判例データベース
Y社事件(地裁)
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- Y社事件(地裁)
- 事件番号
- 横浜地裁 平成26年(ワ)第1458号
- 当事者
- 原告…個人、被告…株式会社
- 業種
- 情報サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2015年10月15日
- 判決決定区分
- 一部容認、一部棄却
- 事件の概要
- Y(被告)は、テレマーケティング業務の企画・実施、NTT及びその関係会社の委託による電話番号案内の自宅業務等を目的とする1986(昭和61)年設立の株式会社である。X(原告)は1998(平成10)年6月、Yにパートタイム社員として入社し、電話番号案内業務(以下、「104」業務とする。)。に従事していた労働者である。XはYとの間で15年7カ月にわたり期間1年または3カ月の雇用契約を約17回更新してきた。
YのAセンター所長B(以下、「B所長」とする。)は、2013(平成25)年11月28日、Xに対し、Xの成績不良を理由に、同年12月31日をもって期間満了により雇用契約を終了し、雇用契約の更新はしない旨の雇止め(以下、「本件雇止め」とする。)を口頭で告げた。
さらにB所長は、Xに対し、YがCセンターで行っている104業務以外の業務を紹介することができる旨を伝えたが、Xはその提案を拒否し、B所長に対し、雇止め理由書の交付を求めた。Yは2013年11月29日、Xに対し、雇止め通知及び雇止め理由証明書を交付し、同理由書には「あなたが従事されていた番号案内業務については、104トラヒックが毎年減少する中、…個人技能向上のための個別指導PDCAを行ってきたが、一定の成果をあげられない状況であった。」「ついては、本業務を遂行する能力が十分ではないと認められるため、契約期間満了で更新しないこととした。」と記されていた。
2013年12月9日、B所長はXに対し、本件雇止めについて再度説明したが、Xは納得せず、同月18日、Yに対し、雇用契約の更新を改めて申し込む旨書面で通知し、就労を受け入れるよう求めた。しかし、Yから、同月27日付で上記雇止め理由証明書と同内容の回答をされ、同月末日、Xは本件雇止めとされた。
Xは、2014(平成26)年2月5日、本件雇止めが無効であるとして労働契約上の地位確認等を求める労働審判を申し立てた。労働審判委員会は、同年4月7日、Yによる本件雇止めの撤回、XのY社都合による退職の確認、YからXに対する解決金140万円の支払いを主な内容とする審判をしたが、Yは同月15日に異議を申し立て、上記労働審判手続きは本件訴訟に移行した。
本件の争点は、主に(1)労働契約法19条の適用の有無、(2)本件雇止めの有効性である。 - 主文
- 1 Xが、Yに対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 Yは、Xに対し、平成26年2月20日から本判決確定日まで、毎月20日限り22万0816円及びこれらに対する各支払日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 Xのその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はYの負担とする。 - 判決要旨
- (1)について。Xが従事してきた104業務は、受託業務の中でも長く受託されてきた業務であり、規模が縮小しているとはいえ、Yの恒常的・基幹的業務であると認められる。また、Yでは有期雇用社員が社員全体の9割を占めていること、Xは賃金が低くパートタイム社員と扱われているが、一般の常用労働者とほぼ変わらない勤務条件で勤務していたものと認められる。さらに、Xの雇用契約更新状況をみると、約17回の更新を経て勤続年数が15年7カ月に及んでおり、更新手続は、契約期間満了前後にロッカーに配布される雇用契約書に署名捺印しこれを提出するというごく形式的なものであり、形骸化していたと言わざるを得ない。この点、B所長は更改の際に面談等をしていたと証言するが、その内容は具体性を欠いており、信用できない。
以上に鑑みれば、本件雇止めは、期間の定めのない雇用契約における解雇と社会通念上同視できると認めるのが相当であり、したがって、X・Y間の雇用契約は労働契約法19条1号に該当すると認め、本件雇止めについては、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないか否かを判断する。
(2)について。Yは、本件雇止めがYの業務上の理由によるものであると主張しており、実質的な整理解雇があったと認められる。そこで本件では、実質的な整理解雇として、いわゆる4要素とされる人員削減の必要性、雇止め回避努力、人選の合理性、手続の相当性を順次検討した上で、その結果を総合的に考慮することとする。
この点、本件雇止めは、人員削減の必要性の点において客観的に合理的な理由あるいは社会通念上の相当性の要件充足度の程度が弱く、これを補完するに足りる程度の手厚い雇止め回避努力がされたとは言えず、人選の合理性、手続の相当性も不十分であったと認められるから、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない。したがって、本件雇止めは認められず、XとYは従前と同一の条件で雇用契約を更新したものとみなすことができ、Xは、Yに対し、雇用契約上の権利を有する地位にあるというべきである。 - 適用法規・条文
- 労働契約法19条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1126号5頁
- その他特記事項
- 本件においてXは未払い賃金・賞与等の支払いを求めたが、Xが雇止めされていなければ確実に支給されていたであろう手当のみ、Yに支払義務を認めるのが相当であるとされた。また、本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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