判例データベース
N社従業員雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- N社従業員雇止事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成22年(ワ)第9925号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2011年09月29日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告は、平成13年4月からA社との間で期間3ヶ月の労働契約を更新し、平成14年5月、A社の分割により同社の業務を引き継いだB社に原告との労働契約も引き継がれ、以降、期間3ヶ月の労働契約を17回更新した。平成18年7月、B社がC社に吸収合併され、それに伴い原告の労働契約もC社に承継され、同年9月以降、原告はC社との間で期間3ヶ月の労働契約を締結し、以降10回更新された。その間、平成19年12月28日時点でC社と原告は労働者派遣契約を締結し、平成20年1月からD社の100%出資子会社で、労働者派遣事業の他、インターネット検定の運営等の事業を行う被告の元で勤務をしていたところ、平成21年1月、C社から同年3月31日をもって派遣契約を終了する旨の告知を受けた。
原告は、募集に応じて被告との間で、同年4月1日から契約期間6ヶ月の労働契約を締結し、この契約は平成22年3月31日まで更新された。なお、被告入社後の原告の就労場所はC社勤務当時と変更がなく、平成21年10月以降の原告の賃金額は、インセンティブ給などを合算すると、多い月で約142万円、少ない月で約63万円であった。
平成21年4月以降、原告はデータ入力の遅れや行動計画表の未提出があり、また報告通り取引先を訪れていないこと、これに伴って旅費の不正受領が生じていることなどを挙げて、被告は平成22年2月26日、原告に対し、同年3月31日の契約期間満了後契約を更新しない旨通告した。
これに対し原告は、NTTグループでのトータルの雇用期間は長期間に及んでおり、実質的に期間の定めのない雇用と評価できるし、仮にそこまでいえないとしても契約更新に対する合理的な期待を有していたから本件雇止めは解雇の濫用法理が類推適用されるところ、データ入力の遅れは多忙によるものであること、個人行動計画表を2週連続して提出しなかったことがあったが、指導を受けた後は改善していること、虚偽報告、旅費の不正受給はなかったことを主張し、被告に対し、本件雇止めの無効による従業員としての地位の確認と賃金の支払いを求めた。 - 主文
- 1 原告は被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告に対し、167万9757円及びこれに対する平成22年6月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告に対し、平成22年7月1日から本判決確定の日まで毎月20日限り、月額55万9919円の割合による金員及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は5分し、その1を原告の、その余を被告の各負担とする。
6 この判決は、2項及び3項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件雇止めに解雇権濫用法理が適用されるか
原告は、被告に勤務する以前のA社、B社、C社での勤務状況も踏まえて被告における労働契約は期限の定めのないものに転化したか、少なくとも本件雇止め当時、契約更新に対する合理的期待を有していたとして、本件雇止めに当たっては解雇権の濫用法理が類推適用される旨主張する。確かに、A社、B社、C社及び被告はいずれもNTTグループの会社で、被告とそれ以前の原告の勤務状況も場所、業務内容に多少の相違はあるが、基本的にはコミュニケーションズの商品であるフリーダイヤルやナビダイヤルの営業であった。しかし、原告は被告に入社する際、被告によって定められた手続きに従って応募し、2回に亘る採用面接を経た上で被告との間で労働契約を締結し、しかも同契約に当たっては、新たに労働契約書を取り交わし、その後、原告を含めて平成21年4月1日付けで被告に入社した者に対する被告の入社式に出席し、研修棟を受講している。以上の事実を踏まえると、原告と被告との労働契約は、被告以前の労働契約の延長ということはできず、かえって、被告との間で新たな労働契約が締結されたことが推認される。
被告は、原告との間で本件労働契約を締結した後、1回労働契約を更新し、同更新時、事前に原告に対し更新意思の確認をしている上、更新後の雇用契約書も取り交わしている。しかし、原告が従事していた業務内容は恒常的な業務であって、被告自身も同労働契約が更新されるとの認識を持っていたこと、同更新時取り交わした契約書のうち、原告保持分については作成日付も抜け、原告の記名捺印もなく厳格になされたことが窺えないことがある。以上の事実を踏まえると、原告は、本件雇止め当時、同労働契約が更新されるとの合理的期待を有していたことが推認される。そうすると、原告に対する本件雇止めには解雇権濫用法理が類推適用されるとするのが相当である。
2 本件雇止めは無効か
被告は、本件雇止めについて解雇権濫用法理が類推適用されるとしても、同雇止めにはSFA(個々の営業マンに顧客の訪問先の日時、滞在時間、相手、コミュニケーション情況等を訪問後速やかにシステムに入力すること)の未投入、個人行動計画表の未提出、旅費の不正請求・受領、勤務成績が芳しくないことなどの事情からして合理性がある旨主張する。確かに原告には指導を受けていたのに3ヶ月半SFAの投入をしていない上、部長らから注意され、原告自身速やかに同未投入期間の情報を投入する旨約束したのに平成22年2月23日の時点でも平成21年10月分の投入ができていなかった。また、個人行動計画表も営業部内で唯一2週連続で提出せず、平成21年12月9日、10日、16日顧客を訪問していないのに訪問した旨虚偽報告をして旅費の不正請求、受領をしている。
しかし、原告の平成21年度営業個人成績は全国SA183人中92位であり、大阪第一営業部の中でも23人中10位と特段問題ある成績ではなく、原告は同年度第一四半期において「フリーダイヤル新規シルバー・フォローシルバー賞」の表彰を受けている。以上の事情を踏まえると、原告の職務の中心である営業活動それ自体については問題がなく、顧客のマネージャーからは、お願いしたことをちゃんとやっていただいているし、わかりやすく教えてもらっている旨一応の評価を受けている。また、旅費の不正受領額は2190円であり、SFAの未投入では部長等から指導等を受けているが、処分までは受けていない。
以上の事実を踏まえると、原告に対して一定の責任を問う余地は十分あるが、本件雇止めが正当化されるまでの事由があるか疑問といわざるを得ず、その後同雇止めを正当化させるに足る事由があると認めるに足る証拠はない。そうすると本件雇い止めは、濫用があり、無効といわざるを得ない。
3 原告の賃金額はいくらか
本件雇止めが無効とすると、原則として、期間を含めて同雇止めまでの労働条件で更新されたと解するのが相当である。原告は、労働契約の更新が認められて平成22年4月以降勤務を継続したとしても、同更新時の新たな契約によって上記改正されたインセンティブ給制度の適用を受けるため、同更新後受給できるインセンティブ給は同改正後のインセンティブ給制度の範囲内というべきである。
そこで、平成21年10月から平成22年3月までの賃金額を基礎にして、インセンティブ給を3分の1とすると、原告の平成22年4月以降の賃金額は月額55万9919円とするのが相当である。なお、同年4月1日から6月末日までの3ヶ月間の未払賃金額は167万9757円である。 - 適用法規・条文
- 民法709条、労働者派遣法4条、5条、35条の2、40条の2第2項、48条1項、49条の2第1項、職業安定法44条、労働契約法16条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1038号27頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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