぎないのであるから、本件みなし制度の適用結果(みなし労働時間)が、現実の労働時間と大きく乖離しないことを想定しているものと解される。したがって、例えば、ある業務の遂行に通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合であるにもかかわらず、労働基準法38条の2第1項本文の「通常所定労働時間」働いたとみなされるなどと主張して、時間外労働を問題にしないということは、本末転倒というべきである。
原告Bが従事した自社物件(戸建、マンション)の仕入れ業務の一部又は全部が事業場外労働であったことは認められるものの、原告Bは原則として出社してから営業活動を行うのが通常であって、出退勤においてタイムカードを打刻しており、営業活動についても訪問先や帰社予定時刻等を被告に報告し、営業活動中もその状況を携帯電話等によって報告していたという事情に鑑みると、原告Bの業務について、社会通念上、労働時間を算定し難い場合であるとは認められない。また原告Bは、営業活動を終えて帰社した後においても、残務整理やチラシ作成等の業務を行うなどしており、タイムカードによって把握される始業時間・終業時間による限り、所定労働時間(8時間)を超えて勤務することが恒常的であったと認められるところ、このような事実関係において、本件みなし制度を適用し、所定労働時間以上の労働実態を当然に賃金算定の対象としないことは、本件みなし制度の趣旨にも反するというべきである。以上によれば、原告Bの業務については、本件みなし制度は適用されないというべきである。
5 原告らに対する未払賃金の有無・額について
原告Aは管理監督者に該当せず、原告Bの業務に本件みなし制度は適用されないから、被告は原告らの時間外労働及び休日労働に対する賃金を支払うべきところ、原告らの始業時間及び終業時間はタイムカードに記載された各時刻であると認められる。更に、時間外労働時間は、特段の事情がない限り、始業時間・終業時間及び休憩時間から算定すべきところ、原告らは本件訴訟において、被告の終業時間である午後6時30分以降の勤務時間のみを時間外労働の対象として取り上げていることから、結局、原告らの各対象期間における時間外労働時間は、原告らが請求対象としている時間外労働時間を優に上回っているものと認められる。
この点、被告は原告らに対し、時間外労働や休日労働を命じていない旨主張するが、原告らが出社時及び退社時にタイムカードを打刻していたことは明らかであり、そうである以上、被告が原告らの勤務実態を把握していたこともまた明らかというべきである。そして、被告は、使用者として、仮に原告らが業務指示に反する形で勤務していたならば、その旨注意ないし指摘すべきであるが、そのような事情は窺われないこと、原告らの時間外労働及び休日労働は恒常的なものであったと解されることをも併せ考えると、原告らは、少なくとも被告の黙示の指示に基づいて時間外労働及び休日労働に従事していたものと認められる。原告らが被告において行った時間外労働及び休日労働は、原告らが本件訴訟において主張しているものを上回っており、かつ割増賃金の算定基礎とすべき時間単価も、原告ら主張の時間単価を上回っているのであるから、原告らが本件訴訟において請求している未払賃金(時間外労働及び休日労働)については、いずれも認めることができる。
6 被告に対する付加金の請求について
原告らは、被告に対し、付加金等の請求をしているところ、労働基準法114条は、使用者が同条の掲げる規定に違反した場合において、使用者がこれらの規定により支払うべき金額と同額の付加金の支払いを裁判所が命じることができる旨を定めている。そうすると、原告Aが付加金として請求しているもののうち、本件減給に関する部分については、付加金の対象とすることはできない。また、労働基準法114条但書は、使用者の違反があったときから2年以内に行使しなければならない旨を定めており、これは除斥期間と解すべきであって、平成20年9月1日より2年以上前に支払われるべき割増賃金に関する部分については、除斥期間を経過している。
以上によれば、原告らによる付加金の請求については、原告Aが被告に対して請求している未払賃金等のうち、平成18年9月25日支払分以降のもの(270万8547円)について、これと同額の付加金及びこれに対する判決確定日の翌日から支払済みまで民事法定利率年5パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求める部分に限って、これを認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 民法415条、709条、715条1項
- 収録文献(出典)
- 労働判例1021号39頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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