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Y社事件(上告)

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
Y社事件(上告)
事件番号
最高裁 − 平成26年(受)第1310号
当事者
原告…個人2名、被告…株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2015年02月26日
判決決定区分
原判決中上告敗訴部分を棄却
事件の概要
 水族館の経営等を目的とするY社(一審被告、二審上告人)の男性従業員であるX1とX2(一審原告、二審被上告人)は、当社女性従員であるAに対して性的暴言を1年余りにわたって繰り返していた。例えばAが清算室において1人で勤務している際、「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん」、「でも俺の性欲は年々増すねん」。「いくつになったん」、「もうそんな歳になったん。結婚もしないでこんな所で何してんの。親泣くで」などと言った。

 Y社は2011年(平成23年)12月、AらからX1らから以上のようなセクハラ行為等を受けた旨の申告を受け、X1らから事情聴取等を行ったうえで、X1らに対しそれぞれ2012年(平成24年)2月17日付で出勤停止の懲戒処分をした。さらにY社は2012年2月23日に審査会を開いた上で懲戒処分を受けたことを理由としてX1らを下位の等級に降格させ、これによりX1らは給与及び賞与の減額等を受けた。これに対し、X1らは、これらの懲戒処分は懲戒事由の事実を欠き又は懲戒権を濫用したものとして無効であり、上記降格もまた無効であるなどと主張して、上記出勤停止処分の無効確認や上記降格前の等級を有する地位にあることの確認等を求めて提訴した。

 第一審(大阪地判平25・9・6労判1099号53頁)は、懲戒処分等を有効としてX1らの請求を棄却した。控訴審(〔原審〕大阪高判平成26・3・28)は、1)X1らはAからX1らの本件各行為に対する明確な拒否の姿勢を示されておらず、このような発言もAから許されていると誤信していたこと、2)X1らは本件各行為についてY社から事前に警告や注意等を受けていなかったことなどを考慮すると、懲戒解雇に次いで重い出勤停止処分を行うことは酷に過ぎるというべきであり、本件各処分はその対象となる行為の性質、態様に照らして重きに失し、社会通念上相当とは認められず、権利の濫用であり無効であるとして、第一審判決を変更し、X1らの請求を一部容認した。これを受けてY社が上告した。
主文
1 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
2 前項の部分につき、被上告人らの控訴を棄却する。
3 控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。
判決要旨
 X1は職場における責任者の立場にありながらAに対して極めて露骨で卑猥な発言等を繰り返し、またX2は上司から女性従業員に対する言動に気を付けるように注意されていたのにもかかわらず、Aらに対して著しく侮蔑的ないし下品な言辞で侮辱し又は困惑させる発言を繰り返したものである。このように、同一部署内において勤務していたAらに対し、X1らが一年余りにわたり繰り返していた上記の発言等は、いずれもAらに対して強い不快感や嫌悪感、侮辱感を与えるもので、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであり、その執務環境を著しく害するものであった。

 さらにY社では職場におけるセクハラ防止を重要課題と位置づけ、セクハラ禁止文書(「セクシュアルハラスメントは許しません!!」と題する文章)を作成し(2010年[平成22年]11月)これを従業員らに周知させるとともに、セクハラに関する研修への参加を従業員に義務付けるなど、セクハラ防止のために種々の取組を行っていたのであり、X1らは、上記の研修を受けていたのみならず、管理職としてY社の方針や取組を十分に理解し、セクハラ防止のために部下職員を指導すべき立場にあったにもかかわらず、多数回のセクハラ行為を繰り返したものであって、その職務や責務に照らしても著しく不適切なものと言える。

 そしてAはX1らの行為が一因となってY社での勤務を辞めることを余儀なくされており、X1らの行為がY社の企業秩序や職場規律に及ぼした影響は看過しがたい。

 原審は1)をX1らに有利な事情として斟酌するが、職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心ではこれに著しい不快感や嫌悪感を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗、会社に対する申告を差し控えたり躊躇することが少なくないことや、上記のようなX1らによる本件各行為の内容等に照らせば、仮に上記のような斟酌があったとしても、そのことをもってX1らに有利に斟酌することは相当ではない。

 また、原審は2)をもX1らに有利な事情として斟酌するが、Y社の管理職であるX1らにおいて、セクハラ防止や懲戒等に関する同社の方針や取組を当然に認識すべきであったといえ、さらにAらがY社に対して被害の申告に及ぶまで1年余にわたりX1らが本件各行為を継続していたことや、本件各行為の多くが第三者のいない状況でなされており、Aが被害を申告する前の時点でY社がこれらの事実を具体的に認識して警告や注意をし得る機会があったとはうかがわれないことからすれば、X1らが懲戒を受ける前の経緯についてX1らに有利に斟酌し得る事情があるとはいえない。
 以上により、本件各行為を懲戒事由とする各出勤停止処分は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合に当たるとは言えず、Y社において懲戒権を濫用したものとはいえず、有効なものというべきである。また、懲戒処分に次いで重い懲戒処分として上記の通り有効な出勤停止処分を受けていることからすれば、X1ら1に対する降格処分もまた有効である。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例1109号5頁
その他特記事項