判例データベース
会社社長等性交渉事件(パワハラ)
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 会社社長等性交渉事件(パワハラ)
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成22年(ワ)第8627号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 個人2名 X、Y
株式会社M - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2012年01月31日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告会社は、質屋業等を目的とする株式会社であり、被告X(昭和52年生・既婚者)は被告会社の代表取締役であって、平成19年10月頃から平成20年1月下旬までA店で稼働しており、被告Y(昭和54年生)は、平成19年10月頃からA店店長として稼働していた。一方原告(昭和59年生)は、大学4年の平成19年10月からアルバイトとして、平成20年1月中旬から正社員としてA店の従業員として稼働していた女性である。
原告は、平成19年10月17日からの内定者研修に参加し、飲み会の場で、皆に迷惑を掛けるなどと涙を流すなどした。その後被告Xが原告と面談を行ったところ、他のスタッフとうまくいかないなどの不安を覚えている様子であった。そこで被告Xは、同年12月11日、午後11時過ぎ頃、電話で了承を得た上原告宅を訪問し、酒を飲みながら雑談したところ、原告が異性の話題を持ち出したことから、好意を寄せられていると思い、原告にキスをし、身体に触ると、原告も被告の性器を触るなどし、合意の上で性交渉を持った。また、同月20日、原告は被告Yとおでん屋で飲食し、その後被告Y宅で酒を飲み、合意の上で性交渉を持ち、そのまま被告Y宅に宿泊した。更に、同月下旬頃夜、被告Xは了承を得た上でコンドームを買って原告宅を訪問し、合意の上で性交渉を持った。平成20年1月上旬、原告は先輩から既婚者である被告Xとの交際を止めるよう忠告され、被告Xに対し、被告Yとの性的関係を伝えたところ、以後被告Xは原告に連絡することはなくなった。
原告は、平成20年4月から被告会社の正社員になる予定であったが、その予定を早められ、同年1月中旬から正社員となったが、原告と被告Yは、同年2月、合意の上で、原告宅で週1、2回の割合で性交渉を続けた。
同年2月頃から、原告はA店の従業員の不真面目な勤務ぶりにストレスを感じるようになり、卒業旅行の扱いについて当初の話と違ったり、退職者が相次いだり、同年4月1日予定の入社式の出席について不満を持ったりしたほか、被告X及び被告Yとの関係が被告社内に広まっていたことから、実家に戻り、同年4月7日、被告Xや被告Yにセクハラを受けたことのほか、労働条件の不満を挙げ、場合によっては被告会社を訴えると通告した。原告は、同月3回にわたって被告会社会長Zと面談したが、Zから、奥さんのいる被告Xと関係を持ったのは原告に非があると言われ、結局、被告会社から生活費として50万円の支払いを受け、同年6月15日に至り、同年4月8日付けで被告会社を退職した。
原告は、被告X及び被告Yに強姦されたとして両被告の不法行為を主張するとともに、これらの不法行為が事業の執行についてなされたとして被告会社の使用者責任を主張し、被告らに対し、逸失利益7931万1677円(再就職までの逸失利益103万5908円、再就職先を休職した平成21年6月末以降43年間の逸失利益7827万5769円の合計額)、うつ病の治療費83万8940円、慰謝料1000万円、弁護士費用800万円を請求した。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 被告Xの加害行為
原告は、被告Xとの2度の性交渉について、強姦であると主張するが、原告は、1度目のときは「こういうことはだめです」「奥さんがいますよね」などと言うのみで、その他に被告Xの行為を拒絶する素振りを見せず、2度目のときは、やはり被告Xの行為を拒絶する素振りを見せていない。また、被告Xは、被告会社の代表者であったといっても、当時まだ30歳であり、23歳の原告と年齢も近く、原告らスタッフに対し送信した業務連絡のメールを見ても、社長風を吹かせるようなものではなく、そうすると、原告が、被告Xとの性交渉に同意していなかった旨の供述等は採用できない。よって、原告と被告Xとの性交渉は合意の上で行われたと認めるのが相当である。原告は、被告Xから、A店内で、Tバックを持っているかと聞かれ、太股を触られた旨主張するが、被告Xはこれを否認する上、原告の供述等は直ちに採用し難いものである。以上、被告Xの不法行為責任及び被告会社の使用者責任はいずれも認められない。
2 被告Yの加害行為
原告は、被告YはA店の店長であったから、性交渉を断れば解雇されるかも知れないなどと思った旨供述する一方、被告Yから性交渉を求められても拒絶し、性交渉に至らなかった場合もあり、そのような場合でも、被告Yから嫌がらせを受けるなどした事実は窺われないし、原告の拒絶によって性交渉に至らない場合があったのであれば、被告Yが原告の拒絶を受けてもなお強引に性交渉に及んだとも考え難い。そして、原告は、平成19年12月20日の性交渉後、翌朝の被告Yの出勤後もなお被告Y宅にいたものである。この点原告は、頭が真っ白で動けなくなり、被告Y宅にいた旨供述するが、原告宅へ帰宅するすべがないのであればともかく、そういうわけでもないのに、同意もなく性交渉された後にそのまま被告Y宅に泊まるというのは考え難い。また、原告は、同月30日、原告宅に行っても良いかという被告Yのメールに対し了承しているが、被告Yとの関係が煩わしいのであれば、眠いなどと言って断ることは十分可能であったはずである。しかも、原告は、平成20年2月頃までは、被告Yから、食事の誘い等を受けても断っておらず、被告Yが原告に送信したメールを見ても、クリスマスの夜にも原告と被告Yが会う約束をしていたことが認められるのであって、原告と被告Yが親密な男女関係にあったことが窺われる。そうすると、原告が、被告Yとの性交渉に同意していなかった旨の供述等は採用できない。よって、被告Yは、原告と性交渉を持つ前に、交際を申し込む、好きだと告白するなどの行動には出ていないが、原告と被告Yとの性交渉は合意の上で行われたと認めるのが相当である。
原告は、被告Yから、平成19年12月16日、酔って寝ていた原告の体を、服の上から触られた旨主張する。しかしながら、その後の同月20日に原告は被告Yから誘われて食事に行っているところ、仮に上記主張の事実があったのであれば、2人だけで食事に行くとは到底考え難い。そうすると、被告Yが上記行動に及んだとは認められない。以上、被告Yの不法行為責任及び被告会社の使用者責任はいずれも認められない。
3 被告会社の加害行為
被告会社会長の発言は、原告と被告Xの関係及び原告と被告Yの関係について、前記のとおりであることに照らすと、かかる発言に違法性があるとは認められない。よって、被告会社の不法行為責任は認められない。 - 適用法規・条文
- 民法709条、715条1項
- 収録文献(出典)
- 労働判例1060号30頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁−平成22年(ワ)第8627号 | 棄却(控訴) | 2012年01月31日 |
東京高裁 − 平成24年(ネ)第1342号 | 控訴一部認容・一部棄却(確定) | 2012年08月29日 |