判例データベース
不動産会社女性事務員退職事件(パワハラ)
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 不動産会社女性事務員退職事件(パワハラ)
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成23年(ワ)第12533号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社C
個人2名 A、B - 業種
- 建設業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2012年11月29日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告会社は、平成21年8月に設立された不動産の売買、賃貸、管理等を業とする株式会社、被告Aは同社を設立した代表取締役、被告Bは被告Aとともに同社を設立した専務取締役であり、原告は、被告Aと高校の同級生の女性で、被告会社設立時から正社員として雇用され勤務していた。
被告Aは、平成22年1月頃から、原告に対し、「アホ」、「ボケ」、「カス」、「死ね」などの暴言を繰り返すようになり、「やる気がないなら帰れ」などと怒鳴りつけたりするほか、休日に自宅に電話を架けて拘束する、休暇を申し出てもこれを妨害するなどした。原告は
被告Aに送るべき被告会社の経理情報が記載された電子メールを誤って顧客に送信した(本件誤送信)ため、平成22年7月から9月まで、基本給を23万円から20万円に減額された(本件減給)。原告は、同年9月、被告Aに対し退職したいと申し出、同被告もそれを了承して新たな事務員を採用したが、結局原告は退職しなかった。
原告は、平成23年6月頃、被告Bに対し退職の意思を示し、同月29日、同被告は原告の自動車免許の更新に付き添った後、夕食を共にし、更にバーで飲酒しながら仕事の話をしたが、その際被告Bは「あかん、惚れてしまうわ」と言うなどして原告に交際を申し入れ、原告がこれを断ると、「明日から会社に来るな」、「お前は首や」などと解雇をちらつかせて更に原告に交際を迫った。そして、翌日も、被告Bは出勤した原告に対し「付き合ってくれへんか」、「お金の面倒も見てやる」などと交際を迫り、原告がこれを拒否すると、交際と退職の二者択一を迫ったことから、原告は退職の意思表示をした。
原告が退職する旨述べた後、被告Aは事情を聞く姿勢を見せたが、被告Bが説明すると、被告Aは原告の主張を嘘と断じ、解雇を通告した。これについて原告は、本件解雇は、客観的な理由を欠き、社会通念上相当とは認められないから無効であるとして、時間外・休日出勤手当を含む賃金の支払いを請求するとともに、被告Aのパワハラ、被告Bのセクハラにより精神的苦痛を受けたとして、各100万円の慰謝料を請求した。
これに対し被告らは、原告は被告Aの高校時代の同級生であることから、職場において被告Aに対し友達のように接し、出勤もルーズであるなどの問題があることから必要な注意をしたもので、パワハラには当たらないこと、被告Bが原告に交際を迫った事実はないこと、原告は自ら退職を申し出たもので、解雇ではないことを主張し、全面的に争った。 - 主文
- 1 被告会社と被告Aは、原告に対し、連帯して30万円及びこれに対する平成23年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告会社と被告Bは、原告に対し、連帯して30万円及びこれに対する平成23年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告会社は、原告に対し、69万2240円並びに内67万6760円に対する平成23年7月1日から、内1万5480円に対する同月26日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、原告に生じた費用の5分の1と被告会社に生じた費用の10分の3を被告会社の負担とし、原告に生じた費用の20分の1と被告Aに生じた費用の10分の3を被告Aの負担とし、原告に生じた費用の20分の1と被告Bに生じた10分の3を被告Bの負担とし、原告及び被告らに生じたその余の費用はいずれも原告の負担とする。
6 この判決は、第1項ないし第3項に限り、仮に執行することが出来る。 - 判決要旨
- 1 被告Aのパワハラの有無について
被告Aが原告に送信したメールにも、同被告が原告に乱暴な口調や解雇をちらつかせたりして命令したり、行き過ぎた表現でミスを責めているものがみられるなど、原告の供述を裏付ける事実が認められるのに対して、それを否定する被告Aや同Bの各供述は直ちには採用することができないことや、本件減給分の9万円を後に原告に支払っていることなどを総合考慮すれば、原告の前記主張は主要な点について認めることができる。
2 被告Bのセクハラの有無について
原告が供述している内容は、具体的かつ詳細であり、本件解雇後約1ヶ月後から一貫して主張していることが認められる上、原告が被告Bと仕事以外の連絡を取るようになった経緯や、本件解雇されたと主張する日の前日に被告Bと一緒に食事するなどの経緯、翌日も出勤するや被告Bから呼び出されたことなど、主要な点は被告Bにおいても認めている。そして、原告において、むしろ退職を相談し、それに親身に乗っていた被告Bのセクハラを捏造して同被告を窮地に追いやる動機も特段認められないのに対して、セクハラを否定する被告Bの供述は直ちには採用できないことからすれば、原告の供述は概ね信用することができる。
確かに、被告Bが主張するように、それ以前に何ら交際していなかったにもかかわらず、被告Bが原告に対して妻と別れるから付き合ってくれと交際を迫ったとするのは、性急で唐突な感は拭えない上、冷静に考えれば、解雇で脅して交際を持ち掛けたからといって、通常は逆効果になると思われるが、朝から2人で終始行動を共にし、夕食後2件のバーを梯子するなどして親身に相談に乗っていたことが認められるのであるから、そうするにつれて思いが募り、原告に交際を求める余り、飲酒の影響も相まって無責任なことを言うこともあり得るというべきであるし、被告Bの交際要請を断った原告が被告会社を辞めると表明した以上、思いが断ち切れなくて翌日の更に交際を迫ることがあり得ないとまではいえないから、被告Bが指摘する点から直ちに原告の供述が信用できないとはいえない。
3 本件解雇の有無について
原告の供述は信用できるので、被告Bの原告に対するセクハラが認定でき、その後、原告からその旨の報告を受けた被告Aはそれを信じられず、立腹して本件解雇を行ったことが認められる。被告Aは、本件解雇を否定し、原告が自ら退職を申し出たにすぎないと主張するが、そうであれば、その際退職届を提出させて然るべきであるが、退職届を提出させていないし、原告は私物の整理もしないまま直ぐに退社していること、また、その後2週間余り経過した後になって、被告会社は初めて原告に退職届を送付して、原告はそれを提出していないこと、被告会社は原告の要請に応じて事業主都合による離職を理由として離職票を公共職業安定所に提出していることが認められるが、それは被告の主張に整合しないというべきであるし、原告においても損害賠償を請求する必要もないというべきである。したがって、被告Aの供述は直ちに採用することができない。
これによると、原告は被告会社から本件解雇をされたことが認められ、しかも、その原因は、被告Bから自分と交際するか被告会社を退職するかとの二者択一を執拗に迫られた結果、原告が退職の選択をし、その一部始終を被告Aに報告したところ、本件解雇をされたというものであって、原告が解雇されなければならない理由は何らないことは明らかである。たとえ、被告Aにおいて、原告の被告Bに関する報告は嘘だと思ったとしても、そのように断定するだけの客観的な根拠があるわけではないから、事業主である被告Aは、まず事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認するために、当事者の原告と被告B双方から事実関係について充分聴取した上で、いずれの主張が信用できるか慎重に検討すべきである。にもかかわらず、被告Aは、はなから原告の被害申告が虚偽であると決めつけているのであって、被告Aには重過失があることは明らかであるから、本件解雇は違法というべきである。
4 原告の損害賠償の有無及び額について
原告は、被告Aから違法なパワハラを受けたと認めることができ、それによって原告が受けた精神的損害は、少なくとも30万円とするのが相当である。この点原告は、被告Aからのパワハラ行為によって円形脱毛症になったと主張し、その裏付けとして診断書を提出するが、その診断書の記載上からは円形脱毛症の原因が何かは明らかではなく、原告の供述を裏付けるカルテ等の提出もないから、原告が円形脱毛症に罹患したことが認められるとしても、そこから直ちに被告Aのパワハラ行為と原告の円形脱毛症との間に相当因果関係を認めるには足りない。原告は、被告Bから違法なセクハラを受けたと認めることができ、それによって原告が受けた精神的損害は、少なくとも30万円とするのが相当である。
上記認定のとおり、原告は、被告Aから違法な本件解雇を受けたと認めることができる。反面、原告は、平成22年9月に退職を申し入れた後はずっと被告会社を何時辞めようかと考えており、被告Bにも継続して相談していることが認められる上、原告は平成22年度一杯で退職する予定だと供述する一方で、本件解雇後、平成23年8月初めに転居し、息子の小学校の転入手続もとっていることが認められることからすれば、原告は、同月以降、被告会社に労務を提供する意思を喪失したというべきで、本件解雇による逸失利益は平成23年7月の1ヶ月分というべきであるが、原告が被告会社から解雇予告手当24万円の支払を受けたことにより、実質的には補填されているというべきである。したがって、原告の本件解雇による逸失利益の損害賠償請求は理由がない。
5 原告の時間外労働の有無について
本件タイムカードは原告が作成したものとは認め難く、その提出時期(再三原告が提示を請求するも、被告会社は見当たらないとして拒否していたにもかかわらず、本件訴えを提起された後になって提出された)をも併せ考慮すると、本件タイムカードは、被告会社が原告の時間外労働割増賃金の請求を排斥するために被告会社において事後的に作成されたものである蓋然性を否定できず、このことは、原告が一定の時間外労働を行っていたことを推認させるというべきである。
以上によれば、原告がしばしば残業していたことは認められるというべきであるが、各労働日についてどのような業務を行ったかについて具体的に供述しているわけではないこと、平成22年4月以降、原告の所定労働時間が他の事務員と同様、午前10時から午後6時半(休憩1時間)に変更されたと認められるが、その間は平均して退勤時刻が午後9時であったと供述等していること、また原告は遅刻をしたことがあったが、遅刻や早退をしても給料は減額されなかったことが認められる。
以上の事実を総合考慮し、確実に推認できる範囲で認定すれば、原告は、少なくとも各労働日に1日の法定労働時間を超えて平均1時間残業したことを認めることができる。そうすると、平成22年1月から平成23年1月までは、基礎賃金1483円×所定労働日268日×1.25=49万6805円、平成23年2月から6月まで、1548円×101日×1.25=19万5435円の範囲内で原告の時間外割増賃金請求は理由がある。 - 適用法規・条文
- 民法709条、会社法350条、労働基準法20条、37条1項
- 収録文献(出典)
- 労働判例1068号59頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|