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K社内々定取消事件

事件の分類
採用内定取消
事件名
K社内々定取消事件
事件番号
東京地裁 − 平成23年(ワ)第13189号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2011年11月16日
判決決定区分
棄却
事件の概要
原告は、平成22年7月23日、被告の採用二次面接を受け、人事部長から、「うちでやっていく覚悟が見えないから、覚悟を決めて来てくれ」と言われ、この申し出を受けて、第一志望で選考途中であったM社の選考を辞退した。そして、同月28日に行われた被告の最終面接において、人事部長は原告に対し、原告を内々定する旨伝えたが、同年8月2日、被告は原告に対し内々定取消の意思表示をした。

原告は、内々定取消しの意思表示の際、人事部長代理は笑いながら話したこと、原告が謝罪に行った際、被告の横浜支店長は、原告が「選考途中のM社をお断りしてきた」と告げたのに対し、「どうぞM社でもどこでも好きなところを受けてください」と述べたことから、精神的損害を受けたとして、被告に対し、慰謝料及び逸失利益として70万円を請求した。
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
平成22年7月28日に行われた面接において、仮に原告の主張のとおり、人事部長が「入社日を平成22年8月23日に決定しよう」との発言をした事実が認められたとしても、本件において原告は採用内定に至っていないのであるから、その後原告の採用が見送られる可能性があることは当然であって、他に特段の事情がない限り、被告が原告を不採用としたこと自体が違法の評価を受けることはないと言うべきである。

原告は、採用面接における人事部長の「覚悟を決めて来てくれ」との発言を論難するが、当該発言は、採用面接において、面接官が受験者の志望の強さや熱意を確かめる言葉として通常用いられる言葉であって、社会的に不相当なものとは考えられず、原告が他の志望先の選考を辞退したとの事実を加味して判断したとしても、上記特段の事情には該当しない。この点、原告は、人事部長の上記発言により採用内定が確実にされると期待するに至ったとして、債務不履行又は期待権侵害が成立する旨主張するが、採用面接時に好感触を得たからと言って、その後確実に採用内定に至るわけではないことは、むしろ常識に属する事項というべきであって、原告の当該主張は採用の限りではない。

また、原告は、不採用を告げた人事部長代理の発言態様や、謝罪に行った際の横浜支店長の発言によって精神的損害を受けたとも主張するが、仮に同人らが原告主張の発言等をしたとしても、社会通念上、格別、侮蔑的ないし攻撃的な表現であるとまでは認められないから、その発言等について原告に対する不法行為が成立するとは認め難いし、もとより上記特段の事情にも該当しないことは明らかである。

以上によれば、本件における内々定の取消し又は不採用の通知が、不法行為ないし債務不履行に該当すると認めることはできない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働経済判例速報2131号27頁
その他特記事項