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K社懲戒解雇等事件(パワハラ)

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
K社懲戒解雇等事件(パワハラ)
事件番号
東京地裁 − 平成22年(ワ)第32321号(時間外手当請求=甲事件)
当事者
甲事件・乙事件・丙事件原告、丁事件・戊事件被告 個人1名 A(原告A)
甲事件・乙事件・丙事件被告、丁事件原告 株式会社(被告会社)
戊事件原告 個人1名 B(原告B)
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2012年03月27日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
 被告会社は、経理事務代行等を業とする会社であり、原告A(昭和43年生)は、平成15年6月頃、被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、平成18年7月1日付けで業務第三課長に昇格した者、原告Bは被告会社の従業員で本件建物を所有している者である。被告会社では年俸制を採用しており、原告Aは、平成19年11月から平成20年10月まで年俸704万円、平成21年10月まで年俸715万円を受領し、平成22年10月まで740万円の年俸を受領することとされていた。

 原告Aは、平成19年3月頃、部下の女性職員と訪問先から帰社する際、腕を組んだり、つないだりした歩くことがあり、平成20年2月頃、被告会社の職員が原告Aの上司であるCに対し、原告Aが特定の女性に対しセクハラをし、それが原因で他の女性らの猛反発を受けている旨告げた。またCは、当該女性から、原告Aから奥さんがいないから家に来ればよい、腕をからませてなかなか帰してもらえなかった、ラブレターと共に「星の王子様」の絵本をいただいた旨記載した書面の交付を受けた。同女性は、同年4月、異動により原告Aの下を離れたが、同年5月末に被告会社を自主退職した。

 Cは、同年6月の勤務終了後、原告Aから事情聴取をしたところ、原告Aはセクハラの事実を否定した。原告Aは、同年6月27日付けで、Cに対し、女性の方から腕を組んできたこと、別れ際に混雑している地下鉄の中で背中越しに抱きついてきたこと、食事を共にした際、掘り炬燵型のスペースの中で足を絡めてきたこと、原告Aに妻がいなければ交際したい旨何度も言われたことなどを記載した書面を提出した。原告Aは、同年11月に行われた翌年度の年俸査定の場で、取締役Dから、セクハラも考慮して査定する旨告げられ、同年12月16日、課長職を解かれる旨告げられ、平成21年4月1日付けで一般職員に降格され、更に業務第一課に異動となった。原告Aは、平成21年6月、降格及び時間外手当等の不支給について労基署に相談したところ、監督官から、少なくとも時間外手当等の不支給については違法の可能性が高い旨説明を受け、被告会社は労基署の指導に基づいて36協定を締結した。その後、原告Aは平成22年度の年俸査定についてDと面談し、年俸額740万円の提示を受けたが、これを拒否した。その後も被告会社から時間外手当が支払われることはなかったところ、原告Aは労基署に時間外手当不払いを申告し、時間外手当を含む年俸である旨主張する被告会社との対立は深まった。

 Cは、平成22年7月上旬、大阪在住の原告Aの実父を訪問して面談し、原告Aの時間外手当等の問題について話し、原告Aの妻の実家の住所等を教えて欲しいと頼んだが、実父はこれを拒否したため、被告会社は同月15日、原告Aに対し懲戒解雇を告げた。

 原告Aは、労働時間はタイムカードの打刻時刻で算定すべきところ、被告会社はこれによることなく時間外手当等を支払わなかったから、これを支払うこと、付加金を支払うことなどを請求した(甲事件、丙事件)。これに対し被告会社は、原告Aに支払う年俸額には既に時間外手当等が含まれており、原告Aは課長職にあり労基法41条2号の管理監督者に該当するとして争った。また、本件懲戒解雇について、原告はセクハラ行為はなかったこと、仮にセクハラ行為に当たるとしても、既にそれを理由に降格処分を受けているから、重ねて懲戒解雇することは二重処分に当たり許されないこと、被告会社の評価を貶める言動をした事実はないこと、労働基準監督署に虚偽の事実を申告したことはないことなどを主張し、本件懲戒解雇の無効による従業員の地位確認及び賃金の支払い並びに精神的苦痛に対する慰謝料等330万円の支払を請求した(乙事件)。

 他方、被告会社は、原告Aが顧問先企業に対し被告会社を貶める発言をしたこと、部下女性に対するセクハラ行為を行ったこと、Cの自宅に突然残業代を請求する内容証明郵便を送りつけ、労基署に被告会社が賃金を支払わないと虚偽の事実を公言したこと、本件懲戒解雇に当たり、業務上貸与していたUSBメモリの返却を求めたところ、原告Aはこれを紛失したとして返却を拒否したこと、本件懲戒解雇後担当会社に連絡を取らないよう伝えたにもかかわらず、これを無視し、担当先企業に本件懲戒解雇の事実を伝えたこと、過剰な交通費の精算を受けていたことなど、被告会社の名誉を毀損し損害を与えたとして、330万円の損害賠償を請求した(丁事件)。更に原告Bは、自己の所有する家屋を社宅として原告Aに貸与していたところ、原告Aが懲戒解雇から半年以上経過しても不法に占有を続けているとして、その返還を求めた(戊事件)。
主文
1 甲事件・乙事件・丙事件原告、丁事件・戊事件被告Aが、甲事件・乙事件・丙事件被告、丁事件原告会社に対し雇用上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 甲事件・乙事件・丙事件被告、丁事件原告会社は、甲事件・乙事件・丙事件原告、丁事件・戊事件被告Aに対し、756万1544円及びうち別表2「時間外労働等時間及びこれに対する賃金一覧表」の「認容額」欄の各月分金額に対する「遅延損害金起算点」欄の各月分の金額に対する」「遅延損害起算点」欄の各日からそれぞれ支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。

3 甲事件・乙事件・丙事件被告、丁事件原告会社は、甲事件・乙事件・丙事件原告A、丁事件・戊事件被告Aに対し、51万3334円並びに平成22年12月から本判決確定の日まで、毎月25日限り月額44万円の割合による金員及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。

4 甲事件・乙事件・丙事件被告、丁事件原告会社は、甲事件・乙事件・丙事件原告、丁事件・戊事件被告Aに対し、平成22年9月から本判決確定の日まで、名年12月16日限り87万円、毎年3月15日限り40万円、毎年7月15日限り85万円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。

5 甲事件・乙事件・丙事件被告、丁事件原告会社は、甲事件・乙事件・丙事件原告、丁事件・戊事件被告Aに対し、33万円及びこれに対する平成22年7月16日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

6 甲事件・乙事件・丙事件被告、丁事件原告会社は、甲事件・乙事件・丙事件原告、丁事件・戊事件被告Aに対し、192万9608円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

7 甲事件・乙事件・丙事件原告、丁事件・戊事件被告Aは、甲事件・乙事件・丙事件被告、丁事件原告会社に対し、33万円及びこれに対する平成23年4月27日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

8 戊事件原告Bの戊事件請求を棄却する。

9 甲事件・乙事件・丙事件原告、丁事件・戊事件被告Aのその余の甲事件請求、乙事件請求及び丙事件請求をいずれも棄却する。

10甲事件・乙事件・丙事件被告、丁事件原告会社のその余の丁事件請求を棄却する。

11訴訟費用は、これを20分し、その18を甲事件・乙事件・丙事件被告、丁事件原告会社の負担とし、その1を戊事件原告Bの負担とし、その余を甲事件・乙事件・丙事件原告、丁事件・戊事件被告Aの負担とする。

12 この判決は、第2項ないし第5項及び第7項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 原告Aの時間外労働等の有無及びその時間数

 タイムカードの記載はほぼ正確なものと認められるところ、原告Aの労働時間については、その記載に基づいて認定されるのが相当である。

2 原告Aに支給される賃金に時間外手当等を含むという合意の存否及びその効力

 被告会社は、原告Aとの間で年俸額に時間外手当等を含む合意をしていると主張するが、原告Aの採用時に作成された書面にもそのような記載がなかったし、就業規則、賃金規程等にもその旨を明示した定めは一切存しないことからすれば、被告会社の経営陣側に、年俸額に時間外手当等を含めたいという意思があったとしても、原告Aらに対しそれを明確に伝えていたかどうか疑問があるし、具体的に何時間分の時間外手当等をそこに含めるのかについても明らかではない。また、仮に被告会社が主張するとおり、年俸額に時間外手当等を含むという合意がなされていたとしても、そのような合意が労働基準法37条の趣旨に反しない有効なものと認められるには、少なくとも、当該年俸額のうち、時間外手当等に当たる部分が明確に区分されて合意されていることが必要と解される。しかるに、本件における年俸額についてはそのような区別は全くなされておらず、何時間分の時間外労働等を含む趣旨であるのか全く判別できないものであるから、労働基準法37条の趣旨に照らし、かような合意については無効と解すほかはない。

3 被告Aの時間外手当等の金額

 一般に賞与については、「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」であるとして、割増賃金算定の基礎賃金に含まないとされるが、ここでいう賞与とは、支給額があらかじめ確定されていないものをいい、支給額が確定しているものについては除外賃金に含まれないと解される。しかるところ、原告Aに対する賞与は、支給額があらかじめ確定されているということができるから、上記除外賃金には含まれないというべきである。したがって、原告Aの時間外手当等算定の基礎賃金額は、年俸額を12で除した金額となる。

4 原告Aが管理監督者に当たるか

 労働基準法41条2号の管理監督者が、時間外手当等支給の対象外とされるのは、当該労働者が、労務管理について経営者と一体的な立場にあり、労働時間、休日等の規制を超えて活動することを要請されてもやむを得ない重要な職務や権限を付与されていることを前提に、賃金等の待遇及び勤務態様の面においても、他の一般労働者に比べてその職務や権限に見合った十分な優遇措置が講じられているのであれば、厳格な労働時間等の規制を行わなくても、その保護に欠けることはないという趣旨に出たものと考えられる。したがって、管理監督者に該当するというためには、単に管理職であるだけで足りないことはもとより当然であって、その業務の態様、与えられた権原、労働時間に対する裁量、待遇等を実質的にみて、上記のような労基法の趣旨が充足されるような立場であるかが検討されなければならない。原告Aについては、その業務は一般的・現業的な業務であって管理監督者にふさわしい職務上の権原、責任を有していたということはできず、かつタイムカードで労働時間を管理されるなど労働時間に関する裁量を有していたということもできないから、原告Aが管理監督者に当たるということはできない。

5 被告会社に付加金の支払を命ずべきか

 被告会社が、時間外手当等の支払義務が生じていることを認識しつつ、あえて不払いを継続してきたと認めるのが相当である。そして、このようなCの考え方は、本件訴訟提起前に原告Aが労基署に不払いを申告した後も、本件訴訟において当裁判所からその違法性を示唆されるまで変わることはなかったもので、その不払いの悪質性は顕著といわざるを得ない。したがって、被告会社には付加金の支払いを命ずべきであるが、他方で、1)原告Aの待遇は相当に良かったと認められること、2)被告会社では、季節による繁閑の差が激しく、極めて忙しい時期もある一方で、かなり時間外労働の少ない時期も存すること、3)原告Aの時間外手当等の基礎賃金単価は約4000円と極めて高く、満額の付加金を課することには躊躇を覚えるところもある。以上のような点を考慮して、被告会社に対しては、付加金として、本件訴訟提起時点(平成22年8月25日)で労基法114条所定の2年の除斥期間を経過していない平成20年8月分以降に発生した時間外手当等の総額385万9216円の半額の支払いを命ずることとする。

6 本件懲戒解雇の効力について

 使用者による懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが、就業規則所定の懲戒事由該当事実が存在する場合であっても、具体的状況に照らし、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くと認められる場合には権利の濫用に当たるものとして無効になると解される。

 被告会社は、原告Aが部下の事情を一切考慮せずにスケジュールを入れたり、部下の意見を一切聞き入れないなど、協調性に欠けた言動を繰り返したと主張するが、日時、相手方等の特定が全くされておらず、内容自体も抽象的であって、懲戒解雇事由としては失当といわざるを得ない。被告会社は、原告Aが平成19年頃、顧問先会社の社長に対し、被告会社の評価を著しく貶めたと主張するが、原告Aはこの発言を否定するところ、この事実を裏付ける証拠もなく、この発言がされたという顧問先企業の特定もなされていないから、原告Aの上記発言を認めるには足りない。

 原告Aが弁明するように、女性職員が一方的に原告Aに好意を抱いたというのであれば、原告Aとしては当該女性と2人きりになるのを避けるのが通常であろうが、そのような状況は何ら窺われない。また、当時当該女性には交際していた男性がいたことや、平成19年6月に退職していること、原告AがCに対し提出すると述べた女性職員からのメールを結局提出することができなかったことなどに照らすと、原告の上記弁明には疑問を容れる余地が多い。しかしながら、被告会社は、平成20年6月に原告Aから事情聴取し、その弁明が記載された書面の提出を受けた後、何らの事実調査も行うことなく、このセクハラ行為を理由として、原告Aに対し、約2年間も何らの懲戒処分を行うことがなかった。むしろ、Cとしては、当時、原告Aのセクハラに関し、相当程度の疑いを抱きつつも、これを表面化させることを回避し、他方で、原告Aを課長職から解任することで、社内にくすぶる不満を収めようとしてきたものであるが、平成22年に入って、原告Aからの時間外手当等の請求をされたことに立腹して、この点を再度問題として取り上げることとしたものと錐認される。

 以上のような事情を考慮すれば、仮にこのセクハラの事実が認定できるとしても、処分が遅延する格別の理由もないにもかかわらず約2年も経過した後に懲戒解雇という極めて重い処分を行うことは、明らかに時機を失しているということができる上、上記課長職からの解任との関連でいえば、二重処分のきらいがあることも否定できないところであって、これを本件懲戒解雇の理由とすることには問題があるといわざるを得ない。

 原告Aが平成21年度の年俸通知書の受領を拒否したこと、Cの自宅に残業代請求書を送付したこと、監査役から通勤経路について質問されたのに対し、監査役はどのような職制にあるかなどと質問したこと、遠回りのルートで担当顧問先を訪問していたこと、Cが親族の下まで訪問するのではないかと恐れて緊急連絡先を開示しなかったことなどは、いずれも懲戒解雇の理由にするのは相当でない。

 以上のとおり、被告会社主張に係る本件懲戒解雇事由については、いずれもその事実自体を認めることができないか、もしくはその客観的事実を認めることができても、懲戒解雇事由に相当する程悪質とはいえないか、懲戒解雇事由として取り上げるのは相当でない事由である。そして、後者の客観的事実自体を認めることができる各事実を併せて考慮したとしても、未だ懲戒解雇の理由としては十分ではないというべきである。したがって、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会的にも相当とは認められないものであるから、懲戒権の濫用に当たり、無効というべきである。したがって、原告Aの乙事件における地位確認請求及び解雇後の賃金請求については、いずれも理由がある。

7 被告会社の不法行為責任の有無及び損害について

 Cは、本件懲戒解雇により違法に原告Aの権利を侵害したというほかない。しかしながら、他方で、本件懲戒解雇は無効と認められ、同解雇後の賃金請求権を認められているのであるから、これにより原告Aの経済的損失は填補されているというべきであって、それ以上に、本件懲戒解雇を不法行為として認めなければならない特段の事情は窺われない。

 他方、本件懲戒庫に至る過程で、Cは平成22年4月ないし5月にかけて2度にわたり、夜間予告なく原告の自宅を訪問したのみならず、同年7月には予告なく原告の実父を訪問するという常軌を逸した行為に出ているもので、これらが原告Aの時間外手当請求の阻止という目的に出た違法な行為であることは明らかであるから、被告会社は、会社法350条、民法709条により、原告Aに生じた損害について賠償すべき責任を負う。上記Cの行為により原告Aが精神的苦痛を被ったことは明らかであるところ、この精神的苦痛に対する慰謝料としては30万円、弁護士費用としては3万円が相当である。

8 原告Aの不法行為責任、債務不履行責任の有無について

 原告Aの顧問先における言動、時間外手当等に関しC宅に残業代請求書を送付した行為及び労基署への申告行為並びに交通費の精算に関し監査役Dに反抗的な内容のメールを送信した行為については、いずれもその事実を認めることができないか、違法行為とは認められないものであって、被告会社に対する不法行為ないし債務不履行とはなり得ない。

 原告Aのセクハラ行為の事実を認めることができたとしても、当該女性職員自身の損害はともかくとして、上記行為と被告会社が被ったとする損害との間には、相当因果関係がないといわざるを得ないから、同セクハラ行為を理由とする被告会社の損害賠償請求についても理由がない。

 被告会社は、原告Aが本件懲戒解雇後、被告会社からの説明に先んじて担当顧問先に同解雇の事実を伝えたことを、被告会社に対する不法行為と主張する。しかし、原告Aは本件懲戒解雇当日、同顧問先を訪問することになっていたことから、同社側から事情説明を強く求められたのに対して本件懲戒解雇の事実を伝えたものであって、この点に関する被告会社の主張には理由がない。また、被告会社は、原告Aが平成22年7月、担当訪問先に電話し、被告会社を懲戒解雇になったことを伝えるとともに、アルバイトをさせて欲しい旨社長に懇願しているところ、これは営業妨害に他ならないと主張する。しかし、原告Aの当該行為が営業妨害の意図に出たものであることを裏付ける証拠は存しないから、この点に関する被告会社の主張には理由がない。他方、原告Aが業務上のデータが記録されたUSBメモリを紛失したことについては、情報流出はもとより被告会社の信用を喪失させる危険性のある行為であって、被告会社に対する不法行為に当たる。

9 被告会社の被った損害について

 原告Aが被告会社の業務上のデータが記録されたUSBメモリを紛失したことは被告会社に対する不法行為に該当し、原告Aは、これにより被告会社に生じた損害について賠償すべき責任を負う。現時点においては、将来的な流出の危険性にさらされるという被告会社のリスクを無形の損害として評価する他ないところ、諸般の事情を考慮すれば、上記紛失による被告会社の損害は、USBメモリ自体の価格も含めて、30万円と認めるのが相当であり、弁護士費用は3万円と認めるのが相当である。

10 被告Aが本件建物の占有権原を喪失したか否かについて

 以上のとおり、本件懲戒解雇は無効であり、原告Aは被告会社の従業員としての地位を失っていないことになるから、従業員の社宅としての目的を有する本件賃貸借契約は終了していない。したがって、原告Aは、原告Bとの関係において適法な賃借人として地位を失っておらず、適法な占有権限を有することになる。
適用法規・条文
民法709条、会社法350条、労働契約法15条、労働基準法37条、41条、114条、115条
収録文献(出典)
労働判例1053号64頁
その他特記事項
本件は控訴された。