判例データベース
S社事件(地裁)
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- S社事件(地裁)
- 事件番号
- 東京地裁 平成25年(ワ)第19333号
- 当事者
- 原告…個人、被告…株式会社
- 業種
- 飲食業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2015年07月31日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 大学院生であるX(原告)は、コーヒー・軽食等の店舗内提供等を行う店舗の直接経営をする株式会社S(被告)との間で2003(平成15)年8月24日に期間を3ヶ月とする労働契約を締結し、契約の更新を繰り返して2007(平成19)年3月27日までアルバイトとして勤務した(更新14回)。その後、2008(平成20)年7月7日に再度Sとの間で期間の定めのある労働契約を締結し、契約の更新を繰り返したが(更新19回)、2013(平成25)年6月15日にSから雇止めされた(以下、「本件雇止め」という。)。
XはSから雇止めに関する説明を受けた後、東京公務公共一般労働組合(以下、「組合」という。)に相談し、2012(平成24)年4月20日、組合に加入した。組合は、同日、Sに対し、組合加入通知書並びに契約更新の回数上限導入及び2013年3月15日限りでの雇止めの撤回等を議題とする団体交渉申し入れ書を提出した。
組合とYの間の団体交渉は2012年5月から2013年1月にわたって計4回開催された。本件雇止め後、Xは、代理人を通じて2013年6月17日付け通知書を発送し、本件雇止めが無効であることを理由にXを復職させること等を求めたが、Sは同月24日付け回答書でこれを拒絶した。
これに対し、Xは、本件雇止めは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず違法であること(1)、さらに団体交渉の過程においてSは「鮮度」という言葉を用いてXら組合員らを物扱いした上で、あたかも長年勤務してきたXら組合員が新入社員に比べて「新鮮さ」に欠けて劣っているかのような発言までし、Xの人格的尊厳を著しく傷つけたとしてSの発言につき不法行為に基づく損害賠償を求め(2)、本件を提起した。 - 主文
- 1 Xの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用はXの負担とする。 - 判決要旨
- (1)について。Sにおける契約更新手続きは店長がアルバイトと個別に面談を行い、更新の可否について判断した上で、アルバイトに契約書を交付し、その作成を指示し契約更新を行っていることが認められる。そうすると、アルバイトの有期労働契約の契約更新が形骸化した事実はなく、XS間の労働契約は期間満了の都度更新されたものと認められることから、本件雇止めを「期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視」することはできず、労働契約法19条1号には該当しない。
また、労働契約法19条2号該当性について検討してみるに、SにおいてXが時間帯責任者として現場の諸問題について責任をもって処理してきたことが認められるも、店長の権限に基づき決定された具体的内容を逸脱する事項を時間帯責任者が行えるものとは通常言えず、Xの業務内容は、店長の指揮命令下で、時間帯責任者としての職責を果たしてきたとの限度で認められるものである。また、Sの4店舗で店長を経験してきたH店長(以下、「H店長」という。)は、Xの勤務頻度が低く(週1回が多く、入っても2回)、店長としての考えが伝わらないことから更新はしたくなかった等、証人の立場で供述している。そうすると、一般的には店長から雇止めされるアルバイトは少ないものの、Xについては、H店長から例外的に雇止めされるべき問題のあるアルバイトとして評価されていたことになる。この点、Sでの勤務条件に関しては、アルバイトの採用条件として最低で週2日程度、1回当たり4時間以上の勤務希望者から採用しており、更新においても同様であった。しかし、本件においては、Xの勤務頻度の低さは常態化しており、これは他のアルバイトとの掛け持ちが原因であり、Sの立場からすれば、勤務頻度が低すぎると他の店舗従業員との円滑な意思疎通を欠く結果となるし、Xが指示変更に気付かず過去のやり方のままに行動することがあれば、全体として店舗運営に支障を来すことが不可避となる。これらを総合すると、Xの雇用継続の期待は単なる主観的な期待にとどまり、同期待に合理的な理由があるとはいえないことから、労働契約法19条2号にも該当しない。
本件雇止めの有効性につき、なお検討する。Sにおいては、店長は2年毎に配置転換されるが、配置転換された店長が出す指示に対して、従前から勤務しているアルバイトが反発し、軋轢が生じる場面が多々あった。営業部門としては、店長の指示をアルバイトに徹底させる等の方策は採ったが事態の解決には至らず、そこで、2012年2月18日、アルバイトについて契約期間の上限を4年とする本件更新制限の導入がSにおいて決定された。本件更新制限の導入はSにおいて時間をかけて検討されたことが認められ、本件更新制限の合理性・相当性につき、背景事実として店長とアルバイトの軋轢があり、店長とアルバイトとの指揮命令関係に支障を来している事実が頻発しているのであれば、企業として何らかの対策を採らざるを得ず、本件更新制限は、Sの労務管理上やむなく採られた措置というほかない。そうすると、Sにおいて本件更新制限を導入することにやむを得ない事情があり、かつ、Xの勤務頻度の低さにも問題があるのであるから、本件雇止めは、客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当であると認められる。
(2)について。団体交渉の過程におけるSの発言は、一部であてつけのようにも感じる表現であるから、相当性を欠くきらいはある。しかし、本来議論は論理的に行われるべきところ、Xは、Sの述べる理由の一部の言葉をとらえて不法行為の成立を問題としていることになるが、議論全体からすればごく一部の事項であるし、理由は主張と関づけて理解されるべきものである。SにXの人格を付ける意図があったことを認めるに足る証拠がないことも考慮すると、違法な発言とまでは評価できない。 - 適用法規・条文
- 労働契約法19条1号、2号
- 収録文献(出典)
- 労働判例1121号5頁
- その他特記事項
- 本件は控訴され、2016年2月16日、東京高裁においてYがXに対して解決金を支払うという形で和解が成立した。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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